人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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変化が日々起きている事を実感するのは難しい 3

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 数日ぶりに会った篠田はなんて言えばいいのか、大人になったと言うか、落ち着いたと言うか。大人しくはあったが。
 何時もきょどって怯えた雰囲気は無くなり、笑顔を見せるようになって声も大きな声ではっきりと聞こえ、なんか何時も薄汚れて匂うような感じだったのに清潔感に溢れ良い匂いさえしているよな気がした。
 おいおい、ちょっと待て。
 この数日間の間に何があった……
 なんか先輩達がゴリ先輩と言う篠田のお姉さん。かなり美人に連れていかれた合間に勉強をして時間を誤魔化していれば、とっくに宿題を終わらせた陸斗は綾人さんの用意したプリントで勉強をしていた。
 その内容の難しさに俺も葉山も驚く中、俺達は学校の宿題に四苦八苦する始末。
 完全に置いてかれた。
 嫉妬するもその前に
「宿題判る?それ、すごく嫌らしい問題だよね」
 俺が取りかかってる問題をそう評価するもその嫌らしささえ判らない俺がどう応えようか悩んでいる間に一枚の紙を取り出して
「その問題はね……」
 綾人さんに勉強を教えてもらった時みたいな方程式の解き方で俺達に説明してくれるのだった。
 きっとその方法で学んだからその教え方しか知らないからそうなったのだろうが、それでも綾人さんの方式で学んだ俺と葉山にはものすごく判りやすくて……
 いつの間にか篠田が教えてくれる勉強に夢中になり、いつの間にか呼び方も篠田から陸斗になっていた。
 陸斗も葉山の事を藤二、俺の事を渉と呼ぶようになって気が付けば外は夏だと言うのに真っ暗となっていた。スマホにもいつごろ帰って来るのか連絡があったが、びっくりするくらい勉強に集中していて気がつかなくって。
 ゴリ先輩のご飯がシェフの料理に負けないくらいにおいしく思えたのは競い合う様に三人で食事をするなんてと、子供かとつっこみたくても口の中いっぱいのお米が許さなくて、ただまたすぐに一緒に勉強したいとはやる心に俺達の何かが変わった瞬間だからだろうと今は気付けなかった後から気付く瞬間を迎えていたのだった。 
 そして始まった学校生活。
 俺は約束してなかったが陸斗を家まで迎えに行き、歩きか自転車か判らなかったからいつもより早く起きて準備をすれば親を驚かせるのだった。
 急いでご飯を済ませて陸斗の家に迎えに行けばやはりと言うかぐずぐずとしたような陸斗がそこに居た。
 だけど俺が待ってるからと言えば、のろのろとながら準備を始め、圭斗さんと学校までは歩きか自転車かという談義になった所で陸斗が自転車を乗った事が無いと言う事が発覚した。
「山道を攻略するのは面白いぞ!」
 三百六十度斜面のこの街ではわざわざ遠くからトレーニングに来る人たちがいるくらいの恰好の場所。早朝から放送している自転車の番組をもそもそと朝食を食べる陸斗に説明しながら学校に向かう。
 問答無用と言う様に自転車の話しを延々と聞かせ、バス通学の葉山が待っていたかのように合流した所で葉山にも自転車の話しを聞かせながら一緒に学校の門をくぐるのだった。校門の所で高山先生が立っていたがおはようございますと挨拶だけして後はスルー。
 あの人渋い先生だって思ってたのに綾人さんの所で見せた自堕落ぶりに教師って自己を隠さないといけない大変な仕事なんだなと、でも親しみのある人で良かったと思うのは俺だけじゃないはずだとの感想。
 その勢いのまま教室に行って葉山に視線で陸斗を頼むぞと訴えれば力強く頷く葉山に託すのだった。

 久しぶりの学校で再会した友達と挨拶をした後すぐに先生が来て席替えをする事になった。俺と陸斗は廊下側の席を前を陸斗、後ろが俺と位置取った新しい席に俺は早速陸斗に声をかけるのだった。
 宿題のまだ良く判らない所。綾人さんに教えてもらっても覚えれない場所を陸斗に聞けば後ろを振り向いてノートの角に丁寧に解説してくれる声に少し胸が高鳴っていた。変な意味ではないぞ。
 今までクラス中が誰も相手にもしなかった底辺の最下層に居た陸斗の声を聞けとまずは思った。
 案の定陸斗を中心に輪が出来て、誰も近寄れないと言うようになっていた。その中で俺は気にする事無く陸斗に問題の解き方を教えてもらう。教室の中の何かが変わった瞬間だった。
 今日は先生の話を聞いて帰るだけなのでそのまま陸斗の家でテスト勉強会をしたいとお願いして下田が来るのを待って一緒に帰るのを周囲が羨ましく思ったのは多分宿題の答えだけなので、植田先輩に協力してもらってLIMEで通話しながら普通にスルーして帰路につくのだった。
 そして翌日のテスト当日。
 賑やかに騒ぐ教室の中で俺と陸斗はテスト勉強に励んでいた。
 本日もまた遠巻きに眺められ、仲間に入りたそうな一学期一緒に弁当食べていた奴をスルーして陸斗と二人で集中してテストに取り組もうとする姿勢を見せた翌日。テストが返って来て俺と陸斗はハイタッチを交わしていた。
 俺史上初の高得点の連発!結果、成績もクラス順位十位以内に納まり初めて点を隠さずに机の上にバンと置けたのだった。
 周囲からの羨む視線に思わずふんぞり返りたくなるも、それよりも誇らしいのは陸斗がどれもこれも九十点以上を取ってクラスで一位になっていた事だった。
「陸斗頑張ったな」
 俺以上に綾人さんと勉強をしていた陸斗が出した結果に照れた様に笑うこいつを素直に可愛いなと思えば大人が小さな子供を誉めるように頭を撫でていた。
 俺アホか。
 陸斗より成績の低かった俺に誉めてもらっても嬉しくないだろうと思うも嬉しそうに笑う陸斗にクラスの誰かが騒いだ。
「篠田カンニングしただろ!」
 一瞬でクラスを静かにさせて、陸斗の笑みを凍らせた。
 思わず立ち上がってしまった物の
「うわー、自分が点数悪いからってすっごい僻み」
「ちょーだっさー、マジ死ねって言い掛り」
「うざー、自分よりいい点とっただけでカンニング扱い、サイテー」
 俺より早く反応したのは隣の席の女子三人組。
 俺達に背中を向けて
「大体みんな篠田より点数悪いのにどうすればカンニングしてその上に行けるのよ」
「あったま悪いからそんな事も判んないのよ」
「って言うかマジキモいんだけど?少し人が頑張っただけで蹴落とそうってどんだけひねくれた根性してる?」
 救えねー!!!
 って大笑いした声は廊下まで筒抜けになっていた。
「あんた知らないと思うけどさ、うち篠田の隣の家なの。
 こいつん家私の部屋から丸見えでさ、いっつも遅くまで勉強してるの知ってるの。
 妄想で人を下げるのいい加減にしてくんない?キメェんだよ」
 クラスの女子のヒエラルキー何て知らないけど、かなり勝気で言い負かした隣の女子はくるりと陸斗の方を向いて平均点の半分ほどのテストを見せて
「お隣同士テストの直し手伝って!
 もちろんあの馬鹿と一緒にされたくないから答えだけ教えてほしいって言わないから!」
 これと、これもお願いと壊滅的なテストはそれでも一学期の俺の点数から見れば羨ましい点。
「ええと……」
「陸斗、俺も綾っちの宿題教えてもらいながらまとめて教えてもらえねえ?」
 彼女とは中学校であまり話した事はなかったもののここで陸斗の地位を固めるにはちょうどいい展開。
「昼休みとか授業終わって十分とかでいいから」
 お願いと隣の女子三人組は既に教えてもらう体制になって背後のディスられた男子は既に時の彼方に追いやられて泣き出しそうな顔でぷるっているのを友人達が今のはお前が悪いと諌めているのを視界の隅でもう関わるなと睨みつけておいた。


 

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