人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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脳筋なめんな! 1

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 家に戻れば先生が掃除道具を渡してくれた。
「とりあえず部屋の掃除と布団の用意をしてやれ。
 先生は台所側の部屋で寝させてもらうから。シェフには奥の間を使ってもらえ」
「離れに泊まらないの?」
「一応初心者が三人も居るからな。あいつらのフォローしてやらないとこの昭和な時代の家じゃ耐えれんだろ」
「まあね、昭和は昭和でも戦前の家だからね。
 って言うか生活能力はどうなってるの?」
「あるように思えるか?」
 真面目な顔で言い返されたので俺は無意識でスマホを取り出して
「あ、陸斗?悪いんだけどさ、ちょっと手伝って欲しい事があるんだけど。バイトお願いしたいんだけど時間ある?」
『綾人さん、今家に居て渉が来てるんですけど」
「よし連れてこい。圭斗には俺の方から連絡しておくから飯田さんの晩飯食べにおいで」
『お邪魔します!』
 なぜか元気な下田の声に笑ってしまう俺を見て先生は変らないので何よりと何の感情もなく言うあたり最初から期待していたと思うべきだろう。
「あと誰か連れて来れそうなやつがいたら泊りがけで連れてこい」
『じゃあ住職さんの所の一樹と内田さんトコの幸治を連れてきます』
「おう、草刈り要因はいくらでも大歓迎だぞ」
 素直に労働力お待ちしてますと言って通話を切ってすぐに圭斗に連絡して
「綾人なんかあったのか?」
 珍しく仕事中に連絡がきた。悪い事ほどかけてこないからこうやって堂々掛けてきたから逆に不安になる圭斗の声は思わず固くなってしまえば側に宮下と園芸部がいたようで
「綾人何があったの?」
「綾人さん今度は何やったんっすかー」
 なんて相変らず緊張感がないけど心配気な園芸部の声も聞こえる。こいつは変らんなと思うもパチから立派に卒業できたので空地を一つ与えて遊ばせて見せればおじいちゃんおばあちゃんの集う憩いの場を作り上げたこいつを俺の中ではかなり見直していた。植えた樹木も花の苗も実桜さんから差し穂を分けてもらい自分で根出しをしたり、種から発芽させたり、ご近所から余ってる瓦を貰い受けて花壇を作って取り放題の竹やぶから竹を切りだしてイスやテーブルを作ったりして見せたのだが、仕事が終わった出荷チームの奥様方の仕事の後の憩いの場に変り、それがご近所さんも見て犬の散歩とかの休憩場に早変わり。園芸部は
「植物育てられれば満足だし、種が零れて勝手にどんどん増殖して行くし球根類もいっぱい植えたから放っておいても勝手に来年の今頃も咲くから手がかからなくていいよね」
 中々節約を心掛けているのは周囲が圭斗と実桜さんと言う節約家ががっちりと脇を固めているからだろう。
 だからかお金が貯まったら実桜さん達の家みたいな空家があれば譲ってくださいと言われた。
 いや、そんなこと言われなくてもこの辺空家だらけだぞと言うが
「一応内覧させてもらったんだけど綾人さんの家から切り出した家と内田さん達が作った家ばかり見ていたら目が肥えたみたいで小さくてもそんな家が理想です」
「土地をやるから家ぐらい自分で作れ」
 何かめんどくさくなって言うも
「彼女が出来たのでいつまでも圭斗さんの家にお世話になるわけには!!!」
 総ての理由が合致した。年頃の男児だったら健全に過ごしたいと言うのは理解できるが
「出会い系アプリとか?」
「いえ、趣味の園芸の公園に居る時に散歩に来た彼女と話をするようになって」
「意外と真面とか?!」
 この時代に驚くしないソフトな出会いに耳を疑ってしまう。
「圭斗と宮下から何の報告もないから全く知らんかった」
「ですよね。今度告白するつもりなので」
 ……。
 なんか壮絶な事故が発生する予感がした。というか
「お前、彼女が出来たって言ってなかった?」
「はい!俺の脳内ではばっちりなので結婚前提に計画をしようかと!」
 はい、ダメなやつ決定。
「で、脳内嫁の名前は?」
「小麦のお姉さん」
「小麦って言うと柴犬?」
「いえ、コーギーです」
「犬じゃなく飼い主の名前は?」
「告白した時に聞こうかと」
「年齢は?」
「多分俺より年下ぐらい」
「それだけの情報で良く結婚しようと思ったな。むしろ感心する」
「毎日声をかけてくれるので気がある証拠でしょう!」
 そんなわけあるかと頭を抱えたかったがそれよりも現実を見せる事が早いと判断して
「土地や家の話しは置いておいて、とりあえず告白してこい」
「っす!指輪買ってみたけどサイズ大丈夫だといいっすね」
 きらりと輝くような笑顔に久しぶりに人外と話をしている気分になった後日……
「綾人さん、お、俺……」
「で、どうだったんだ……」
 声のトーンや鼻水をすする音で理解と言うか結果を聞く前から判りきった答えは
「小麦のお姉さん既婚者でした……」
「そうだな。素敵な物件は既に人の物と言う事を前提に行動しろよ」
「っつ!結婚まで考えたのに!まさかの十以上年上の中学生の子供のいるお姉さんでした!」
「ちゃんと情報収集しないからだ。とりあえずお前がストーカーに進化しないようによいっちゃんに連絡しておくから笑われて来い」
「まって!よいっちゃんだけにはっ……」
 そこでぶっちぎって長谷川工務店に電話をして与市さんに事の出来事を総て話しておいた。長谷川工務店全員で弄られるのは確定したからこれで安心だと圭斗にはできない教育はよいっちゃんに押し付ける事にした。
 
 そんな自爆行為を繰り返す園芸部も今はまだ大人しくしてるなとあの笑劇から数か月たって立ち直った彼は花と話をする境地に達したと実桜さんがビビっている事を思い出しながら俺達も避けて通れない問題児の爆弾に圭斗にヘルプを求める。
「先生がまた生徒さん連れてきたから陸斗借りるな」
「そんな先生ポイしてきなさい」
 またか?!なんて悲鳴を上げるよりも受け入れるなと言う所だろうが、既に着々と真っ白なままの解答欄のプリントの山を作り上げる三人にそう言うわけにもいかないよなと想定通り早々に終わりそうになった実力テスト。久しぶりに見る悲惨さにそうも言ってられないだろうと溜息を零して陸斗達が来るのをひたすら待つのだった。



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