人生負け組のスローライフ

雪那 由多

文字の大きさ
567 / 976

踏み出す為の 4 

しおりを挟む
 フランスに行く前に一度飯田さんにお土産を持って行こうと思って会えるか連絡したら急な出張で留守にするのでと断られたのでお店に行ってお土産だけ手渡して空港のホテルで宿泊する事にした。
 飯田さんの料理に癒されればと思って嫌な事は先に済ませておこうとしたけど、飯田さんが留守ならやめておこう。そして嫌な事はしっかりと頭の隅に追いやってしっかりとホテルディナーを満喫する綾人だった。
 これと言ってする事はないので早々眠りについて明日一番のフライト時間までにこの移動に疲れた体を休ませておく。
 そして一度覚えた贅沢は中々忘れられず、ファーストクラスでゆったりとフランスに移動するのだった。
 ご飯美味しいし、窮屈じゃないし、子供も騒がないし、贅沢だよな。
 そんな空間を買ったと思えば中々にしていい買い物だと思う。
 年に一度の贅沢…… 一度?たぶんね、なんて窓の外を見ながら地上とはまた違う角度の星空をうっとりと眺めるこの世界を堪能できると言うのも至上の極みだ。
 家の方は宮下が世話をしてくれると言う。ウコ問題も安心して解決。そして昼間は麓の家に通って長沢さんと扉作りに励んでいると言う。少しずつ工具を貰い受けたり長沢さんも仕事場を麓の家でやる様にして仕事を受け継いでいると言う。
 今はご近所さんからの依頼で襖を張り替えたりしているらしい。お正月に綺麗な襖で迎えたいからとこの時期はそれなりに忙しいらしい。その中で圭斗の離れの扉も全部作り直すしかない劣化具合と、俺の台所の方は根本的にサイズが変わる為に再利用不可となった為に新しく作ってもらっている。出入りしやすいようにしてもらったのでサイズ違いなら仕方がないしとアンティークな風格のないカビの生えていた扉は五右衛門風呂で焼却処分されていた。
 飛行機の中は特にやる事がないのでトレーダーとは言わないけど株の動向はしっかりと見ている。補助となる情報が得られない環境なのでそこまでガッツリやらないけど、欲しいと思った株を購入しておく。
 ただここで問題が発生した。
「やあ、君は前にも、七月の終わりにフランス行きの飛行機に乗ってなかったかい?」
 白髪の身なりの良いお爺さんが声をかけてきた。顔に覚えはない。誰だ?
「ええと、まあ……」
 それなりに悪目立ちしている自覚はある。
 ファーストクラスに乗るのにまったく普通の恰好でノートPCとタブレット、そしてスマホを操る程度の荷物しか持ってなかったのだ。
 海外旅行に行くと言うのにトランクも二泊三日程度の少なさだったし、旅行舐めきってる、もしくは上級者な出で立ちは本当に目立っていたのだろう。それに個室に近いこのスペースからほぼ出る事もなかったし、機内を探索する事がなかったから気付かなかっただけで、見られている可能性は全く考えてなかった。
 とりあえず老人を立たせるのもあれなのでバーカウンターへと移動してシャンパンを奢って貰う。
「ずいぶんと株を見ていたようだね。ブラインドタッチも滑らかだし、ひょっとしてトレーダーか何かなのかい?」
「ずいぶんとあからさまですね」
 あははと笑えば爺さんは少しだけ申し訳なさそうな顔をするも、その目は全く悪ぶってる様子はない。
「なに、私も会社経営しているからな。今時の若いトレーダーの目にはどんなものが魅力に感じるか少し話を聞きたいだけなんだ」
 乾杯と言ってグラスを持ち上げてシャンパンを頂く。
 カウンターにもたれながらナッツを齧るも、気泡の立つグラスにはこちらを見守るスーツを着た人が映り込んでいた。映像処理していたせいもあって映り込みに気を付けるようにした努力が実を結んだ形に喜ぶも黒スーツ何て正直に喜べないと冷や汗が流れる。
 ひょっとして立派な身分の爺さん?それともヤバい系の人?
 そんな情報が一切ないので考えている間にシャンパンを飲みきってしまった所で爺さんがブランデーも飲みなさいとおごってもらった。
 逃げられない系だと単純な情報を与えて去ろうとする事に決めた。
「トレーダーって言うほど取引してないし、張り付いてまで動向も見守ってません。
 基本に乗っ取って、興味のある株を買ってます。あと、俺かなりの僻地に住んでいるのでお取り寄せじゃないけどおいしい物くれる所だとか、どうしても工具は必須なので愛用している会社の応援ではないけどそう言う所はメインに」
「若いのにこれと言った冒険はしてないのだなぁ」
 呆れたと言って見せる爺さんに少し前の失敗談を話す事にした。
「株に手を出した頃、好きな電機メーカーの株を買ってたんですよ。お金が溜まったら買う様にしてて……
 ある日黒塗りの車がやって来たと思ったらその電機メーカーのお偉いさん達が来ましてね。かなりの株をお持ちいただいてどのような方かご挨拶にってなったんですよ」
 目を見開いて驚く爺さんに
「いつの間にかかなりの大株主になっていたらしくって、期間から見ても乗っ取りとかそう言うのを警戒した方がいいと会社の方で方針があったそうで……」
「それはそれは……」
 苦笑する爺さんに
「もしご都合があれでしたらって株を売り渡すと言う話になったのですが、乗っ取りでなければこれからもよろしくお願いしますって話しがあって以来何事もほどほどにする事に決めているんですよ」
 因みにその株は安定しているので今ももっている。株式総会なんて一度も顔は出した事はないけど。


しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

処理中です...