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山の音楽家が奏でる山の景色 1
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一度涙を流して冷静になったオリヴィエは俺に言われたとおりまず電話でジョルジュさんの状態を同じ音楽家仲間から聞いていた。何人からか聞いた所でジョルジュさんの息子さんと連絡を取って改めて状態を聞けば投薬からの貧血を起こしていて、今はもう大丈夫だと言う。舞台で倒れたので大げさにとらえられたけど、ひと眠りして今はお昼ご飯を食べていると言う所で電話を代わってもらっていた。
最初こそ不安げな顔をしていたオリヴィエだけど話しを重ねるうちにだんだん明るい顔色となって声も弾んで今滞在している所を紹介するのだった。そこで電話をチョリさんと交代して慣れない土地で頑張ってますと報告をしていた。演奏旅行で旅は慣れているだろうオリヴィエだけどさすがに初めての国は緊張していたらしく、だけど緊張する相手すらいない環境は傷ついたオリヴィエには良い環境だったらしい。
そんな様子を見守っていればチョリさんからスマホを渡されて小首をかしげる。なぜにと言う視線で問えば
「挨拶したいんだって」
気楽に言ってくれるが、クラッシックに疎い俺でも知ってるくらいの有名人と話なんて何があると思うも挨拶だけならと受け取れば
『初めまして、ジョルジュだ』
『えぇと、初めまして。アヤト・ヨシノと言います。お話できて光栄です』
なぜか片言の自己紹介になってぷっとチョリさんが笑っていた。
そしてスマホの向こうでも老いた声がおおらかに笑い
『君の事はマサタカから聞いたよ。動画も見せてもらった』
『ありがとうございます。自己紹介代わりになればと思います』
『安心して任せられる良い所だよ。それよりマサタカも面白い曲を作ったな』
『無理難題ばかりを受けてくれてありがたいです』
言えばジョルジュさんはまた笑いだして
『オリヴィエは元気か?』
すぐには応えれなかったけど
『ここでの生活に馴染もうとしてます』
それが良い事かはわからないが
『そうだ、親権を持ってる貴方に一つ許可を?』
何だいと言う促す声に
『ご存じの通り俺はこの山で生活の一部を動画にして撮っています。
せっかくのお客様と言う事でオリヴィエの様子を配信して行こうかと思います』
『それはいい。元気な様子を楽しみにしたい』
笑うジョルジュに
『そこでですが、オリヴィエにも滞在中の練習風景や、曲を作ってもらうように依頼しました。その制作風景を動画として配信したいと思います』
ほう?
なんて声は少し硬い。
『そうなるとオリヴィエの所属事務所とかの許可とかありますので……』
と続けようとした所で
『それはあの女のせいでみんな解約となってしまった』
音楽を活動するには悪夢のような言葉だった。
『オリヴィエは今なんの支援もない完全なフリーの状態だ。
しかも違約金とかを抱えているが、今までオリヴィエが稼いだ金はみんなあの女が持ち逃げした』
あー……と天井を見上げ
『7月の東京の演奏会はどうなってるのでしょう?』
『そこは、昨日マサタカが演奏会の出演だけはさせると言っていたが、無償の報酬になるだろうな。なんせ既にあの女がもう金を受け取ってしまったから』
……。
『それって出演に関して問題ないのですか?』
『マサタカが交渉したと聞いた。折角日本まで行って何もせずに帰るのは可哀想だからと。フリーな状態だしもともとチャリティーコンサートだ。これも良い経験と思って主催者が良ければ出演したいと言う流れになって出演する事になった事聞いてないのか?』
『俺にはまだ何も。ただの宿泊先の主人なだけなので』
まだ説明されてない事を寂しく思うも、それは彼らの事情だと俺の心配は彼らから話してくれるのを待ってからだと自分に言い聞かせていれば通話先の相手はその人生経験から苦笑する。顔も見てないのにこちらを見透かしたように笑うのはやめてくれとまるでジイちゃんのようなジョルジュに苦虫を噛んでしまえば
『今知り合いたちがオリヴィエの所属先を探している。出来ればマサタカと同じ事務所だとありがたい。自由が効いて、アーティストに対して丁寧だ。そのような事務所ならあの女がのさばらなかったのに』
よほどオリヴィエの母親は好き勝手な事をしていたのだろう。でなければここまで人生経験豊富な方を怒らす事はないだろうから。
とりあえず話しを邪魔しないように黙っていれば出るは出るは不平不満。音楽の事から病院生活と話題は多岐にわたるおしゃべりさん。海外通話だと言うのに延々と話を聞かされ意識が遠くなりだした所でチョリさんがやっと救済に来てくれた。
『ジョルジュ、入院生活が暇だからって初めて会った綾人君に愚痴を言わないの』
スマホを取り上げられた瞬間ぱたりと床に倒れ込んだ所で飯田さんが熱燗と焼いたそら豆を持って来てくれた。俺は這いながら囲炉裏の傍らまで移動して、ぐい呑みを貰って熱燗を注いでもらう。ぺろりと唇を湿らすように舐めて、こんがりと焼き目のついたそら豆を囲炉裏に置かれた五徳の上の金網から降ろしてくれた。
なんて優しい神なのだろう。
興味深そうに俺を見守るオリヴィエの視線の正面でそら豆の皮をむいてぷっくりと蒸し焼き状態の姿を現したそら豆に塩をちょっと付けて、あまりの熱量に口に放り込む事は出来ないから齧る様にちょこちょこと食べていればいつの間にか横に来ていたオリヴィエの手がひょいと伸びて俺を真似する様にそら豆の皮をむいて塩を付け、口へと放り込む。
ダメな奴だ。
『あーーーっっっ!!!』
転がりながら叫ぶオリヴィエにチョリさんも何事かとこちらを見るも、飯田さんが五徳から降ろすそら豆を見て通話先のジョルジュに説明をしてスルーした。
ほんとクールだ。
真似したいその精神。
涙目のオリヴィエに水を渡すのを見ながら俺は熱燗を呑む。
ふむ、美味し。
苦笑まみれのチョリさんは手慣れた様にジョルジュさんの通話を終えて囲炉裏の傍に座り込めば何時の間に用意したのか机にぐい呑みと取り皿を置いて
「お疲れ様です」
飯田さんが何か同情する事でもあるのか涙ぐみながらねぎらう様にお酌をする。
『ほんとあのジジイの真の楽器の口は止まらないなぁ、ったく、バイオリンより上手い』
呆れ果てたように言うその一言に
『そう言うのは先に言ってよ』
文句を言うのは当然と言う物だ。
最初こそ不安げな顔をしていたオリヴィエだけど話しを重ねるうちにだんだん明るい顔色となって声も弾んで今滞在している所を紹介するのだった。そこで電話をチョリさんと交代して慣れない土地で頑張ってますと報告をしていた。演奏旅行で旅は慣れているだろうオリヴィエだけどさすがに初めての国は緊張していたらしく、だけど緊張する相手すらいない環境は傷ついたオリヴィエには良い環境だったらしい。
そんな様子を見守っていればチョリさんからスマホを渡されて小首をかしげる。なぜにと言う視線で問えば
「挨拶したいんだって」
気楽に言ってくれるが、クラッシックに疎い俺でも知ってるくらいの有名人と話なんて何があると思うも挨拶だけならと受け取れば
『初めまして、ジョルジュだ』
『えぇと、初めまして。アヤト・ヨシノと言います。お話できて光栄です』
なぜか片言の自己紹介になってぷっとチョリさんが笑っていた。
そしてスマホの向こうでも老いた声がおおらかに笑い
『君の事はマサタカから聞いたよ。動画も見せてもらった』
『ありがとうございます。自己紹介代わりになればと思います』
『安心して任せられる良い所だよ。それよりマサタカも面白い曲を作ったな』
『無理難題ばかりを受けてくれてありがたいです』
言えばジョルジュさんはまた笑いだして
『オリヴィエは元気か?』
すぐには応えれなかったけど
『ここでの生活に馴染もうとしてます』
それが良い事かはわからないが
『そうだ、親権を持ってる貴方に一つ許可を?』
何だいと言う促す声に
『ご存じの通り俺はこの山で生活の一部を動画にして撮っています。
せっかくのお客様と言う事でオリヴィエの様子を配信して行こうかと思います』
『それはいい。元気な様子を楽しみにしたい』
笑うジョルジュに
『そこでですが、オリヴィエにも滞在中の練習風景や、曲を作ってもらうように依頼しました。その制作風景を動画として配信したいと思います』
ほう?
なんて声は少し硬い。
『そうなるとオリヴィエの所属事務所とかの許可とかありますので……』
と続けようとした所で
『それはあの女のせいでみんな解約となってしまった』
音楽を活動するには悪夢のような言葉だった。
『オリヴィエは今なんの支援もない完全なフリーの状態だ。
しかも違約金とかを抱えているが、今までオリヴィエが稼いだ金はみんなあの女が持ち逃げした』
あー……と天井を見上げ
『7月の東京の演奏会はどうなってるのでしょう?』
『そこは、昨日マサタカが演奏会の出演だけはさせると言っていたが、無償の報酬になるだろうな。なんせ既にあの女がもう金を受け取ってしまったから』
……。
『それって出演に関して問題ないのですか?』
『マサタカが交渉したと聞いた。折角日本まで行って何もせずに帰るのは可哀想だからと。フリーな状態だしもともとチャリティーコンサートだ。これも良い経験と思って主催者が良ければ出演したいと言う流れになって出演する事になった事聞いてないのか?』
『俺にはまだ何も。ただの宿泊先の主人なだけなので』
まだ説明されてない事を寂しく思うも、それは彼らの事情だと俺の心配は彼らから話してくれるのを待ってからだと自分に言い聞かせていれば通話先の相手はその人生経験から苦笑する。顔も見てないのにこちらを見透かしたように笑うのはやめてくれとまるでジイちゃんのようなジョルジュに苦虫を噛んでしまえば
『今知り合いたちがオリヴィエの所属先を探している。出来ればマサタカと同じ事務所だとありがたい。自由が効いて、アーティストに対して丁寧だ。そのような事務所ならあの女がのさばらなかったのに』
よほどオリヴィエの母親は好き勝手な事をしていたのだろう。でなければここまで人生経験豊富な方を怒らす事はないだろうから。
とりあえず話しを邪魔しないように黙っていれば出るは出るは不平不満。音楽の事から病院生活と話題は多岐にわたるおしゃべりさん。海外通話だと言うのに延々と話を聞かされ意識が遠くなりだした所でチョリさんがやっと救済に来てくれた。
『ジョルジュ、入院生活が暇だからって初めて会った綾人君に愚痴を言わないの』
スマホを取り上げられた瞬間ぱたりと床に倒れ込んだ所で飯田さんが熱燗と焼いたそら豆を持って来てくれた。俺は這いながら囲炉裏の傍らまで移動して、ぐい呑みを貰って熱燗を注いでもらう。ぺろりと唇を湿らすように舐めて、こんがりと焼き目のついたそら豆を囲炉裏に置かれた五徳の上の金網から降ろしてくれた。
なんて優しい神なのだろう。
興味深そうに俺を見守るオリヴィエの視線の正面でそら豆の皮をむいてぷっくりと蒸し焼き状態の姿を現したそら豆に塩をちょっと付けて、あまりの熱量に口に放り込む事は出来ないから齧る様にちょこちょこと食べていればいつの間にか横に来ていたオリヴィエの手がひょいと伸びて俺を真似する様にそら豆の皮をむいて塩を付け、口へと放り込む。
ダメな奴だ。
『あーーーっっっ!!!』
転がりながら叫ぶオリヴィエにチョリさんも何事かとこちらを見るも、飯田さんが五徳から降ろすそら豆を見て通話先のジョルジュに説明をしてスルーした。
ほんとクールだ。
真似したいその精神。
涙目のオリヴィエに水を渡すのを見ながら俺は熱燗を呑む。
ふむ、美味し。
苦笑まみれのチョリさんは手慣れた様にジョルジュさんの通話を終えて囲炉裏の傍に座り込めば何時の間に用意したのか机にぐい呑みと取り皿を置いて
「お疲れ様です」
飯田さんが何か同情する事でもあるのか涙ぐみながらねぎらう様にお酌をする。
『ほんとあのジジイの真の楽器の口は止まらないなぁ、ったく、バイオリンより上手い』
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文句を言うのは当然と言う物だ。
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