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雨のち嵐 7
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「良い先生してるね綾人は」
本格的に雨が降り出してきた中を五右衛門風呂から上がって来たチョリさんは土間の長火鉢を設置した囲炉裏に座り髪を乾かしていた。竈オーブンの正面なので良い感時に温かくて風邪をひく心配はないだろうと思うもタオルでガシガシと男前に拭うも天パがちりちりとなって寧ろよく似合っている。いっその事パーマでもかけたらと言いたかったが意味はあるのかと思って黙っておく事にした。
「やる気のある子達なので教えがいはありますよ」
「熱心に親とも話をして、俺も見習わないとな」
オリヴィエを除いて別に弟子とかを持っていたりバイオリン教室しているわけでもないのにと思うも
「ああ、これでも向こうに行ってる時他の人のお弟子さんの面倒を見たりしてるんだ。泊めてもらうお礼にね」
「なるほど。ただより高い物はないと」
「そうそう。だから綾人君にも俺達を泊める代わりにおねだりしていいよ?」
「食費は貰う約束ですよ?」
「宿泊費は別だよ」
そう言われて何かのお礼と言うように考えればすぐに思いつくのは
「なら一曲動画用に作ってください。タイトルは『山の音楽家』で」
言えばオリヴィエをちらりと見て
「やっぱりリス?」
「ボスリスと子リスなイメージで」
「音楽隊なのにバイオリン二人とはこれいかに」
唸るチョリさんの目の前にも飯田さんが料理を並べてくれる。
「俺は音楽さっぱりですので」
にこやかな顔で笑うもカラオケは嫌いじゃないですよという。飯田さんの運転の時退屈だからとCDをかけながら二人して大声で歌ったりするのでわりとよく耳にしているが
「楽器となると俺も致命傷だけど?」
数々の伝説を作り上げる俺に宮下と圭斗の生暖かい視線は今も忘れられない。
高校ってなんだよ。アルトリコーダーのテストとか意味わからんし。
聞いても判らんと言うバアちゃんが畑に居る時に一人練習をする姿を運悪く宮下と圭斗に見られたあの時の屈辱……
「笑っていいぞ!!!」
宮下から話を聞いて知ってるだろう苦笑する飯田さんといきなり叫びだした俺にぎょっとするオリヴィエはチョリさんの後ろに隠れるも
『楽器何て小さい頃からやって何ぼだろー!
学校の授業で触れるだけのリコーダーでどうやって上達しろって言うんだよー!!!』
だから練習するのである。
判ってるけど、だからって楽譜通りに指を動かせるわけがない。
『リコーダーなんてクソくらえだ!!!』
庭から見える山に向かって吠えるもチョリさんは失笑するだけで飯田さんはわれ関せずと言う様にご飯の用意。そして
『そろそろ食べましょうか?』
安定のクールさ。飯田さんかっこいいよ。おかげで冷静になれたと言う様に机に付いていただきます。オリヴィエは手を組んで何やらお祈りをしていたけどそこは宗教の選択の自由が約束された国。先に好きな物が食べられても文句言うなよがその後に続くのでほどほどにしましょうと言う言葉で締めくくる。
案の定、俺が大人げなくローズマリーチキンの肉々しい部位に真っ先に手を伸ばせばオリヴィエも慌ててフォークを構えて次の良き部位に手を伸ばそうとするも飯田さんはスマートにチキンをごそっと持って行く俺以上に大人げない人で、あっけにとられるオリヴィエの隙をついてチョリさんもひょいひょいと箸を動かす始末。
『みんな酷い!!!』
『これが弱肉強食の世界。喰いたければ戦うが良い』
なんて訳の分からない事を言いながらも俺も自分の肉を確保している間にたった隅っこのカリカリになった三切れだけ残された飯田さんの絶品ローズマリーチキンにオリヴィエは涙目だ。
おかしいなぁ。ちゃんと鳥もも一人一枚分用意したのにと自分の皿にこんもりと盛られた肉の山を口へと運びながら考えてみるも
『うっま!!!
飯田さん、この皮がパリって最高!』
肉の油の少し甘味を感じる美味さもだけど、どうしても漂う獣臭さを消すローズマリーとピリリと効いた砕いた胡椒がサイコーにマッチしてる!それより何よりも
『この肉汁を吸ったマッシュポテトがまたうまくってどれだけでも食べれるってどれだけ罪な奴なんだ!!!』
いつの間にか空っぽになっていたマッシュポテトの盛られていた器に初めて気が付いたと言うようなオリヴィエの視線は今も着々と大人げない人達の手によって空っぽになっていく様を何もできずに見守っていて
『俺のマッシュポテト!!!』
ほとんど涙声になりかけてるオリヴィエに飯田さんは小首を傾げて
『おかわりならありますよ?』
冷蔵庫からもって来たマッシュポテトを見て涙を流す十五歳。少しからかい過ぎたかと飯田さんはもも肉一人一枚だなんて足りないのを理解してと言うか、こうなる事は判ってましたと竈オーブンから取り出した焼きたてあつあつのローズマリーチキンを切り分けてオリヴィエのお皿の上に置くのだった。
『チキン……』
なんて言いながらもおかわりのマッシュポテトを独り占めして『美味しい』なんて涙を流しながら食べる様に飯田さんのご飯が『美味しい』だけの単純な言葉で終わらせるなんて芸術家としてどうなんだとチョリさんに文句を言うも、当の本人は幸せそうなので放っておいてねと言われるのだった。
本格的に雨が降り出してきた中を五右衛門風呂から上がって来たチョリさんは土間の長火鉢を設置した囲炉裏に座り髪を乾かしていた。竈オーブンの正面なので良い感時に温かくて風邪をひく心配はないだろうと思うもタオルでガシガシと男前に拭うも天パがちりちりとなって寧ろよく似合っている。いっその事パーマでもかけたらと言いたかったが意味はあるのかと思って黙っておく事にした。
「やる気のある子達なので教えがいはありますよ」
「熱心に親とも話をして、俺も見習わないとな」
オリヴィエを除いて別に弟子とかを持っていたりバイオリン教室しているわけでもないのにと思うも
「ああ、これでも向こうに行ってる時他の人のお弟子さんの面倒を見たりしてるんだ。泊めてもらうお礼にね」
「なるほど。ただより高い物はないと」
「そうそう。だから綾人君にも俺達を泊める代わりにおねだりしていいよ?」
「食費は貰う約束ですよ?」
「宿泊費は別だよ」
そう言われて何かのお礼と言うように考えればすぐに思いつくのは
「なら一曲動画用に作ってください。タイトルは『山の音楽家』で」
言えばオリヴィエをちらりと見て
「やっぱりリス?」
「ボスリスと子リスなイメージで」
「音楽隊なのにバイオリン二人とはこれいかに」
唸るチョリさんの目の前にも飯田さんが料理を並べてくれる。
「俺は音楽さっぱりですので」
にこやかな顔で笑うもカラオケは嫌いじゃないですよという。飯田さんの運転の時退屈だからとCDをかけながら二人して大声で歌ったりするのでわりとよく耳にしているが
「楽器となると俺も致命傷だけど?」
数々の伝説を作り上げる俺に宮下と圭斗の生暖かい視線は今も忘れられない。
高校ってなんだよ。アルトリコーダーのテストとか意味わからんし。
聞いても判らんと言うバアちゃんが畑に居る時に一人練習をする姿を運悪く宮下と圭斗に見られたあの時の屈辱……
「笑っていいぞ!!!」
宮下から話を聞いて知ってるだろう苦笑する飯田さんといきなり叫びだした俺にぎょっとするオリヴィエはチョリさんの後ろに隠れるも
『楽器何て小さい頃からやって何ぼだろー!
学校の授業で触れるだけのリコーダーでどうやって上達しろって言うんだよー!!!』
だから練習するのである。
判ってるけど、だからって楽譜通りに指を動かせるわけがない。
『リコーダーなんてクソくらえだ!!!』
庭から見える山に向かって吠えるもチョリさんは失笑するだけで飯田さんはわれ関せずと言う様にご飯の用意。そして
『そろそろ食べましょうか?』
安定のクールさ。飯田さんかっこいいよ。おかげで冷静になれたと言う様に机に付いていただきます。オリヴィエは手を組んで何やらお祈りをしていたけどそこは宗教の選択の自由が約束された国。先に好きな物が食べられても文句言うなよがその後に続くのでほどほどにしましょうと言う言葉で締めくくる。
案の定、俺が大人げなくローズマリーチキンの肉々しい部位に真っ先に手を伸ばせばオリヴィエも慌ててフォークを構えて次の良き部位に手を伸ばそうとするも飯田さんはスマートにチキンをごそっと持って行く俺以上に大人げない人で、あっけにとられるオリヴィエの隙をついてチョリさんもひょいひょいと箸を動かす始末。
『みんな酷い!!!』
『これが弱肉強食の世界。喰いたければ戦うが良い』
なんて訳の分からない事を言いながらも俺も自分の肉を確保している間にたった隅っこのカリカリになった三切れだけ残された飯田さんの絶品ローズマリーチキンにオリヴィエは涙目だ。
おかしいなぁ。ちゃんと鳥もも一人一枚分用意したのにと自分の皿にこんもりと盛られた肉の山を口へと運びながら考えてみるも
『うっま!!!
飯田さん、この皮がパリって最高!』
肉の油の少し甘味を感じる美味さもだけど、どうしても漂う獣臭さを消すローズマリーとピリリと効いた砕いた胡椒がサイコーにマッチしてる!それより何よりも
『この肉汁を吸ったマッシュポテトがまたうまくってどれだけでも食べれるってどれだけ罪な奴なんだ!!!』
いつの間にか空っぽになっていたマッシュポテトの盛られていた器に初めて気が付いたと言うようなオリヴィエの視線は今も着々と大人げない人達の手によって空っぽになっていく様を何もできずに見守っていて
『俺のマッシュポテト!!!』
ほとんど涙声になりかけてるオリヴィエに飯田さんは小首を傾げて
『おかわりならありますよ?』
冷蔵庫からもって来たマッシュポテトを見て涙を流す十五歳。少しからかい過ぎたかと飯田さんはもも肉一人一枚だなんて足りないのを理解してと言うか、こうなる事は判ってましたと竈オーブンから取り出した焼きたてあつあつのローズマリーチキンを切り分けてオリヴィエのお皿の上に置くのだった。
『チキン……』
なんて言いながらもおかわりのマッシュポテトを独り占めして『美味しい』なんて涙を流しながら食べる様に飯田さんのご飯が『美味しい』だけの単純な言葉で終わらせるなんて芸術家としてどうなんだとチョリさんに文句を言うも、当の本人は幸せそうなので放っておいてねと言われるのだった。
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