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春は遠いよどこまでも 9

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「綾ちゃん今日の予定決まってる?」
「ん?とりあえず色々あいさつ回りして買い物したら帰るだけ」
 ここに波瑠さんが居たら多分怒られるのだろう。この情報に何件のあいさつ回りと何の買い物かを言わないと相手に何も伝わらないでしょと、子供が居たら教育ママになれるなと想像してしまえば
「予定詰まってるんだ」
 つまんなーいと陽菜は言うが
「何でそんなんで綾人の予定が分るんだよ」
 今の言葉にどれぐらいの情報があるんだと言う夏樹に
「だって綾ちゃんいつもこんないい方じゃない。
 色々あいさつ回りって言うように何件か回るでしょ?そして買い物なら一週間分ぐらいするなら一時間以上はかかるでしょ?
 烏骨鶏の為に日が沈む前に帰るならゆっくりしてる時間無いんじゃないのかな?」
「さすが腐っても主婦してるな。
 どうせ夏樹の事だから掃除洗濯はみんな陽菜任せだろ?」
「え?何でわかるの?」
「意外とそのために結婚するって奴いるんだよ。声に出して言わないだけで」
 まさかそうじゃないよねと言う様にじとーと探るような視線で夏樹を睨めば、夏樹も気付かれたかという様にコーヒーをすする。
「まぁ、食料品は宮下の所で何とでもなるけど生活雑貨がな。この時期宅配来てくれないからネットで買えないのが辛い」
 そんなボヤキに陽菜も夏樹も笑い
「だったらさ、この麓の町に冬場だけ避難しにこればいいじゃん。週一か週二ぐらい家に帰って空気入れ替えてさ」
「動物を飼うって言うのはそれだけ責任が伴う。週二じゃ病気になる」
 水は汚れるし、エサも飛び散って衛生的でなくなる。何より点けっぱなしのヒーターが心配だ。雪の重みで電線が切れたりとか、火事に発展する事はなくても何かで火事が発生したりとか考えれば目は離せない。何より住んでいるから雪の重みで家がつぶれる事もないのだし
「まぁ、避難所って考えは判るけど、身体が動くうちは何とでもなるからその後の事はその時に考えてみるさ。バアちゃんが病気になった時みたいに」
 一度も見舞いに来なかった二人へのささやかな嫌味。見舞いに来なかった癖に俺の心配なんてするなと言えば少しだけ歪む顔。
「だって仕方がないじゃん。まだ小学生で一人でお見舞いになんてこれないし……」
「でも心配したのなら親を説得する物だろ?」
「まだ大丈夫って……」
「入院するからとか手術するからとか電話を入れたぞ。
 結局おふくろの家の叔父さんに頼んで保証人になってもらったけど?」
「んなの聞いてないぞ!」
「聞いてなくても自分の親を見てれば判るだろ?」
 相続さえもらえれば十分だと言うような人達に綾人が居れば充分だろと考える大人が介護をするわけはないと鼻で笑う。
 とは言え当時小学生の陽菜と当時もうあまり足を運びに来てない夏樹が知るわけもない事は頭では理解している。だけど何で俺だけがと言う心がそれを受け入れられなくて、今もまだ消化できてない。
 オレンジジュースを飲んだ陽菜を見て食事はすべて終わったと言う様に立ち上がって伝票を拾う。
「交通費かかっただろ?これぐらいは出させろ」
 年上の意地というか、法事に来てくれた礼と言うか、読んでないのに勝手に来たのなら電車代までは世話をしないがそう言うのはこれでちゃらだと言う様に会計を済ませて店を出れば、まだまだ電車が来るまで時間があると言うのに二人とも店を出てきて
「せめて見送らせてくれよ」
 そんな理由と
「綾ちゃん、春はまだ雪が残ってるからゴールデンウィークになったらまたおばあちゃんに挨拶に来て良い?」
 陽菜にコートの裾を掴まれて言う所は母屋の方にと言う事だろう。
 来るなと言う前に
「あの倉庫もうできてるのなら、何かお祝いしたいから」
 前回は門前ではないが叩きだしたのだ。今度はちゃんと予定を組んで時間を決めてくると言うも
「祝いじゃなくて呪いはいらない。
 それにゴールデンウィークはいろいろ都合が悪い」
 何で?という顔をするが
「多分いろいろ客が来るから……」
「だったらお手伝いするよ」
 にこにことだいぶお料理上手になったんだと言う陽菜の笑みに
「いや、それも間に合ってる。むしろしないでくれ」
 と断ればムッとした顔。
「じゃあ、なっちゃんはお仕事あるから頑張って一人で来るね。バイトもあるから一泊二日ぐらいになるけど」
「いや、それだったら俺も一緒に行く」
 当然のように夏樹も来ると言う。どうやら俺の事なんてお構いなしのようだ。
「さすがあの親からの子供。俺の都合なんて一切関係なしか」
「違いますー。
 これは、おばあちゃんが会いに来いって言ってるからですー」
 わけのわからない理論を無視して俺はさっさと車に乗ってエンジンを回して別れるのだった。。



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