人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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変化が日々起きている事を実感するのは難しい 1

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 土曜日の朝なのに宮下の出発と言う一大イベントでもう一日が終わった気がしていた。
 縁側の暖かい場所にお昼寝マットを持って来てごろんとした瞬間先生に縁側からけり落とされてしまった。
「朝っぱらから昼寝とは言い御身分だな」
「何て言う宮下ロス。俺に優しくしてくれる人は何所……」
「先生がいるだろう」
 ドヤ顔で言うも今縁側からけり落とした奴が言う言葉ではないと思う。
「先生みたいに風呂の世話から飯の世話までしないといけない人のどこが優しいって言うんだよ。俺が癒されないだろ」
「俺の存在が無気力な人間を働かせる原動力になる、これ以上の優しさはないぞ?
 それともここを俺の家みたいにしてほしいのか?」
「なーんか働かないとなって気になって来た」
 立ち上がって埃を落せばちょうど見て居た内田さんも笑っていた。ああ、もう恥ずかしいんだからと顔を赤くしていれば浩太さんがやってきて、少し恥ずかしそうに
「篠田さんちの陸斗君。無事学校に行けましたか?」
 先生と俺に申し訳なさそうに頭を下げるのは一学期の終わり、息子の不祥事で休まなくてはいけない状況になったから、それが切っ掛けで学校に行けなくなったら申し訳ないと言う物だろう。
 小学校や中学校のように義務教育の期間は終わったのだ。学校に行けなくても卒業証書を受け取る事の出来る義務教育とは違い、高校生には出席日数と言う壁があって、それを満たさなくては卒業はおろか進級もできないのだ。息子の事で学ぶ権利を奪ってしまったらどうしようと言う顔だが
「圭斗から聞いた話だけど、やっぱり少し学校に行きづらかったみたい」
 目を見開いて俯く顔が痛々しく見えたが
「だけど下田が朝から圭斗達の家に来て一緒に学校に行けたって報告ありました」
「無事行けましたか」
 途端に泣き出しそうな顔でほっとしていた。
「圭斗から下田が自転車通学だったみたいだけど陸斗は歩きだから一緒に歩いて行ったって。
 自転車を買ってやるべきか悩んだけど陸斗は自転車に乗った事ないはずだから練習をしないとって焦ってたよあのお父さん」
「そんな所に実家の弊害か……」
「いや、この地形なら自転車の選択は厳しいだろ」
 平らが無いこの山間の村で自転車は苦行じゃないかと先生は言う。
 ああ、苦行だったさ!と頷く俺は朝バス停まで自転車で降りて帰りは押して帰るその苦痛を原付を買うまでの間しっかりと体に学ばせたのだ。三年の時には免許取って宮下の家の向かいの畑に駐車場を作ってそこまで車で移動したけど。初心者なのに四月でも雪道を走らざるを得なくってマジ怖かった。そして免許取る為に俺の車で練習する宮下と圭斗。あいつらにボコられた車は二年目で田んぼに落ちて廃車になった……ほんと崖じゃなくって田んぼで良かったと今でも思う。
「そんなわけで今日は自転車を買いに行くらしいよ。学校には自転車通学の申請したみたいだから。昨日学校帰りに葉山も来て庭で下田の自転車で早速練習したみたい」
「それは大変だな」
 大きくなると怖さも半端ないだろうと思ったけど
「圭斗が言うには一日で乗れるようになったって。
 小さな子供が覚えるより早くて安心したけどこれなら安心だって言ってた」
 十六歳になって初めての自転車に乗る様子が微笑ましく想像できてニマニマしてしまう。渡しそびれた誕生日プレゼントだと言う理由を付けて山間でも乗りやすい奴を選んでやれと言ってある。
 誕生日のプレゼント何度目だ?って突っ込まれても十六回分のストックはあると開き直る俺に聞いていた先生は呆れながらも笑ってくれた。
「それで、学校の様子はどうでしたか?」
 先生に無事学校に行けた次の行程は学校での生活だ。
「意外な事に下田と葉山が面倒見てくれてなんか面白い事になってますよ」
 意味ありげに語り始める先生の話しにいつのまにか内田さんもやって来て興味深げに耳を傾けるのだった。



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