人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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顔を上げる勇気 5

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 俺をちゃんと人として導いてくれる恩師に仕方がないと俺は溜息を零し
「家賃月三万で良いですよ」
「え?家賃取るの?!」
「当たり前だ!税金ってものがあるんだから、最低限それぐらい貰うに決まってるだろ!それでも大赤字の格安なんだからね!」
「えー……」
「その内宮下も住む事になるんだから家賃上げる真似しないでよ!」
「ちょ!大家ぼったくりじゃないの?!」
「それだけの手を入れさせた自覚が少しでもあるのなら愛着がわく様にしっかりとこの家の維持費として徴収する、先生が言った家への可愛がり方だ!」
 うぐっ……と息を呑み込む姿に満足してこれ以上のやり取りは不毛すぎると背中を向けて階段を下りて行けばすぐに追いかける足音はどこか楽しそうに跳ねている。
 どうしようもない先生だと思いながらも
「所でこの事あいつらは知ってるのか?」
「いんや?言うのは綾人が初めて。
 そのうち一度恩師にもここに連れて来たいなぁ」
「それはあの家が出来てからにしたら?
 住む場所とかはっきり決まってからの方が説明しやすいでしょ」
「ああ、そうなると夏頃か?」
「なら夏休みに遊びに来てもらえばいいんじゃね?」
 それなら時間は十分にあるだろう。
 冬は雪が降っても麓ならそこまで積もらないし、学校に通う為の国道は交通もそれなりにあるからスタッドレスタイヤで十分だろう。
「なんか、いろいろ考えてたモヤモヤが一気に解決したな」
「今の学校そんなにも嫌なの?」
「まぁ、綾人には楽しいかもしれないけど、受験にきりきりしていて息が詰まる」
 そう言う学校だと言うも
「勉強して賢くなって少しでもましな会社に勤めて人より給料多く貰えて生活が豊かになる事を夢見て手助けするのも教師の仕事かもしれないけど、多少無理してでも夢の為に留年しろとか希望の学校受かるまで留年しろとか言うのを普通に子供達に諭すような校風とは言え受験の為のきりきりした一年を今度は塾に通ってまた一年過ごせって言うのは先生的には無責任だと思うんだ。
 かといって夢も希望も捨てて現実を見ろなんて事もとてもじゃないが言えない。
 だからこそ拾ってやって手助けするお人よしが一人ぐらいいてもいいんじゃないかなんて思う分けよ」
「まぁ、それに助けられた生徒としては先生の主張を否定できないな」
 俺を筆頭に宮下と圭斗から始まって今も続いている先生の救済は今も続いていて
「まぁ、一人ぐらいお人よし担当が居ても良いよな」
 いいながらやっと何かの覚悟を決めたような先生から流れてくる穏やかな声に恩師に出来る限りの応援をしたいと思いながら土間に入れば……
「やべ!綾っちと先生の分を忘れてた!」
「うわ!水野!ちゃんと人数分考えて切れって言っただろ!」
「おまえ!足りないより余らす方がましだからちゃんと八等分しろって言っただろ!」
「あー、六等分すれば足りるかなって……
 見た目もおいしそうだし?」
「パイセン!高校卒業したからって数位は数えるでしょ!」
「いや、数値入力だから数数える事無くって……」
「んなわけあるかー!!!」
 植田の渾身の右ストレートが水野に炸裂するも効果は全くない物のまさかケーキを切り分ける数を間違えると言うありえないミスに唖然とする新入り三人組を他所に
「宮下、何でバラでケーキを買ってこなかった?ホールだとこう言う事想像つくだろ」
 幼馴染のツッコミに宮下は至極真面目な顔で
「俺だって数数え間違えたら嫌だから。
 失敗しないように保険の為にホールを買えば間違いないって思ったんだ」
「お前ら……」
 先生は恥ずかしいと言う様に両手で顔を隠して一生懸命育てたなれの果てがこれかと泣きだしていたが
「まぁ、こう言う時はだ」
 俺はとりあえず新入りと陸斗と幸治に自分の為にワンホール分を確保して
「残りがお前らの分だ。反省を兼ねてどうすればみんなで仲良く分け合えるか考えて食べろ」
 それでいいのかと視線を向ける三人組に気にせずに食べろと背後の風景を無視すれば

「よし!じゃんけんするぞ!」
 
 仕切り役の植田の声とは別に宮下が
「とりあえずもう半分に切っておいたから好きな場所を選ぼうか」
 更に小さくなったケーキに大笑いする山田と川上と園田。
 寧ろ小さくなって盛り上がるってなんだよと思いながらもその間に陸斗が圭斗に半分こと言って分けて食べる光景にほっこりしてしまうこれが一番正しい選択だと俺は思うのだった。


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