人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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勝ち負けの線引きはどこにある?! 3

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「綾人くーん!今日もその虫けらを見るような瞳ステキだねー!」
「目つき悪いの自覚してます。
 ですが、勝手に俺を外道な人間にしないでください。これは標準装備です」
 遠くからスキップする足取りでやって来た多紀さんをどう対応しろと思うも逃げ出さなくなっただけ俺は成長したと自分で思っている。
 フランスからの帰り道、空き家になっている家の空気を入れ替えるため飯田さんと一緒に向かう所で待ち伏せをしていたのかのように屋根付きの門の下からやって来たのだ。
「こんな所にずっと居るとご近所から不審がられて警察呼ばれますよ」
「うーん、あと十五分ほどで瀬野が回収しに来てくれる手はずを整えてくれてたんだ」
「じゃあ、このまま放置で問題ありませんね」
「綾人君相変わらず鬼畜仕様!だけどそれがくせになる~!」
「変態かよ……」
 いうも
「熱中症になったら困るから中で休んで行って下さい」
「うん。そう言ってもらえると助かるよ」

 気温は三十五度を超えたこの炎天下でわずかな日陰の中、空になったペットボトルをもって途方に暮れている多紀さんと言う絵面が面白かったけど、年も年だし命的な問題も発生しそうなので勘弁してほしい。事故物件はやめてよとその時は補填してもらおうと思うけど絶対無理だろうなと瀬野さんの弁護士さんの有能さを考えれば下手なケンカはしたくない。
 結局の所多勢に無勢。負けが見える喧嘩にエネルギーはつぎ込みたくないと飴と鞭装備で上手に距離を取るのがベターと言うものだろう。
 今はこの屋敷の管理人は高遠さんにお願いしている。
 ほら、植草さんは爺さんが儚くなった後すぐに再就職先を見つけて渡米をしてしまったのでどうしようかと考えていたら高遠さんがまるで狙っていたかのように手を挙げてくれた。
 ちなみにご自宅のマンションもあるのにここに住み込んでいる。
 俺の代わりに面倒を見てくれるなら別にいいけどねと八月いっぱいと言うめどをつけてお願いしている。
 とりあえずはキッチンにこもって何やら楽しんでいるらしいと時折薫と一緒に遊んでいるなんて報告が青山さんから来た。
 まあ、奥さんと一緒に試食会なんてしてるんだろうねなんて想像しながらも
「地下のワインセラーのラインナップ見事だね。薫と楓がものすごい勢いで消費してるのに全く減った感じがないんだよ」
 見事なまでの二日酔いで顔色の悪い高遠さんとは明らかにお元気そうなお二方はそっと視線をそらした。
 なので俺は皆さんの健康を考えて
「一日一本までです。一人一本ではありません。一日に一本です」
 絶望した顔のお二方に強く言い聞かせてみせた。
 そりゃあ、好きに飲んでくださいと言ったのも俺だし、興味あるお酒は持って帰ってもいた。そしてそのお酒たちはザル達が浴びるように飲んでいいような金額のものではなく、飲む人にもステイタスを選ぶようなステキなラベルを持つお酒。
 ちなみに飯田さんのカバンにボトルが入っていたけどそれは見逃しておいた。
 結局の所飲み干さないとゴミになるだけだしね。ましてや持って帰ってもどれだけ飲まないといけないのかと言う試練にもなる。だけど飲んで供養、ではないけどゴミにするくらいなら美味しく飲んでいただく方が生産者達の方にも失礼ではないから目をつむっているだけだ。
 そんなお酒達も今ではずいぶんとすっきりしてしまっていた。
 お酒の部屋がwww なんて思っていたけど、缶ビールや焼酎は先生の為に持って帰ったりもしていたし、ワインは主に飯田さん達が飲み干してくれていた。
 あれだけのコレクションがなくなるなんてと感慨にふけっていれば

「綾人くーん、お風呂ありがとう。
 ずいぶんとすっきりしたよー」

 ご機嫌な顔で多紀さんがお風呂から出てきた。
「今冷たいお水用意しますね」
「飯田君ありがと」
 氷の浮かぶグラスにはレモンの輪切りも入っている。
 抜け目がないなと感心しながらも俺も頂く。
 エアコンのきいた室内で火照った体を覚ますように喉を鳴らしながらお水を飲む様子に
「絶対ビールならもっとおいしいと思います!」
「ではお食事の時にご用意しますね」
 今飲みたいのにさりげなく拒否られてしまった。
「今だから美味しいのにー」
「でしたら急いでご飯作りますね」
 お犬様の完璧な笑顔に宜しくお願いしますと頭を下げれば多紀さんの明るい笑い声が響くのだった。



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