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春は遠いよどこまでも 10
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古い街の細い道をくぐり抜けて一軒の家の駐車場に入った。いつの間にか見慣れた家を見てほっとしながら車を降りれば会いにいくと言っておいたからかすぐに家から圭斗が迎えに出てきてくれた。
当然すぐに家の中に入るつもりだろうからセーターの上には何も羽織らない格好のままに元気だなあと、篠田の子供の冬の過ごし方を思い出せばあれでも十分暖かいのだろうと、聞いた話だけの内容で想像をする。
「お疲れさん。新しい住職さんはどうだった?」
「良い人だったぞ。若いからか声に張りがあるからすごくありがたいって感じだった」
前の住職の方が職位的には上なのだろうが、やはり年齢的な声のかすみとかボリュームとかが不満に思ったりもした事もあった。
「まあ、よくわからんが」
「流石に坊さんの良し悪しまでわかったらお前の年齢疑うぞ」
同級生はそう笑うも
「顔色悪いな。疲れたか?」
久しぶり人に会って気疲れでもしたか?と心配してくれるが
「いや、いきなり夏樹と陽奈が来た」
言えば顔を歪めて俺の手を引っ張って家の中にあげた挙句に居間のコタツに引き込んだかと思えば枕を持ってきて
「少し休め。代わりにやって欲しいことは?」
さすがにそこまではと思うも
「遠慮するな。むしろこう言う時こそ頼れ」
その真剣な顔に俺はスマホのメモにまとめた欲しいものと頼まれた物、そして財布からお金を取り出して
「悪いけど一週間分適当に頼む。陸斗にもおやつを買ってやってくれ」
「最初からそう言え。ったく、今お前どれだけ顔色悪いかわかってるのか?」
「一緒に飯まで食わされた。駅前のあの喫茶店で」
圭斗の顔が更に歪む。お袋の件を知ってるだけに冗談じゃねえとあれ以来入ってない喫茶店が全く変わってなかったことを思い出して吐き気までしてきた。
「軽トラの荷物にもガソリン入れてくるからお前は少し寝てろ。沢村さん達も会う約束してるんだろ?悪いが俺から断っておくぞ。そんな顔でまともな話ができるわけない」
「重ね重ね申し訳ない」
車のキーとガソリン代も追加で渡す。
「じゃあ行ってくるから。もう少ししたら陸が帰ってくるけど連絡入れておくから気にせずに寝てろ」
思わず失笑。圭斗も自覚があるのかさっさと出かけて行った。
「良いお母さんになったなぁ」
感心しながら瞼を閉じれば一瞬にして意識は途切れた。
カリカリと、随分と懐かしい音を聞いた。
その音を探すように視線を彷徨わせば
「綾人さん目が覚めた?今お茶入れますね」
陸斗のまだ子供らしさが残る声と
「気分はどうだ。圭斗はまだ戻ってきてないが、とりあえず居候のやつには今日は帰れなくなったから一人でなんとかしろって連絡したぞ」
子供からかけ離れた声と共におでこに手の平が乗せられて、その冷たさに身震いするのだった。
「熱が出てる。今日帰るのは諦めろ」
ペチンとおでこを叩かれれば寒気と頭痛を覚えた。
「後さっき陽奈から電話がかかってきたから出ておいたぞ。理由は圭斗から聞いていたから、一気に距離を詰めるなって教育的に指導はしておいた」
陸斗からお茶のおかわりをもらって啜っていた。
ゆっくりと体を起こしてお茶を飲もうとすれば、陸斗は勉強をしていて、先生が面倒を見ていたらしい。俺の勉強は一切見ようとしなかったくせにと不貞腐れながら温かなお茶をいただく。
「うめえ……」
「随分汗かいてたからな。しっかり水分補給しておけ」
「お世話かけます」
そう言ってお茶を飲み切ったところで横になるも
「ネクタイと背広は脱いでおけ。陸斗、圭斗の服を一枚貸してやれ」
はいと言ってすぐに一枚の黒いパーカーを持ってきた。まだ新しそうなものをありがたく借りれば問題が発生。
「デカイな」
「圭ちゃんにはちょうど良いよ?」
「陸斗言ってやるな。これはただの悲しき現実なだけだ」
「あ、ええと……」
頼むからこれ以上いわないでくれ。気遣わないでくれと涙を拭いながらまた瞼を閉じた。
カチャカチャと食器の音が聞こえた。
ゆっくりと瞼を開ければ
「起きたか?どうだ飯食えそうか?」
声と共に優しい匂いまで漂ってきた。
「簡単に鍋だから。食べれる程度腹に収めて薬を飲め」
見覚えの市販薬の箱は宮下がうちで常備してくれたものと一緒の薬。家の残りの薬とも併用できるというか、そんな気遣いに嬉しく思いながらもまたパタリと横になれば
「綾人さん大丈夫?」
「りくー、放っておいてやれ。照れて恥ずかしくて悶えてるだけだからそっとしておいてやれ」
「圭斗、お前はもうちょっとオブラートに言え。どさくさに紛れてコタツを占領して邪魔だ」
料理の手伝いをしない二人でコタツ戦争している様子に圭斗は
「陸斗ーバカな大人は放っておいて先に食べるぞー」
「ええ?」
先生と綾人さんは放って置いて本当に良いのという戸惑う陸斗だったが
「今日は綾人の奢りで寄せ鍋だぞー。鶏肉はもちろんエビとカキもあるしタラもあるぞー。フグもあるし、タラの白子も入れてみたから多分うまいぞー?」
最後に白子なんて食ったことないけどなと笑う圭斗の弾む声に綾人はむくりと起き上がるが
「綾人は病人だからツユで雑炊だな」
「え?!圭斗さんそれはひどすぎます!具も願いします!」
「ゲロリそうな奴は野菜で十分だ」
「タンパク質をくださーい!!!」
更に
「あ、先生はもう帰って良いよ。おつかれ」
「圭斗君先生に冷たすぎるじゃないでしょうか!!」
「気のせいだって。じゃあまたね」
二人して圭斗の足にしがみついて取り皿とお箸をお貸しくださいと擦り寄る様子に動じない圭斗でもそこ光景に陸斗が居た堪れなくなり取り皿と箸を用意したところで大人しく食卓につくのだった。
当然すぐに家の中に入るつもりだろうからセーターの上には何も羽織らない格好のままに元気だなあと、篠田の子供の冬の過ごし方を思い出せばあれでも十分暖かいのだろうと、聞いた話だけの内容で想像をする。
「お疲れさん。新しい住職さんはどうだった?」
「良い人だったぞ。若いからか声に張りがあるからすごくありがたいって感じだった」
前の住職の方が職位的には上なのだろうが、やはり年齢的な声のかすみとかボリュームとかが不満に思ったりもした事もあった。
「まあ、よくわからんが」
「流石に坊さんの良し悪しまでわかったらお前の年齢疑うぞ」
同級生はそう笑うも
「顔色悪いな。疲れたか?」
久しぶり人に会って気疲れでもしたか?と心配してくれるが
「いや、いきなり夏樹と陽奈が来た」
言えば顔を歪めて俺の手を引っ張って家の中にあげた挙句に居間のコタツに引き込んだかと思えば枕を持ってきて
「少し休め。代わりにやって欲しいことは?」
さすがにそこまではと思うも
「遠慮するな。むしろこう言う時こそ頼れ」
その真剣な顔に俺はスマホのメモにまとめた欲しいものと頼まれた物、そして財布からお金を取り出して
「悪いけど一週間分適当に頼む。陸斗にもおやつを買ってやってくれ」
「最初からそう言え。ったく、今お前どれだけ顔色悪いかわかってるのか?」
「一緒に飯まで食わされた。駅前のあの喫茶店で」
圭斗の顔が更に歪む。お袋の件を知ってるだけに冗談じゃねえとあれ以来入ってない喫茶店が全く変わってなかったことを思い出して吐き気までしてきた。
「軽トラの荷物にもガソリン入れてくるからお前は少し寝てろ。沢村さん達も会う約束してるんだろ?悪いが俺から断っておくぞ。そんな顔でまともな話ができるわけない」
「重ね重ね申し訳ない」
車のキーとガソリン代も追加で渡す。
「じゃあ行ってくるから。もう少ししたら陸が帰ってくるけど連絡入れておくから気にせずに寝てろ」
思わず失笑。圭斗も自覚があるのかさっさと出かけて行った。
「良いお母さんになったなぁ」
感心しながら瞼を閉じれば一瞬にして意識は途切れた。
カリカリと、随分と懐かしい音を聞いた。
その音を探すように視線を彷徨わせば
「綾人さん目が覚めた?今お茶入れますね」
陸斗のまだ子供らしさが残る声と
「気分はどうだ。圭斗はまだ戻ってきてないが、とりあえず居候のやつには今日は帰れなくなったから一人でなんとかしろって連絡したぞ」
子供からかけ離れた声と共におでこに手の平が乗せられて、その冷たさに身震いするのだった。
「熱が出てる。今日帰るのは諦めろ」
ペチンとおでこを叩かれれば寒気と頭痛を覚えた。
「後さっき陽奈から電話がかかってきたから出ておいたぞ。理由は圭斗から聞いていたから、一気に距離を詰めるなって教育的に指導はしておいた」
陸斗からお茶のおかわりをもらって啜っていた。
ゆっくりと体を起こしてお茶を飲もうとすれば、陸斗は勉強をしていて、先生が面倒を見ていたらしい。俺の勉強は一切見ようとしなかったくせにと不貞腐れながら温かなお茶をいただく。
「うめえ……」
「随分汗かいてたからな。しっかり水分補給しておけ」
「お世話かけます」
そう言ってお茶を飲み切ったところで横になるも
「ネクタイと背広は脱いでおけ。陸斗、圭斗の服を一枚貸してやれ」
はいと言ってすぐに一枚の黒いパーカーを持ってきた。まだ新しそうなものをありがたく借りれば問題が発生。
「デカイな」
「圭ちゃんにはちょうど良いよ?」
「陸斗言ってやるな。これはただの悲しき現実なだけだ」
「あ、ええと……」
頼むからこれ以上いわないでくれ。気遣わないでくれと涙を拭いながらまた瞼を閉じた。
カチャカチャと食器の音が聞こえた。
ゆっくりと瞼を開ければ
「起きたか?どうだ飯食えそうか?」
声と共に優しい匂いまで漂ってきた。
「簡単に鍋だから。食べれる程度腹に収めて薬を飲め」
見覚えの市販薬の箱は宮下がうちで常備してくれたものと一緒の薬。家の残りの薬とも併用できるというか、そんな気遣いに嬉しく思いながらもまたパタリと横になれば
「綾人さん大丈夫?」
「りくー、放っておいてやれ。照れて恥ずかしくて悶えてるだけだからそっとしておいてやれ」
「圭斗、お前はもうちょっとオブラートに言え。どさくさに紛れてコタツを占領して邪魔だ」
料理の手伝いをしない二人でコタツ戦争している様子に圭斗は
「陸斗ーバカな大人は放っておいて先に食べるぞー」
「ええ?」
先生と綾人さんは放って置いて本当に良いのという戸惑う陸斗だったが
「今日は綾人の奢りで寄せ鍋だぞー。鶏肉はもちろんエビとカキもあるしタラもあるぞー。フグもあるし、タラの白子も入れてみたから多分うまいぞー?」
最後に白子なんて食ったことないけどなと笑う圭斗の弾む声に綾人はむくりと起き上がるが
「綾人は病人だからツユで雑炊だな」
「え?!圭斗さんそれはひどすぎます!具も願いします!」
「ゲロリそうな奴は野菜で十分だ」
「タンパク質をくださーい!!!」
更に
「あ、先生はもう帰って良いよ。おつかれ」
「圭斗君先生に冷たすぎるじゃないでしょうか!!」
「気のせいだって。じゃあまたね」
二人して圭斗の足にしがみついて取り皿とお箸をお貸しくださいと擦り寄る様子に動じない圭斗でもそこ光景に陸斗が居た堪れなくなり取り皿と箸を用意したところで大人しく食卓につくのだった。
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