人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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春の足音はゆっくりじっくり 5

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「うそだ……神・飯田氏が来ないなんて……」
「ったり前だろ。飯田さんは今このくっそ忙しい春休みに一生懸命働いていらっしゃる。
 仕事有りきの休日だ。お前のエサやりの為に来るわけじゃない」
「だって、飯田さんのご飯以外に何の楽しみがあるんだよ!!!」
「園田、家帰っていいぞ?今からなら朝には家に着く」
「ごめんなさい。綾っちのご飯も神ってます」
「綾っち言うな」
 なんて軽口を交わしながら問題を解いて行く。
 陸斗もすぐ側で既に教えた数学の問題の解き方を見ながら自力で一つ一つ展開しながら解いていた。
 だけど園田は二年の復習に戸惑ったりと三年の授業に進む前に見つけれた弱点の克服を反復練習で身体に沁み込ませるように覚えさせていた所で、今何とかものにできたようでこうやってだべる余裕までできたようだ。
「折角の春休みなのに忙しいんですね」
「まぁ、進級、進学、就職、昇進、春はそう言ったイベントが短い期間で一気に起きるからな」
「受験生には縁のない言葉ですね」
「まぁ、無事進学できればお前だってお祝いしてもらえる立場だ」
「そうなる事を願いまーす」
 そう言って差し出されたプリントにまる付けをすれば
「よし、全問正解。
 ぼちぼち三年の勉強を始めるぞ」
「うし!やっと陸斗と並んだ!」
 やったー!と言う物の陸斗は新二年生で園田は新三年生。何を持って並んだなどと言うのだろうかと思うも
「じゃあ、キリが付いた所で休憩しよう。
 ぼちぼち暗くなってきたから、陸斗もキリが付いたら烏骨鶏の奴ら頼むな?」
「はい。だったらこの問題解いたら行きます」
 やったー!と言って伸びをしたまま倒れ込んだ園田に
「お前は風呂の薪番な。スマホで遊んでもいいから用意してある薪を燃やして来い」
「りょ!」
 言いながら仏壇前に置いた充電中のスマホを持っていそいそと外の五右衛門風呂に向かう姿を可愛いやつめと見送るのだった。
 俺は俺でくじ引きに負けて晩飯の準備を始める。手作りのくじ引きやジャンケンは俺が有利だからとスマホのアプリを使っての公平なくじ引きの結果今晩は俺が料理当番となるのだった。俺の記憶力の良さにくじを作ってる時点で見極めたり、ジャンケンの癖を統計から出した確率からの勝負を見抜いていたりと言った正当なズルに対し高校生たちはいかに公平かを探り当ててアプリ頼みにすると言う余計な知恵をつけやがってと舌打ちをするのだった。
 まあ、晩飯当番でどうこう言う俺じゃないけど。園田飯に比べたら食べ慣れた自分の味が一番舌に馴染んでいるが、飯田さんに食べさせてもらったり、宮下が後片付けをしてくれたり、そう言ったことがありがたいとよくわかってるだけにたまには甘えさせてと思ったりするだけだ。晩飯食べて、風呂に入ってそれからもう一踏ん張り勉強してからの就寝となるこいつらを甘えさせるではないが、家にいる時には気づかないありがたさを味わうが良いとこれも勉強だとくじで負けた時は容赦なく晩飯を作らせるのだった。どのみち大学受験合格したら一人暮らしをしなくてはいけないのでこれも練習だと陸斗に手伝ってもらいながら生焼けの野菜炒めや焦げた生姜焼きを食べながら反省させるのだった。
「それにしても迂闊だった。上島が料理上手だったり、植田、水野がチャレンジャーでそれなりに勝手に作ってたからお前らもできるもんだと思ったらまさかのこの出来栄え」
「味噌汁はだいたい分量はわかったよ。オムレツがスクランブルエッグになるだけで」
「飯田さんみたいなオムレツが昨日今日で作れるわけないだろ?」
「えー?あんな風に朝からさっと作ったらなんかカッコいいって思わないの?」
「俺は作れるから気にしたことないな」
 小首傾げた飯田さん曰く「こんなもんですね」ですって。妥協してもらえるレベルなら十分じゃないかと俺は判断している。
「そういや山田川上コンビは進路どうするってなんか聞いてるか?」
「んー、川上は植田先輩追いかけて専門行くって言ってる」
「ゲーム仲間か」
「プログラミングやりたいって、去年せんせーが集めた専門学校のパンフ読んで決めてた。山田はまだ決めれてない感じ。学校には一応植田先輩達追いかけて川上と同じ進路って事で話しはしてるみたいだけど」
「おいおい、大丈夫か?」
「まあ、一時圭斗さんに憧れて職人になりたいって言ってたけど、陸斗の頑張り具合見て諦めたし、綾っちに憧れて農業いいなって言ってたけど継げる農地ないから諦めたし。ブレブレなのは今に始まったことじゃないから無難な所で落ち着くと思うよ」
「負け犬根性が染み付いてつるな……」
 高三になっても進学先が決めれないなんて、しかも周囲の環境に染まりやすいなんてと思うも
「なら取り敢えず大学に行かせる方がいいかもな」
「大学に?」
 入れてくれる大学があるかどうかそこも心配だが
「大学って言うのは専門的なことを学ぶ場所だけじゃなく、夢や希望のない奴が取り敢えず時間稼ぐためにも所属する場所だ。
 園田や陸斗のように高校生のうちから明確な目的がある方が珍しいぐらいだから。なんかやりたいと思ったときに動けるように学び続けるのも対策の一つとして大学に進学するのもありだと俺は思ってる」
「ありなんですか……」
 何か考える様子の園田だが
「だけど、だからと言って大学に行けば見つかると言うわけでも当然ない。ただこの狭い山間の街のガキの頃からずっと見知った奴らばかりの中より外に出て刺激をもらえばアイツの可能性も広がると言うもの。ただし、同じくらいのリスクも当然おう訳だがそれは山田が責任を持つことだ。そこまできて何も決められないのは山田自身の責任。もうガキじゃないんだから自分のことは自分で決めろってな」
 厳しい事を言ってるようだが別に珍しくもない大学生が運良く入った会社に就職して家庭を持つなんて話はいくらでもある。
「もし冬まで迷ってるようなら騙し打ちでも川上と一緒の専門に行かせればいい。就職先も絞られるから迷いようがない」
「綾っちって鬼ですね」
「決められない山田が悪い」
 笑って言いながらも玉ねぎと挽肉を塩胡椒で炒めてカレー粉と小麦粉を投入。しっかり炒めた所に牛乳を入れる。木べらで混ぜながらとろみが付くまで煮詰めた所でバターをひとかけ入れれば
「やった!綾っち特製のドライカレーだ!久しぶり!」
「陸斗を読んできてくれ」
「うっす!」
 フライパンひとつで作れる手を抜きたい時のこのカレーはとにかく簡単で教えてくれた飯田さんはほんと神だなと、園田じゃないが飯田飯を食べれない寂しさをこうやって誤魔化すのだった。




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