勇者でも渡り人でもないけど異世界でロリコン魔族に溺愛されてます

サイカ

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正直暇を感じていた

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「俺は急な仕事が入っている、すまんが案内はジークに任せた」

 という事で早速午前中は、ジーク様に敷地内を案内してもらう事になった。改めて考えるとここに来て一ヶ月近く経つのに城の事をほとんど知らないなんて…わたし二人に甘え過ぎ⁈「二人の役に立ちたい」なんて、どの口が⁈

 とりあえず建物の中を見て回った後庭を案内してもらう事になった。

 この建物にはあの謁見室や執務室の他に式典用の大ホールや書庫もあった。特に書庫は市民図書館かってくらい広く大きな本棚が数え切れないくらい並べられていた。また、来客用のゲストルームもいくつかあり、ジーク様とルークさんはそれぞれそのうちの一部屋を自室として使わせてもらっているらしい。

 なんでも通常、騎士さんやメイドさん達は違う建物で生活しているのだが、二人はクシェル様の側近で、いついかなる時も直ぐに駆けつけられるようにと自分から願い出たらしい。
 そして、この時初めて知ったんだけど、わたしが最初使わせてもらってた部屋は王妃様用の部屋だった!
 何でわたしが王妃様の部屋に⁈

 ジーク様曰く、今のクシェル様の部屋の次に安全だったのがその部屋だったからとのこと。


 庭には大きな噴水があり、地下水をくみ上げているらしい。
 ここに来た頃は心に余裕が無くて気付かなかったけど、門から城に続く道を挟んでシンメトリーに手入れされた木々が並び、裏にはフレイヤ様のもの程ではないが庭園もあった。
 訓練場は離れの裏にあり、今日は遠目から場所だけを確認した。

「と、もう昼の時間だな、執務室に戻るか」
「はい、ありがとうございました」

 全ての案内が終わる頃には昼の時間を少し過ぎてしまった。少し急ぎ足で執務室に戻る。

「ただいま戻りました」
「お帰りコハク、ジーク今日はお前もこっちで食べるだろ?」
「あー」



 昼食後すぐにジーク様は溜まっていた仕事を片付けるために、足速に仕事場に向かった。
 忙しいのにわたしの案内をしてくれたのだ、申し訳無く思い、頭を下げると「俺がやりたくてやったんだ」と頭を撫でてくれた。

 ーー本当優しい!理想のお兄ちゃん!

 午後の授業は引き続き文字の勉強と、お互いに質問し合った。

「手紙はどうだった?ちゃんと書けたか?」
「はい、ちゃんと伝わったと思います」

 二人とも喜んでくれたし、クシェル様の話も聞けた。多分、わたしの伝えたかったことは二人に伝わったと思う。所々文法が怪しい所があったかもだけど。


 文字の勉強はイダル様が持って来てくれた子供用の本を読んだり、言われた文を紙に書き、分からないところは辞書で調べたり、イダル先生に聞いたりというのを繰り返している。

「大分読めるようになってきたな」
「はい、イダル先生のおかげです」

 文系がからっきしダメなわたしが、一ヶ月近くでここまで出来るようになったのは、こっちの世界の言葉を分かるようにしてくれたクシェル様と辞書や教材の内容を読んで聞かせてくれ、覚えの悪いわたしを怒ったり投げ出さず献身的に教えてくれたイダル先生のおかげだ。

「文字の勉強は今日はこの位にするか」
「はい!」

 執務室に戻る時間までまだ少しある。こんな時は互いに質問し合っている。

「今日から外に出られるらしいな」
「はい、護衛の二人には申し訳ないですが外に出られるのは嬉しいです」

 こっちの世界と元の世界で一般的な理論や礼儀に大きな違いも無かったため、勉強することもほぼないし、ここには難しい分厚い本しか無く、恋愛小説や漫画などはない為、読書をする気にはなれず、正直暇を感じていた。

「そうか、ずっと室内じゃ退屈だったろ、何かしたい事とかないのか?行きたいとことか、見たいものとか」

 イダル様は護衛の件には触れなかった。わたしの境遇を考えたら、仕方ない事だからかな?

「んー、料理がしたいかな」

 クシェル様にコロッケを作ってあげるって約束したし、その他の料理も作ってあげたいな。

 魔道具を使わずに作れるかな?

「料理が好きなのか?」
「はい下手の横好きですけどね、一応、管理栄養士目指してましたし」

 そう実は管理栄養士養成学校に合格していたのだ。だから、多少の予備知識はある。

 イダル様は「カンリエイヨウシ?」と首をひねる。口の動きと言葉が連動している。どうやらこっちには無い言葉らしい。

「管理栄養士は栄養の管理を行う人の事です。その人に合ったエネルギー量を計算したり、疾病の予防改善のための食事を考えたりするのが仕事です」

 イダル様は「…なるほど」と言いつつ眉間にしわを寄せる。いまいちピンときていないみたいだ。「管理栄養士」という言葉もないくらいだから、こっちの世界には食事に関するそういう細かい理論や概念は無いのかもしれない。
 わたしは栄養に関して知っている事を話した。
 それを真剣聞きにメモを取るイダル様。イダル様の質問に的確な答えが出せず、自分の中途半端な知識が申し訳なくなってしまった。

「……多方面から栄養に重きを置き考察し管理する、か。それが当たり前に行われている世界、敵わないな」

 こっちの世界では各栄養素の役割や生体内酵素、器官の役割について研究段階どころか、関心すらないらしい。いや、全く無いわけではないが、大まかに把握している程度らしい。食べ過ぎれば太るし、食べなければ痩せる。なんと無く主食主菜副菜は揃えた方がいいとかその程度らしい。

「まーこっちの世界には魔法って言う非科学的法則がありますから、科学的分野に関心が行きにくかったのかもしれませんね」

 こっちの世界には車や電車は無く、食品が溢れているわけでもないし、生活習慣病に成り難いだろう。怪我をしても治療魔法である程度は直せるし。

「人は必要性のないものには関心が行きにくいからな、魔道具の開発が一番進んでいるのが、人族というのがいい例か」
「そうですね、魔法が無いから人は速く移動するために車を、空を飛ぶために飛行機を、遠くの人と連絡を取るために電話を開発したわけですし」
「そんな発展した世界から来たシイナにはこの世界はさぞかし生き難いだろう」

 みんなに同じような事を言われる。
 確かにネットの無い世界では分からない事もすぐには調べられないし、馬車は車より遅いし揺れる。

「でも、この世界にしか無いものもあります」
「魔法か?しかし、シイナはーー」

 イダル様の言わんとすることは分かる。
 魔法があっても使えないのでは意味がない。むしろ魔法があるせいでわたしは不便を強いられているとも言える。

 わたしは首を横に振る。

「この世界は綺麗なものに溢れています、澄んだ空も綺麗な空気もわたしの住んでいたところには無かったものです」

 科学が発展してない故に残った自然。ビルや人工的な光も無く、あの日見た見渡す限りの満点の星空は文字通り、上だけでなく横を見ても多くの星々が輝いていたーー

 あの日の、この世界に来た時の草原にもう一度行きたい、そしてまたあの星空を見たいなぁ

 車や飛行機など化石燃料を必要とするものは廃棄物が出る。しかし、魔力という純粋なエネルギーを使うこの世界はその廃棄物が出ない。だからここはこんなにも空気が澄んでいるのかもしれない。

「無い……のか?」
「え?あ、こんなに綺麗なものはという意味です!すみません」

 決して某アニメみたいに本物の空に憧れたりしていない!
 地球のどこかにはこの世界みたいな光景もあるかもしれないけど、わたしが住んでいたところでは見られないものだ。
 わたしは夜景やイルミネーションなどの人工的なものよりも自然な風景の方が好きだ。わたし達を優しく柔らかく包む麗らかな陽気も淡く照らす星空も季節により移り変わる景色も人工的なものより遥かに美しいと思う。

「…それにわたしは皆さんが言うほどこの世界を不自由に感じてないんです」

 イダル様は再び首を傾げる。

「クシェル様やジーク様、それからイダル先生も皆んな優しい人ばかりで、わたしは幸せ者です」
「そうか……」
「はい!毎日楽しいです」

 そうわたしが笑うと、イダル先生も「なら良かった」と孫を見守るおじいちゃんのような優しい微笑みを返してくれた。



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