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繋ぐ縁は確かな財産 5
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バーナードが部下の人達と一緒に家の採寸を図っている中走り回っていたカールたちが戻ってきて
「さて、こうやってバーナードがやる気になると言う事は私は家具の買い付けかな?」
ぜーぜーはーはーと切らした息を数分間かけて整えた後の言葉。
「ええと、ここ以外にもお願いしてもいいかな?」
「任せてくれたまえ。こんなにも景気の良い依頼主なら希望の物を探しにどこにでも行ってみせるよ」
何か壮大な話になったがそうじゃないと首を横に振り、この場なオリオール達に任せてオリヴィエと飯田さんを連れて城へと戻り、真っ先に正面入り口から右側に曲がった所にある大広間の扉を開けた。
「これは……」
あっけにとられて導かれるように部屋を見回しながら部屋の中央へと無意識のように足を運んでいく姿を後ろから眺める。
「いつかです。オリオールがもう一度この部屋いっぱいにお客様を迎え入れられるようになった時。机を並べてシャンデリアの下でみんなで笑ってオリオールと飯田さんの料理を食べたい。オリヴィエのバイオリンが聞こえて来て、特別な日の特別な思い出にしたい。俺はそんな世界を見たいんだ」
決して憧れた世界は二度と手に入らない。だけどその憧れを叶えてくれる人たちが今の俺を支えてくれている。寄りそってくれる二人の気配に俺は心を強く持つ。きっと諦める事はみんな許してくれるだろうけど、心の底では諦めないでくれと幼い時の傷ついた俺が訴え続けている。でも思い出してみろ。もうあの人は俺を子供だとも息子だとも、自分が産んだ子供だとも思ってないのだ。
なにも珍しくはない。
決してお腹を痛めて産んだ子供の総てが無償の愛を受け取れるわけ絵ではない、その一人が俺なだけだっただけだ。
だったらこそだ。
俺を大切に、息子のように、弟のように、兄のように、家族のように愛してくれる人たちこそ俺は愛するべきだと……
決めたのだ。
思わず無言になってしまった俺にカールはさっきまでの高揚とした気分を隠せない顔をどこかに消し飛ばして心配そうな顔で俺を見下ろすように正面に立っていた。
「この城に何か思い出でも?」
聞かれて頭を振る。
ただ……
「一つの出発地点の印にしたい」
「……」
カールには全くわからない俺の謎の決意だろうが、それこそなんて家からはるか離れた所にと言うものだろうか。
「オリヴィエに俺は自分を重ねる所があって、オリヴィエは俺なんかより幼いのにかかわらず俺よりも早く立ち直って今はもう未来を見ている。まぁ、これからが大変な所だけど、ここを決意の場としての起点にしてもらっても良い。
そしてオリオールもだ。
沢山の人に甘えた結果総てを失って、立ち直ろうとした所で自分の傲慢と言う経歴が壁となって立ちふさがって。
知ってる?あの人俺がフランス語に詳しくないだろうって飯田さんには言えないような心の本音をぶつぶつ言っててさ。
いつか奥さんを迎えに行ってまたやり直したいんだって、あの年で。娘と息子さんもいて、孫もいて。全部取り戻すってここで取り戻せなくてももう一度家族が誇れる父親になるって決意をしてるんだ」
そう言って綾人はカールを見て
「俺はこの城をそれにふさわしくしたい、ただそれだけ。
飯田さんは反対してるけどこの城を買った金額の端数を切り捨てて300万ユーロを予算に見積もっている。足りるかな?」
カールはじっと、その金額を聞いて綾人の背後に立ち飯田の視線の鋭さに冷や汗を流しつつも
「上には上限がない。どこまでやるのかもまた変わるな」
言われて確かにと頷き
「とりあえず一階と二階は壁紙を変えたいし床は磨きたい。カーテンとか一式替えたいしベットは総てマットレスを交換だ。マスタールームの机も悪くはないけど小さいからもっと大きい物が欲しい」
「待て待てアヤト、そんなに一気に言われたらメモが追いつかない」
言われてしまったと思うも
「とりあえず一番最初に大広間を綺麗にしたい。
あの部屋に相応しいテーブルを並べて、オリオールと飯田さんの料理を並べてオリヴィエのコンサートが開けるように。目標は今月の終わりには俺が国に帰るからそれまでだ」
「なるほど……
アヤト、悪いがまずその期日で仕事が出来る人は難しいぞ?」
「俺の国ではその無茶を叶えてくれたけど?」
「……人件費がかかる」
「それで問題が解決するならささやかな問題でしかない」
カールは暫く綾人を睨みつけるも、綾人は何の問題があると言う様にカールを眺めて……
「判った。そこは俺からバーナードに言って調節させる。
そうと決まれば壁紙、カーペット、テーブルを決めなくてはな」
降参と言う様にカールは秘書達や部下に綾人の言葉を聞き逃すなと言ってボイスレコーダーを用意させ、その対応に綾人は満足そうに笑うのだった。
「さて、こうやってバーナードがやる気になると言う事は私は家具の買い付けかな?」
ぜーぜーはーはーと切らした息を数分間かけて整えた後の言葉。
「ええと、ここ以外にもお願いしてもいいかな?」
「任せてくれたまえ。こんなにも景気の良い依頼主なら希望の物を探しにどこにでも行ってみせるよ」
何か壮大な話になったがそうじゃないと首を横に振り、この場なオリオール達に任せてオリヴィエと飯田さんを連れて城へと戻り、真っ先に正面入り口から右側に曲がった所にある大広間の扉を開けた。
「これは……」
あっけにとられて導かれるように部屋を見回しながら部屋の中央へと無意識のように足を運んでいく姿を後ろから眺める。
「いつかです。オリオールがもう一度この部屋いっぱいにお客様を迎え入れられるようになった時。机を並べてシャンデリアの下でみんなで笑ってオリオールと飯田さんの料理を食べたい。オリヴィエのバイオリンが聞こえて来て、特別な日の特別な思い出にしたい。俺はそんな世界を見たいんだ」
決して憧れた世界は二度と手に入らない。だけどその憧れを叶えてくれる人たちが今の俺を支えてくれている。寄りそってくれる二人の気配に俺は心を強く持つ。きっと諦める事はみんな許してくれるだろうけど、心の底では諦めないでくれと幼い時の傷ついた俺が訴え続けている。でも思い出してみろ。もうあの人は俺を子供だとも息子だとも、自分が産んだ子供だとも思ってないのだ。
なにも珍しくはない。
決してお腹を痛めて産んだ子供の総てが無償の愛を受け取れるわけ絵ではない、その一人が俺なだけだっただけだ。
だったらこそだ。
俺を大切に、息子のように、弟のように、兄のように、家族のように愛してくれる人たちこそ俺は愛するべきだと……
決めたのだ。
思わず無言になってしまった俺にカールはさっきまでの高揚とした気分を隠せない顔をどこかに消し飛ばして心配そうな顔で俺を見下ろすように正面に立っていた。
「この城に何か思い出でも?」
聞かれて頭を振る。
ただ……
「一つの出発地点の印にしたい」
「……」
カールには全くわからない俺の謎の決意だろうが、それこそなんて家からはるか離れた所にと言うものだろうか。
「オリヴィエに俺は自分を重ねる所があって、オリヴィエは俺なんかより幼いのにかかわらず俺よりも早く立ち直って今はもう未来を見ている。まぁ、これからが大変な所だけど、ここを決意の場としての起点にしてもらっても良い。
そしてオリオールもだ。
沢山の人に甘えた結果総てを失って、立ち直ろうとした所で自分の傲慢と言う経歴が壁となって立ちふさがって。
知ってる?あの人俺がフランス語に詳しくないだろうって飯田さんには言えないような心の本音をぶつぶつ言っててさ。
いつか奥さんを迎えに行ってまたやり直したいんだって、あの年で。娘と息子さんもいて、孫もいて。全部取り戻すってここで取り戻せなくてももう一度家族が誇れる父親になるって決意をしてるんだ」
そう言って綾人はカールを見て
「俺はこの城をそれにふさわしくしたい、ただそれだけ。
飯田さんは反対してるけどこの城を買った金額の端数を切り捨てて300万ユーロを予算に見積もっている。足りるかな?」
カールはじっと、その金額を聞いて綾人の背後に立ち飯田の視線の鋭さに冷や汗を流しつつも
「上には上限がない。どこまでやるのかもまた変わるな」
言われて確かにと頷き
「とりあえず一階と二階は壁紙を変えたいし床は磨きたい。カーテンとか一式替えたいしベットは総てマットレスを交換だ。マスタールームの机も悪くはないけど小さいからもっと大きい物が欲しい」
「待て待てアヤト、そんなに一気に言われたらメモが追いつかない」
言われてしまったと思うも
「とりあえず一番最初に大広間を綺麗にしたい。
あの部屋に相応しいテーブルを並べて、オリオールと飯田さんの料理を並べてオリヴィエのコンサートが開けるように。目標は今月の終わりには俺が国に帰るからそれまでだ」
「なるほど……
アヤト、悪いがまずその期日で仕事が出来る人は難しいぞ?」
「俺の国ではその無茶を叶えてくれたけど?」
「……人件費がかかる」
「それで問題が解決するならささやかな問題でしかない」
カールは暫く綾人を睨みつけるも、綾人は何の問題があると言う様にカールを眺めて……
「判った。そこは俺からバーナードに言って調節させる。
そうと決まれば壁紙、カーペット、テーブルを決めなくてはな」
降参と言う様にカールは秘書達や部下に綾人の言葉を聞き逃すなと言ってボイスレコーダーを用意させ、その対応に綾人は満足そうに笑うのだった。
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