人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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顔を上げる勇気 4

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 確かに面倒見の良い先生と言うのが生徒間の評価だがまさかの言葉に一瞬言い返す言葉が見つからなかったく……
「そう思うならそれこそちゃんと掃除をしないとな」
「ええ?ああ、うん。まぁ……
 今度はちゃんとするよ」
「そうか……」
 穏やかな声の決意に頑張れよと思うもふとその言葉に首をかしげる。
 今度はちゃんとすると言ったがそれはどこで何をと思えば
「いずれここで学習塾でも開いた時には綺麗な景色を眺めさせながら何て最高だと思わないか?」
「先生がここで塾を開くとか意味わかんないんだけど?!」
 何を言ってると目を見開けば
「どうせ冬の間ぐらいしか来ないんだろ?だったら一年通して俺様がこの家を面倒見てやる。なーに、宮下が俺の世話をちゃんとやるだろうし、何かあれば圭斗もいる。大船に乗ったつもりで俺に預けていいぞ?」
 教師を辞めた後の人生設計まで完璧なんてさすが俺様!と高笑いする半面俺はどこまで先生の面倒を見なくちゃいけないのかと色々なパターンを想定して……
「頼むから嫁さん見つけて結婚してくれ!」
「嫁なんて冗談じゃない!掃除だけなら年に一度ダ●キンに頼めば十分だ!」
「年に一度しか掃除しない前提をまずやめてくれ!!!」
 年に一度プロに丁寧に掃除してもらおうと言う前提ではない事はすぐ理解できて叫べば先生は違うと言う。
「その為の宮下だろ?」
「俺の友達を家政婦にするのは止めてくれ!」
「自慢の教え子を持って先生は幸せだよ」
 宮下が女の子で奥さんだったら先生絶対素敵な結婚生活できると思うんだとほざくがその前に三下り半叩きつかれるぞと忠告はしておく。
「と言うか、安定した収入と手に職を持った以上先生なんて事故物件を抱え込まなくても一人で生きて行けるから先生何て宮下は必要としてないんだぞ」
 さすがにこれは言い過ぎたかショックを覚えたようで固まっているもののそこでくじける先生ではない。
「せ、先生にはまだ綾人がいるもん」
「住みつくのはご自由に!だが世話は一切しないぞ」 
「やだ!お世話もして!!」
「断る!キモい!!!」
 教師、年上、三十五歳、どれをとっても俺がお世話をするワードはどこにもないはず!
「自分の面倒ぐらい自分で見ろ!」
「そうするとまた家が汚れるじゃん」
 自覚と言うかちゃんと判ってたのかよとつっこみたかったけど
「獣だって自分の住処は汚さないぞ」
「やだあ、先生獣じゃないし、人間だから気にしないんだもん」
「獣以下と思わない精神立派だなぁ……」
 もうヤダ、疲れた、俺の精神の方がズタボロだとひんやりどころかまだまだ冷たい床に項垂れてしまえばいつの間にかちゃっかりと俺が座っていた椅子に先生は座り
「どっちにしてもだ。お前達三バカは誰かが見てやらないと何をするか判らないからな。誰か監視役が必要だろ」
「三バカに俺を混ぜるな。監視に必要なのは誰よりも先生だ」
「何を言ってる。お前が一番油断ならない事自覚持て」
 三バカのトップに認定されて理不尽なんて思うもさすがに疲れてきたのでもう先生の説教タイムは終わりにする。なんか俺が説教されてる気分になったしと気分転換に窓を大きく開ければ縁側に居た宮下と圭斗が俺達を見上げて手を振っていた。
 俺も手を振り返せば
「そろそろおやつの時間にしよう!買って来たケーキ食べよう!」
「今行く!」
 どうやら空気の入れ替えの窓は一瞬で閉める事になりそうだけど、この声が聞こえたのか遠くで草刈りをしていた水野達も道具を持って懸命に母屋に向かって走ってくる。
 おやつと聞いて走って集まるなんてどんなガキかと笑ってしまうも
「綾人、なかなか帰って来れない奴らが多いけど、お前を慕ってやって来る奴はきっと途切れないから。
 待ち構える覚悟決めたのなら、後は一人で待とうとするな」
 なにをいきなりと思えば
「まだ決定してないけどここだけの話しだが、私立で働いてる……前に話した事のある恩師に働いてる学校に来ないかと誘われてて。お前達の面倒があるから断ってたんだけど、今回こうやって急きょ移動する事になって改めて考えたんだ。
 逃げるようにこの田舎の学校に来たけど、完成披露の時の綾人を見て俺もそろそろ本気で将来を考えてみた」
 閉ざされる前の窓から賑やかになった母屋、そしていつもと違う山の景色を眺めながら
「今の三人組みを卒業させたら俺も恩師の学校に移動する。
 既に向こうの学校とは一度面接もしてあるし、既に行きたいと連絡もしてある。
 今年一年は今の学校だけど、来年からは私立の学校に移動だ」
 目をキラキラとさせて恩師との再会を待ちわびる顔はくしゃりと笑い
「ここからだと車でも一時間かからないし、電車通勤だとしてもここから三十分、駅から徒歩三十分ほど。
 麓の家の留守役任せておけ」
「それが言いたかったのかよ!!!」
 思わず山に向かって吠えてしまう。
「本当は学校の近くの家を借りようかと思ったけどさ、麓のとこなら通勤一時間は普通だし、何より五右衛門風呂も週末入りに来れる。慣れた生活の場だし、お前を一人にさせる事もない」
「いや、なんか気持ち悪いこと言わないでよ」
 逃げ腰になる俺を他所に先生は笑いながら窓を閉める。
「折角の新しい家だ、家は住んでこそ生きる。
 今度こそあの家に失礼な事をしたくないから」
 家をあんな風にしておいたくせに何やら決意をしてくれる先生だがそもそも先生には悔しいことに信頼しかない。
 絶対言わないけど。


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