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うちの隊長は裏切られた期待に涙を流すもこればかりはしょうがないと諦めるようです

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 後宮の入り口を見張る宮廷も困惑していた。
 何故かラグナーの横をがっしりと捕獲する同僚の姿と苦笑するご機嫌なヴォーグ。
 普段のヴォーグの機嫌の悪さと態度の悪さは宮廷騎士達の間でも有名だが、結婚した事は知っている為にこの様子を見て何が起きたんだと困惑していた。
 不機嫌な顔が標準装備のラグナーでさえこの時間に珍しくご機嫌なヴォーグの屋敷にどことなく嬉しそうに拉致られる様子はこの後何が起きるのかは考えるまでもない。
 ただ、アルホルンにいるはずの同僚達が戻って来てた理由がまさかこれが理由だからじゃないだろうなと思うも、たかが元奥さんに会いたいがための理由なんてアルホルンを閉める理由にはならない。
 さすがに国王も許さないだろう。
 まぁ、そんなこと知った事じゃないバックストロムの剣だが、少なくともそんな事を理由にこちらに戻る理由はないとは思っていた。

「おかえりなさいませ。
 客人をお招きとは聞いておりませんが?」

 出迎えた所で来客の準備が出来てない事を伝えるも

「シーヴォラ隊長は我々の仕事に少しっ手伝ってもらいたくて招いただけだよ。
 彼も仕事の途中に抜け出てもらっただけだからね」

 客人じゃないと言えば出入りに署名をしてもらって武器を預かり、大きな抽斗に片づけて鍵を丁寧に掛ける。

「ではごゆっくり」

 立礼のまま後宮に足を運んでいく後姿を見送り

「アヴェリオ殿は何で一緒じゃないんだ?」

 少なくともあんな風に連れて来られる事はないだろうにとまっすぐに伸びる廊下の奥にと遠ざかって行く背中を見送った。



 王宮の建物の中では小さいが、一人で過ごすと言うには十分広すぎる屋敷がヴォーグの王都の居城だ。
 なんと数年前に出来たばかりの新築で王妃、王太子、王女達と住む場所をしっかりと区分けするように鉄の柵でしっかりと仕切られていた。
 当初王女達が離れだと勘違いして遊び場として欲していたと言うが、身の丈よりもはるかに高い頑丈な柵が拒絶する様に立ち誇ればここから先は入っていけない事に不満を覚えるも、ここから先が王女達にとって相性の悪いバックストロムの剣の居場所だと聞かされればそこから足を進めるのを躊躇うのだった。
 王を王とも思わなく、王子達に至ってはゴミのような目を向け王女共々存在さえ視界に入れない。
 唯一王妃だけは丁寧に応対するも、それ以外は返事すらしない。
 不敬だと喚く者が多いが、王と同位のヴォーグを守るのはもっぱら王の役目。
 手のかかる息子が増えたと思われている事はヴォーグは知らないし知りたくもない。
 王宮内と言うのにしっかりと守られた場所に辿り着けば鍵のない扉は開かれ、一斉に眩いばかりに明かりが灯った。

「鍵がないって、なんか無防備じゃないか?」

 三度目の訪問だが相変わらず不用心だなと思うも

「指定された者しか入る事が出来ない仕掛けを施してある。
 同時にこの扉が開くたびに魔法が発動して綺麗になるという仕掛けを仕組んであるから掃除要らずだし綺麗なはずだよ」

 とのヴォーグの説明に

「それは便利だな」

 是非とも隊舎に、特にトイレに設置したいと思うもきっと複雑だろう技術に普及しない理由を想像する。

「料理人が入れなくって準備が出来ないって欠点はあるが、別にそれは自分でやるからいいけどね」
「それは大問題じゃないのか?」
「指定した誰かが居れば出入りは自由だしフレッドが手配もしているから不便は感じたことないし、居なくても俺は構わないしね」

 にこにことこの入口とヴォーグの家の寝室ぐらいしか知らない屋敷の中をヴォーグは簡単に説明してくれる。
 ちなみに宮廷騎士の待機場もあり、そこは前に元団長に食事をさせてもらった場所だった。
 考えてみれば王族達と同じ場所に騎士が案内されるわけがないのだが、王族が案内される場所はあれ以上に煌びやかな部屋なのかと思うとあのヴォーグの少し薄暗く手狭な家が妙に懐かしかった。
 少し前にあの家の前を通ってみたが、既に新しい住人の賑やかな声が響いていた。
 窓からは色とりどりの布が見え、奥さんが客だろう女性に布を当てて客と笑いあっていた。
 生活は上手く軌道に乗ったんだなとそのまま立ち止まることなく通り過ぎたのだった。
 あの家を思い出している間にも俺は宮廷騎士達に未だに拘束されたままヴォーグの寝室に案内された。

「で、二人はラグナーに何をさせたいの?」

 まさか寝室に案内するなんてと、ヴォーグですらなんとなく警戒していれば俺は隊服が皺になるからと上着を脱がされた横にヴォーグが座らされた。
 何なんだこれはと二人して思っていれば靴も奪われる中ベットに転がされてぎょっとする俺を他所にヴォーグまで転がされて

「ちょ、二人とも一体何なんだ?!」

 ヴォーグ共々腹筋を頼りに起き上がるも直ぐに横に転がされた。

「いえ、ただシーヴォラ隊長にはこのまま横になってもらうだけでいいです。
 そしてルードヴォーグ様はシーヴォラ隊長に抱き着いてください。
 ルードヴォーグ様失礼します」
「なぜに俺は枕か?」

 即答で睨みつけるように答えれば室内の明かりを消されるも、真っ暗になる室内に小さなランプがほんのりと浮かび上がっていた。
 
「おい……」
「お静かに。
 目を瞑って声を出さずに数を数えてください」

 そう言い残して二人とも部屋から出て行ってしまった……

「ったく、あいつら何させるつもりだと思ったら……」

 ヴォーグの体温を感じてしまえば御膳立てされたこの環境に少し顔を赤らめながらもヴォーグの顔を覗き込もうとすれば、その瞼はしっかりと閉ざされていて、規則正しい静かな寝息だけが零れ落ちていた……

「おい……」

 微かな明かりに目が慣れた世界では既にヴォーグは夢の中に旅立っており、俺だけが一人頬を引き攣らせていた。
 だってそうだろ?
 この時間に仕事を抜け出して何をさせるのかと思えば案内されたのはヴォーグの寝室。
 ご丁寧にベットに二人並べられて明かりを消されたらやる事と言えば一つだろう……

 なのにだ!

 こいつは十も数える前に気絶する様に寝るし、少しばかり期待するのは俺のせいなのか?!すっかりその気になってる身体は十分ズボンの中では苦しいぐらいだし、そのくせヴォーグの体は平常心だ。
 何の興奮もしてなくて、ただただ眠っている。

「せめて勃たせろよ!!」

 一人でするからさと大声で訴えるもすやすやとした寝息を零すだけ。
 いくら睨んでもただただ寝るだけのヴォーグに俺は溜息を零してベットを抜け出た。
 どこか疲れているような顔はしているなと薄っすらと浮かぶ目の下の隈に心配はしていたが

「ベットに横になるだけで寝るなんてどれだけ疲れてるんだ?
 それはもう気絶って言うんだぞ」

 と顔を覗き込んで言うも帰ってくるのは静かな寝息だけ。
 これは無理だと隣からベットを抜け出せば気付かないわけがないヴォーグが今も只管すやすやと寝ているのだ。
 そっと溜息と涙を零して部屋を抜け出るのだった。







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