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一人では決して進めれない場所に 1
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冬の山はとにかく静かだった。
誰もいない家の中は寒さを覚えるも一時的な事と思えば問題ないし、一人だから寂しいと言う歳でもない。
嘘です。
物凄く心細いです。
ただ、いきなり父親が居なくなり、母親とも話をしたいとも思わないこの状況。今までの人生の中で一度ぐらい話しを聞かせてもらったらもっと違う人生だったかもしれないし、父親ともここまでこじれる事はなかっただろうと見通しの甘い事を考えてみるも、多分この件がもっと前倒しされただけだろうと落ち込む。
どちらにしても父親だと思った人とは暫くまともに話しなんて出来ないだろうし、周りも気を使って会おうとはさせないだろう。むしろそんな状況を狙ってるマスコミにチャンスを与える訳もなく、だけど俺は一人悶々としながらもこの状況をどう乗り切るべきか悩んでいた。
正直俺だってどうすればいいかなんて今も全くわからない。
おふくろはとりあえず軽蔑しておく。
多分全部わかってたのだろうし、とっくに気づいていたのだろう。親父が気付いたぐらいだし。何も知らなかったのは俺だけかよとただ真っ直ぐに与えられた愛情を受け取って来ただけにこの展開はキツイ。
無音の山で一人は寂しいと思いながらもこの静寂を綾人は乗り越えてきて、これからも乗り越えて行くのかと寂しく思えば今夜は晩飯ぐらい作ってあげようと考えた時だった。
スマホに綾人の名前が浮かび上がって何だ?と思えば
「うーっす。圭斗です。
蓮司今時間大丈夫?」
モニター越しのめんどくさそうな顔と背後は綾人のスノーモービルを乗せた軽トラと古い小屋のような家。
「時間は大丈夫だけど何かあったの?」
冷蔵庫を開けながらとんかつ用の肉があったから今夜はとんかつでもするかとパルメザンチーズをパン粉と一緒にまぶすべきかスライスチーズを挟もうかと悩んでしまえば
「綾人の奴ちょっとアレルギーみたいなものが出て熱が出てさ、悪いけど家で泊まらせて明日様子を見てから帰らせるけど一人でも大丈夫か?」
……アレルギー体質とは、また難儀な。
「いや、俺は元々一人暮らしだから大丈夫だし、ここの生活もだいぶ慣れたから一通りの事は出来る。と思う」
竈でご飯を作ろうとしなかったり五右衛門風呂に入ろうとさえしなければ全く問題はなかった。囲炉裏はちょっと怪しいからロケットストーブの近くなら大丈夫だし、とりあえず薪の分量は見よう見まねと綾人のチクチク口撃で覚えたから良いだろうと不安を覚えながらも熊さえ出なければ大丈夫だと思うと言っておく。
「明日様子を見て帰らせるけど、もし欲しい物とかあったら明日は俺がいるから何か言ってくれ」
「判った。じゃあ悪いけどよろしくお願いします」
そう言って短い通話が終わった。
「何だろう、この不安感」
思い切って言葉に出せば心細さがムズムズとして……囲炉裏の部屋へと移動した。ロケットストーブから火を貰って囲炉裏にくべる。他人の家を火事にしてはいけないので火には細心の注意をしながら何とか火を点けても簡単には温かくならない。襖を閉めるも換気は大丈夫か心配だが、部屋の四隅の天井に枠があってそこから煙が抜けて行くと言う仕様らしい。熱もぬけて二階も温かいと言う、囲炉裏の部屋は吹き抜けで天井が高いと言う常識が崩れた。ただし広い縁側は一間ほどあるらしく俺がごろりと寝転んでも十分な広さがあるものの、その代わり窓から遠くなる室内は薄暗く、未だに蛍光灯を使う室内とそのストックに俺は何も言えなかった。
とりあえず囲炉裏の部屋を暖める間にご飯を作る。
一応電気でご飯は炊けるので問題はない。電気コンロもあるので問題もない。むしろオール電化のマンションなので慣れ親しんだ分全く持って問題なさすぎるだけに竈と言う物にひかれてしまう。
綾人はめんどくさがってあまり使わなかったが一応俺のリクエストだったり飯田さんが使うのを見ていたので見よう見まねに薪をくべていた。
誘惑には勝てない。
細い枝と消し炭を入れてロケットストーブからまた火種を貰う。代わりに新しい薪を入れて家を温めてもらおう。
ご飯の炊き方は久しぶりにつないだ動画で学ぶ。水と米の量は判らないから電気炊飯器のお釜のメモリを使って確認。
竃のお釜に移して火にかける。その頃には竈に薪をくべて火を強くする。
確かこんな風だったな……
あまり薪をくべすぎなくても十分だと言う様に竈の底を炎が撫でるぐらいで大丈夫と言っていた。あとはふつふつと沸く音を聞きながら音が変わるのを待てばいい。目安は湯気の量が減ったら気を付けると良いと言う。もうちょっと具体的な言葉が欲しかったと、きっとプロにはそれで十分具体的すぎる言葉なんだろうけど俺にでもわかる言葉で是非とも教えてもらいたかった。例えば一口大の大きさ。一体どんな大きさなんだとぼやいた時に
「一口大と言うのは人の口の大きさは約三センチと言われています。なので三センチぐらいの大きさに切ればいいだけですよ」
と、人差し指と中指でVの字を作って口の端と端に指先を当てるのだった。
「だったか最初からそう言ってくれればいいのに……」
からからと笑う飯田さんは綾人さんも同じ事言ってましたと言って
「三センチと書くと定規を持ち出してきっちり切り出す人やその大きさではないとクレーム付ける人がいますからね。口の大きさは人それぞれ、料理を食べやすい大きさから生まれた言葉なのでしょう。多分」
なんて言うのは物心ついた時からその言葉が浸透していたからだと言うが、そう言った豆知識が広がればいいのにと思って調べれば案外すぐに見つかった事に少なからずショックを受けるのだった。
誰もいない家の中は寒さを覚えるも一時的な事と思えば問題ないし、一人だから寂しいと言う歳でもない。
嘘です。
物凄く心細いです。
ただ、いきなり父親が居なくなり、母親とも話をしたいとも思わないこの状況。今までの人生の中で一度ぐらい話しを聞かせてもらったらもっと違う人生だったかもしれないし、父親ともここまでこじれる事はなかっただろうと見通しの甘い事を考えてみるも、多分この件がもっと前倒しされただけだろうと落ち込む。
どちらにしても父親だと思った人とは暫くまともに話しなんて出来ないだろうし、周りも気を使って会おうとはさせないだろう。むしろそんな状況を狙ってるマスコミにチャンスを与える訳もなく、だけど俺は一人悶々としながらもこの状況をどう乗り切るべきか悩んでいた。
正直俺だってどうすればいいかなんて今も全くわからない。
おふくろはとりあえず軽蔑しておく。
多分全部わかってたのだろうし、とっくに気づいていたのだろう。親父が気付いたぐらいだし。何も知らなかったのは俺だけかよとただ真っ直ぐに与えられた愛情を受け取って来ただけにこの展開はキツイ。
無音の山で一人は寂しいと思いながらもこの静寂を綾人は乗り越えてきて、これからも乗り越えて行くのかと寂しく思えば今夜は晩飯ぐらい作ってあげようと考えた時だった。
スマホに綾人の名前が浮かび上がって何だ?と思えば
「うーっす。圭斗です。
蓮司今時間大丈夫?」
モニター越しのめんどくさそうな顔と背後は綾人のスノーモービルを乗せた軽トラと古い小屋のような家。
「時間は大丈夫だけど何かあったの?」
冷蔵庫を開けながらとんかつ用の肉があったから今夜はとんかつでもするかとパルメザンチーズをパン粉と一緒にまぶすべきかスライスチーズを挟もうかと悩んでしまえば
「綾人の奴ちょっとアレルギーみたいなものが出て熱が出てさ、悪いけど家で泊まらせて明日様子を見てから帰らせるけど一人でも大丈夫か?」
……アレルギー体質とは、また難儀な。
「いや、俺は元々一人暮らしだから大丈夫だし、ここの生活もだいぶ慣れたから一通りの事は出来る。と思う」
竈でご飯を作ろうとしなかったり五右衛門風呂に入ろうとさえしなければ全く問題はなかった。囲炉裏はちょっと怪しいからロケットストーブの近くなら大丈夫だし、とりあえず薪の分量は見よう見まねと綾人のチクチク口撃で覚えたから良いだろうと不安を覚えながらも熊さえ出なければ大丈夫だと思うと言っておく。
「明日様子を見て帰らせるけど、もし欲しい物とかあったら明日は俺がいるから何か言ってくれ」
「判った。じゃあ悪いけどよろしくお願いします」
そう言って短い通話が終わった。
「何だろう、この不安感」
思い切って言葉に出せば心細さがムズムズとして……囲炉裏の部屋へと移動した。ロケットストーブから火を貰って囲炉裏にくべる。他人の家を火事にしてはいけないので火には細心の注意をしながら何とか火を点けても簡単には温かくならない。襖を閉めるも換気は大丈夫か心配だが、部屋の四隅の天井に枠があってそこから煙が抜けて行くと言う仕様らしい。熱もぬけて二階も温かいと言う、囲炉裏の部屋は吹き抜けで天井が高いと言う常識が崩れた。ただし広い縁側は一間ほどあるらしく俺がごろりと寝転んでも十分な広さがあるものの、その代わり窓から遠くなる室内は薄暗く、未だに蛍光灯を使う室内とそのストックに俺は何も言えなかった。
とりあえず囲炉裏の部屋を暖める間にご飯を作る。
一応電気でご飯は炊けるので問題はない。電気コンロもあるので問題もない。むしろオール電化のマンションなので慣れ親しんだ分全く持って問題なさすぎるだけに竈と言う物にひかれてしまう。
綾人はめんどくさがってあまり使わなかったが一応俺のリクエストだったり飯田さんが使うのを見ていたので見よう見まねに薪をくべていた。
誘惑には勝てない。
細い枝と消し炭を入れてロケットストーブからまた火種を貰う。代わりに新しい薪を入れて家を温めてもらおう。
ご飯の炊き方は久しぶりにつないだ動画で学ぶ。水と米の量は判らないから電気炊飯器のお釜のメモリを使って確認。
竃のお釜に移して火にかける。その頃には竈に薪をくべて火を強くする。
確かこんな風だったな……
あまり薪をくべすぎなくても十分だと言う様に竈の底を炎が撫でるぐらいで大丈夫と言っていた。あとはふつふつと沸く音を聞きながら音が変わるのを待てばいい。目安は湯気の量が減ったら気を付けると良いと言う。もうちょっと具体的な言葉が欲しかったと、きっとプロにはそれで十分具体的すぎる言葉なんだろうけど俺にでもわかる言葉で是非とも教えてもらいたかった。例えば一口大の大きさ。一体どんな大きさなんだとぼやいた時に
「一口大と言うのは人の口の大きさは約三センチと言われています。なので三センチぐらいの大きさに切ればいいだけですよ」
と、人差し指と中指でVの字を作って口の端と端に指先を当てるのだった。
「だったか最初からそう言ってくれればいいのに……」
からからと笑う飯田さんは綾人さんも同じ事言ってましたと言って
「三センチと書くと定規を持ち出してきっちり切り出す人やその大きさではないとクレーム付ける人がいますからね。口の大きさは人それぞれ、料理を食べやすい大きさから生まれた言葉なのでしょう。多分」
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