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《裏技》マスター、忍者の里へ行く

信徒達

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「……遅い」

 イネが、一向に帰ってこない。

「何かあったのかしら?」

「変な音は……しなかった……」

「一応、様子を見に行ってみるか」

「そうしましょ」

 俺らは先ほどのダンジョンへと向かった。

 だが、道中……

「皆んな……止まって……!」

 ニルが眉間みけんしわを寄せる。

「近くに……何人も伏せている人達がいる……」

「……マジか」

 これは、間違いなく何かあったな。

「忍者か?」

「服のこすれる音的に……違う……」

 忍者間でのトラブル、という感じではないと。

 だとしたら、やはりダンジョンの層へ続く道を直した奴らなのだろう。

 だが、何でそいつらがイネを襲っているんだ……?

 いや、待て、これはあくまで仮説なんだから、襲っているとは限らないか。

 今頃仲良くお話ししている可能性もある。

 それで、部外者が来ない様に伏兵を配置しているのかもしれないしな。

「少し、様子を見てくる」

 そう言って、【透明化】と【足音消去】を自身に掛けて、ダンジョンの元へ行く。

 途中、バレない様に周りを見てみたが、白い服を着た奴らが沢山いた。

 全員白い服着てるな……立ち上がった時、服に付いた土が目立つのは間違いないな。

『急ごう』

 小声でそう言って走る。

「ふっ!」

「「「「「ぐあぁぁ!」」」」」

 ダンジョンに着くと、先ほど伏せていた奴らと同じ服を着ている奴らが、イネの事を襲っていた。

「【麻痺付与】!」

 彼らの動きが止まる。

「な、何だ? 動きが止まった……?」

『俺だ』

 耳元でそうささやく。

「なっ!?」

『静かに、ここで俺がいるのがバレるのは不味いだろ?」

「……」

 イネは黙った。

 俺が何か言うのを待っているのだろう。

『今から質問をする。イエスならば足をずっねくれ、ノーならば一度止めてからもう一回ずってくれ』

 わずかに、コクリと頷いた。

『まず、こいつらはお前の敵だな?』

 ズリ。

『敵にリーダー、または指揮をする人がいるのは確認できたか?』

 ズリ。

『近くにいるか?』

 ズリ、ズリ。

『では遠くへ逃げた?』

 ズリ、ズリ。

『だとすると……ダンジョンの最奥?』

 ズリ。

 マジか。ダンジョンの最奥にいるのかよ……。

『コイツらの正体は分かるか?』

 ズリ。

『何だ? ……あー、違う、えっとー……前々から敵対していたか?』

 ズリ、ズリ。

『大々的に知られているか?』

 ズリ。

『……アルカニット教会?』

 ズリ。

 おいおい嘘だろ!? もうこんな所まで来たのか!

 多分俺を追ってだよな……。

『分かった。そろそろ【麻痺付与】の効果が切れる。ここはイネに任せて良いか?』

 ズリ。

 とても強い力でイネは足をずった。

『俺はそのアルカニット教のリーダーを叩いてくる。頼んだ』

 ズリ。

 そして俺はダンジョンの方へと走った。

 後ろで、イネの炎が発射される音が聞こえた。

 まあ、イネなら大丈夫だろう。

 そして俺はさらに足を速めた。

 姿は見えなくて足音も聞こえないのだから、ダンジョン内にいたモンスター達には気付かれなかった。

 だが、ドラゴンは全滅していた。

 恐らく、前のカモフラージュ状態の時と同じ状態にしたのだろう。

「ここか」

 俺は最奥へと辿り着き、辺りを見回す。

 薄暗いが、かろうじて見る事は出来る。

「ん?」

 一瞬、目眩がした。

「ほぉ、何とも奇妙な術を持っているではないか」

「!」

 奥の方から声が聞こえた。

 何故だ、何故俺の事が見えるんだ!?

 まさか……さっきの目眩……!

「【光球】!」

「【ムーブストーン】」

 光球が突如浮いた石に綺麗に囲われてしまった。

 どうやら、お相手さんは姿を見せたく無い様だ。

 だが、声的に二人いるのは分かった。

 そして、この声……インワドのNPCには無かった声だな。

 くそ、また新しいNPCか。

「貴方が、逸脱者ですか?」

 取り敢えず、何者なのか探るか。

「逸脱者……? 申し訳ありませんが、何の事か分かりません。私はただの冒険者で……失礼ですが、貴方達は?」

「私達はアルカニット教会の者です」

「アルカニット教の……!」

「そうです、逸脱者を捕らえる為にここに来ました」

「その……逸脱者というのは……?」

「貴方がよくご存知でしょう」

 まあ、さっきのあれじゃあ騙せないよなぁ。

「ですから、私には逸脱者というものが分かりません」

「じゃあ一つ聞こう」

 最初に聞こえた男の声がした。

「このダンジョンに来る時に俺らの信徒に出会ったはずだ」

「貴方方の信徒……ですか」

「ああ、会ってないか?」

「会っておりません」

「……」

「ほ、本当です! ただ私は、このダンジョンにクエストで来ただけでして……」

「ならば、そのクエストの紙を見せてみろ」

 ニヤッ、と俺は笑った。

 何せクエストの偽造など、〝簡単に出来る〟のだから。

『【創造】』

 小声でそう言い、取るふりをして後ろに回した右手に、このダンジョンを探索する様に書かれた紙を作る。

「こ、こちらです」

「投げろ」

 クルクルと丸めてポイッと優しめに投げる。

「ふむ……どう見る……?」

「この印は……本物ね」

 よし。

「どうやら、本当にただ探索しに来ただけらしいわね」

「そうです」

「これは返すわ」

 投げられたクエストの紙をキャッチする。

「信徒に会ってないのは不思議だけど、どうやら嘘は吐いていない様だし、本当にただの冒険者の様ね」

「理解して頂けて光栄です。では、私はこれにて」

「ええ」

 そして俺が振り返って、数本歩いた瞬間。

「【石刺し】」

 と、小さく聞こえた。

「っ!」

 上半身を曲げて避ける。

 先端がとんでもなく鋭利えいりな石が向こうの壁に突き刺さる。

「あら、今のを避けるの?」

「い、いきなり何をなさるのですか……?」

「もう良いわよ、普通の口調に戻したなさい」

「じゃ、じゃあ……そ、そうさせてもらうよ」

「普通の」

「えぇ? 普通の喋り方がこれなんだが……」

「嘘を吐くな。先ほどの彼女の攻撃はお前の冒険者ランクで避けられた人がいないものだ」

「……」

「やっぱり、貴方、逸脱者なのね。ほら、早くいつもの喋り方に戻して頂戴」

「……はぁー、こりゃ何言っても信じてくれそうにねぇなぁ」

「あら、やっと分かったの?」

「いやまあ、分かってはいたさ。ただ、普通に穏便おんびんに終わったら良いなってな」

「貴方が逸脱者である以上、そんな事無いのにね。【ムーブストーン】」

 後ろの出入り口が閉ざされる。

 そして奥の方の通路も崩れる音がした。

「では、彼を捕らえるとしようか」

「ええ、そうしましょ」

 そして俺は、アルカニット教の恐らくかなり強い方である二人と戦う事になった。
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