人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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冬の訪れ 4

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「綾っち―!何かバイトさせて!!!」
 何を血迷ってか三年チームの植田、水野、上島ブラザーズが水野の車に乗ってやって来た。ちゃんとタイヤもスタッドに変えているあたりは認めてやろう。
 だがだ。
「お前らはいきなり何を……」
 金曜日の夕方に何故かお泊りセットのような大荷物を持って押しかけてきた四人組に時計を見るもまだ四時過ぎ。学校終わったら直できたなと睨みつける。金曜は来るなと言ったはずだと言う事を聞かない奴らにイラッとする。本音を言えばもう少し炬燵でごろごろしていたいと思うもアポなしの襲撃に全く無防備な俺の姿はかなり人相が悪いツラになっている自覚はある。
 だけど四人とも両手をついて
「お願いです!現金収入を下さい!」
「他を当れ」
 何をあほな事を言ってると先頭に立って頭を下げる植田を見てこの計画は植田プロジェクトと言う事だけは判った。というか植田の企画と言う事だけで失敗の匂いしかしないだろうと突っ込んでしまうが
「一応圭斗さんの所にお願いしに行きました!」
「よく殺されなかったな」
「あの人ガチでした。これを言ったらダメなのはわかってますが篠田一族だとじっかんしました」
「わかってるのなら二度と言うなよ」
「はい」
 圭斗と陸斗が生家で受けた仕打ちの全部を俺は知らない。だけど子供が親を見捨てるぐらいなのだからよほどの事だろうと思う事にしている。俺の家が上か圭斗の家が上かなんて、まだ常識あるバアちゃんに空付けられた事を思えばましなのかと思うも人の不幸は比べるもんじゃないと珍しく怒る先生の言葉は素直に受け取った。
 俺が本気で怒っているのを理解してかしょぼんとする植田だが言わずにはいられないと言う気持ちもわからなくない。夏に少し会ったあれだけで巷の噂通りの非常識と言う事を理解できるのだから。改めて危険なのはよく分かったつもりだから近づかないようにするのが対策だ。
とは言え、仕事なんて……あった。
「折角来たんだから文句は言わさないぞ」
「「「「もちろんです!」」」」
 その気合いの良さに俺はにっこりと笑い
「薪割頼むわ」
「「おふ……」」
 去年も卒業した三年達に連れて来られて一日薪割をさせられた経験のある植田と水野はその苦行を思い起こしてか涙を流していたが、さすが農家の子供の上島兄弟はどれから片づけますかとなれた返答は頼もしいと既に薄暗い外を見ながら
「今日は暗いからもうやらないぞ。先日熊も出たし明日明るくなったら上で丸太を切ってからここに運んで割るぞ」
「いまなんと?」
 空耳ですかと問う上島兄に
「昔の吉野がらみの人に木の倒し方を教えてもらってるんだ。とりあえずこの間から何本か立ち枯れした木で練習したからそれを割って薪にしてもらいたい」
「こんな季節になんて珍しいですね」
「まぁ、本当なら冬は切らない季節だけどもう枯れている木だから。雪の重みで倒れるぐらいなら先に倒しておこうってな。その方が狩猟の季節にも安全だし。そもそも枯れてるから季節なんて関係ないし、木材として使うわけじゃないから問題ない」
「あ、そうか。薪にするんだったね」
 弟の達弥が思い出したと言えばそうだったと言う高校三年ズ。こいつらには心配しかないと思っている間に上島兄の颯太が台所に立って今晩のごはんを作ると言いだした。何やら家から食材を持って来てくれたらしいからありがたく頂く事にして置いた。
「あーやとー、なんか不吉な番号の車があったんだけどー」
「あ、先生きた。先生も相変わらず綾っちにたかってるな」
 大人なのに情けないと言う植田に
「俺と綾人は持ちつ持たれつな関係なの。って言うかお前らなんでいるんだ?」
 先生は自分のお酒と串揚げを持って風呂の準備をする。その姿を見て相変わらずダメな先生だなあと生暖かい目で見守られながらも風呂にいく先生がたくましいなと思うが、くるりと振り向いた先生は
「そういや綾人、今年はいつまで外の風呂を焚く?」
「あー、毎年雪が積もる頃だからそろそろかな」
 紅葉も鮮やかに色づく様子に雪が降る日が近い事を想定するも
「まあ、今夜が初雪だろうからそろそろ今年の五右衛門風呂も終わりか」
 冬が来るなと言うも窓の外を見れば何やら白いものが舞っている様な気がする。
 例えば雪の様な……
「マジか?!」
 水野が嘘だ!!!とうめくも積もりもしないべちゃっとした水分を多く含む初雪に先生はタオルを頭に巻いて風呂場へと向かうのを見送った。
「それよりも綾っち、烏骨鶏鶏小屋に入れなくていいの?」
 上島弟が開け広げた玄関から侵入しようとする頭に青のペンでマーキングされた烏骨鶏を捕まえて捕獲された姿をみて
「ああ、忘れてた」
 ぼんやりとした返事になってしまった。だけど誰も気にせずに
「小屋に入れてくるよ」
「頼む。あとおやつ箱のミルワームをやっていいぞ」
「やった!」
 烏骨鶏の奴らモテモテだなと感心しながら、大人しく抱かれ続けるマーキングの烏骨鶏を綾人はこっそりとちけた名前で良かったなと風に消えそうな声で語りかけるのだった。





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