人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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歩き方を覚える前に立ち方を覚えよう 5

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 三週間のイースター休暇はとても有意義に過ごせれたと綾人は思う。
 日本の子供達の就職のお祝いも出来たし、初めての海外を体験で子供もいた。きっと生涯に置いて忘れられない出来事だと思う。むしろ忘れたら許さんと言うのは向こうも理解しているだろうからいちいち言わないが生涯に置いて
「チケット取っておいたからちょっとフランスまで来い」
 なんて言われる事はそうそうないと俺は思う。その証拠に俺だって未だに一度も言われた事ないからな。
 自分で言っておきながらちょっと言われてみたいと思う綾人だった。
 ともあれイギリスから農業未経験者とは言えやればできる子達。肉体的にも慣れた頃になった頃、自分達で勝手に調べてあーだこーだ言いだしたから畑の一角を与えて自分達専用の畝を一列与えて、苗を売ってる所に連れて行って好きな苗を買わせ手植えさせてみた。ちゃんと自分の畝に名札を付けて、苗の名札は記憶したからいいと言う今まで聞いた事のない自信ある言葉に謎の感動をしてしまう。ほら、「何植えたっけ?」が通常だったからね。勿論答えは「育てば分るよ」が一般的なの答えだった……
 ちなみに宮下は「綾人ちゃんと名前と苗を覚えておいてね」なんてメモ帳代わりに使いやがった上級者だ。
 それはともかくしっかり農家の子供にジョブチェンジした同級生達の滞在時間も終わりが近づき、リヴェットとオラスをマスターと呼び、また夏に来るのでそれまでのお世話お願いしますと両手で握手する姿を見てやりすぎたかと反省しつつも
「じゃあオリオール、悪いけどオリヴィエの事頼むな」
「ああ、アヤトもしっかり勉強に励むと良い」
「ありがとう。お店の方もまたオンラインで状況聞くけど、借金の返済も終わったし好きなようにやっていいよ」
「ああ、もちろん」
「ただし……」
「営業だけではなく経理もちゃんとやる。営業の動画も毎日上げる。これは日課と言うより日記でなかなかいい記録だ」
 いい笑顔の言葉は確かな自信からの言葉だ。初めて会った時の余どんな目と疲れ切った目元のオリオールはもういなく、畑仕事も自ら手を入れてその日採れる野菜を見てメニューを決める拘りぶり。あれ?なんか深山の家でも同じことしてる人居たよな……
 商売してないだけまだまだと思っておこうなんて頷きながら
「うん。しっかり生活の一部になったみたいだね。
 だけど俺はジョエルとジェレミーの事を心配してる」
 不安はちゃんと伝えて置けば勿論と言う様にオリオールも頷き
「アヤトには不安をかけてばかりで申し訳ない。
 だが、私は今度こそ弟子をちゃんと育て上げたいと思っている。いずれ……」
 何れなんだと思えば
「もう一度自分の店をもちたちと思った時、その時は数年で潰れないようなちゃんとした営業と人を見る目を養えるように育てたい」
 何故か俺を真っ直ぐ見て言う。
「私も綾人のように人を導く人間になりたいと思うようになった。
 沢山の弟子に料理を教え沢山の弟子を送り出してきた自負はある。だが、私のピンチに駆けつけて来てくれたのはカオル一人だけだった……」
 寂しそうなオリオールの気持ちは痛いほどにわかる。
 俺も深山に引っ越してきた頃東京の友人と連絡を取り合っていたが、結局東京のスピードにだんだん過去の人にされて行き、結局の所同じマンションに住んでいた幼馴染しかもう連絡は取り合ってない。
 あのマンションから荷物を引き払う時に何年振りかに再開したが、話す言葉が見つからず、ただもうここには帰ってこない事を言えば元気でねとの別れの言葉だけだった。 
 おせっかいな事に俺の部屋に住む子がどんな子か何度かエレベーターで確認してくれたけど、今では本当に連絡も取る事もなくなったので飯田さんが駆けつけてくれただけにオリオールが羨ましく思うのだった。
 そんな昏い気持ちを抱えながら羨ましいとそっと視線を外せば
「アヤトには何人の友人が駆けつけてくれた。
 観光でも他に遊びに行くわけでもないのにただ人手が足りなくて困ってる、それだけの事なのに何時間もかけて沢山の人が駆けつけて来てくれた。
 それを見て私は如何に表面だけの付き合いしかしてこなかった事を思い知ったよ」
 それが寂しく笑う理由。
 そこを気づかされた俺は顔があげれないくらいに恥ずかしくて嬉しくて。
 大木がごつごつの手が頭の上に乗せられた。
 太い指でわしゃわしゃと頭を撫でられながら
「綾人に二度目の人生を貰った。
 今度こそ料理だけではなく人として人に認められる人間になる為に頑張るよ」
 きっとそれが料理人として転落してしまった弟子への救済処置は自分自身も救う為の物でもあるらしい。
「だったらよろしくお願いします」
 これ以上何か言ったら何か形にならない言葉をみっともなく吐き出しそうで背中を向けてしまったが、その言葉こそオリオールは吐き出させたかったみたいだ。
 小さな、ひょっとしたら聞こえないのではと思うような溜息を俺はしっかりと聞き取るも俺は背中を向けて歩き出す。

「お前ら!忘れ物ないだろうな!」
 
 今日はイギリスに帰る日。
 お昼のお弁当とお菓子のお土産を持って残り少ないイースター休暇に全員一度家に帰らせる。
 別に帰らなくていいと言うが、俺は給料袋と言う名のただのお金を入れただけの茶封筒と給料明細を入れた物を押し付けて
「自分で稼いだんだから家族に自慢してこい」
 初めてのバイトで稼いだお金でお土産を買って行けば?とありきたりな提案をすれば十五日ほどの滞在期間で得たバイト代を高いと思うのか安いと思うのかそれは個人個人の問題だ。
 ただそれ以上に充実した日々を過ごさせたつもりはある。
 起きて仕事をして飯を食って寝る。
 いたってシンプルな生活は夜遅くまで勉強漬けの日々を忘れ去るぐらい健康的な血色をした顔をしている。
 まあ、俺に取ったら慣れた日常なだけにリフレッシュも出来たしなと満足して迎えに来たご近所のタクシーを呼び、大荷物なお坊ちゃまの為にもう一台追加すれば息子さんもタクシードライバーと言うご近所さんにとりあえず駅までとお願いしてまた学生生活に戻るのだった。

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