27 / 44
愛すべき時を刻む音 2
しおりを挟む
開店より早くやって来たのは品のよさそうな老婦人とその息子と言う二人で老いてもどこか面影のつながりのあるそれなりに身なりの良い人だった
座敷に案内してお袋がお茶を出して下がった所で
「佐倉古道具店の店主、佐倉巌です。
本日は忙しい中足を運んでいただきありがとうございます。
これは息子の香月と申します。後学の為同席をよろしくお願いします」
「こちらこそお世話になります。
楠一成と申します。そして母の美津子です。
我が家は古くは貿易商を営んでおり、今そちらは撤退して日本各地の隠れた名産を紹介する商社を運営してます」
聞いた覚えがある。たぶんよくデパートのテナントに入ってる楠商店の事だろう。楠商会と言う大きな会社が母体だった記憶がある、
低姿勢だから解らなかったけど業界の有名人じゃんとあちらもまだお茶に手をつけてないので俺も手に付けるわけにいかなく、下座でおとなしく耳を傾けていた。
二、三お互いの話をした後持ってきたかばんから一つのアンティーク時計を取り出した。
貿易商をしていた時に手に入れたものだろう。
美しいアンティークの置時計は家具を愛する職人の手で作られたかのような美しいデザインに本物の金ではない事を願わんばかりの輝きを持つクラッシックなゴールドラインの装飾が目を引く華やかな品だった。
「すごい……」
綺麗と言おうとしたところで声を出してしまったことに気付いて慌てて口を閉ざしたけど楠様は嬉しそうに目を細めて笑ってくれた。
思わずという様に小さくなってしまうけど
「綺麗でしょ?
亡き主人のおじいさまが手に入れてくれたものなの。
当時でも相当無理して手に入れてね。だけどこの時計を手に入れたと同時に貿易商を始めてね。この時計と共に楠商店の歴史を刻もうと言って楠家の歴史は始まったの。
8人兄弟の末の子だったおじいさまには親から分けてもらった財産がほとんどなくってとても苦しい生活だったと主人からも聞いてたけど、無理してまで手に入れたこの時計を手放さないように必死で働いて今の会社の基盤を作ってくれた素晴らしい方なの」
楠家の歴史を聞きながら息子の一成様を見れば
「楠家の歴史ともいうべきこの時計ですが、父が亡くなったころから時々止まる様になりました」
それは、つまり……
「時計の修理をした方がよろしいのでしょうか?」
そんな親父の当然の疑問には楠様は首を横に振って
「この時計のメーカーは今ではなくなり知り合いの時計屋や宝石商にも見てもらいましたが埃を落としたり油をさしたり、古い油をぬぐったりと言った掃除ぐらいしかできないと言われまして」
「見てもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
言って親父はドライバーを持ってきて背面のねじで止められた背板を取って中を見る。
俺も一緒に中を見れば今までマメなメンテナンスをして丁寧に扱ってきたという様に、そしてここに来る前にもメンテナンスをしてきたのだろう。ホコリ一つない機械部分は百年以上の古い時計には到底見えなかった。
時々持ち込まれる振り子時計を解体して勉強した物よりも歯車の数が圧倒的に多い緻密な機械仕掛けの時計は見ただけで手に負える代物でない事が分かった。
時計屋や宝石商に見てもらったと言ったがきっとそちらでもメンテナンスぐらいしかできなかったのだろうことに想像がついた。
親父もふむ、と言ってすぐに背板をまたねじで止める。
そして正面から時計と向き合って
「とてもいい時計ですね」
ともに歴史を刻んだというだけあって俺の目でも白く輝く様な気配を放っている。
このまま時を刻むのを止めることなく動き続けばきっと太郎や菖蒲みたいな付喪神になるのだろう、それぐらい楠様に大切にされた事はかちこちと時計が刻む音が証明している。
そう、このぜんまい仕掛けの時計。
とっくにぜんまいが切れていてもおかしくないのに切れることなく動いている、その異常さ……
「ところでこの時計がもたらす怪奇とは、お話をしていただけましょうか」
言えばそっと視線を外した老婦人とは別に
「怪奇、と言うほどではありません。
ただ、この時計が狂うと家中の時計が狂うのです。それこそスマホやテレビの隅に映る時刻まで。
我が家は翻弄されて大切な商談も何度か流れた程です」
「それは……」
おかしいな。
言葉には出さずに思わず親父を見れば親父は俺を見ることなく少しだけ顎を引いて
「でしたら一週間ほどお預かりしてもよろしいでしょうか。
たぶん一週間もお時間を頂くことはないと思いますが」
少し目を細めて神妙な声での言葉に楠親子は少しほっとした顔を見せてから
「先祖が守ってきてくれた大切な家宝と言うべきこの置時計です。
どうぞよろしくお願いします」
深々と下げた頭。
そのわりにはどこか厄介者が引き取られて安堵したという顔。
修理しても本当に引き取りに来るだろうか、そんな不安を覚えれながらも親父と共に店先までお見送して戻ればふいに視線がある一点で止まった。
「親父……」
その一点を指で示せば
「ああ、なるほど」
楠母子が帰った瞬間我が家の時計が一斉に止まり……
「これはなかなか不便だな」
なんて言いながら時計こそ止まってしまったけどテレビのリモコンを持ってニュースをつける。
「まあ、多少は不便だがそこまでではないな」
こういう時俺は少し親父を尊敬するのだった。
座敷に案内してお袋がお茶を出して下がった所で
「佐倉古道具店の店主、佐倉巌です。
本日は忙しい中足を運んでいただきありがとうございます。
これは息子の香月と申します。後学の為同席をよろしくお願いします」
「こちらこそお世話になります。
楠一成と申します。そして母の美津子です。
我が家は古くは貿易商を営んでおり、今そちらは撤退して日本各地の隠れた名産を紹介する商社を運営してます」
聞いた覚えがある。たぶんよくデパートのテナントに入ってる楠商店の事だろう。楠商会と言う大きな会社が母体だった記憶がある、
低姿勢だから解らなかったけど業界の有名人じゃんとあちらもまだお茶に手をつけてないので俺も手に付けるわけにいかなく、下座でおとなしく耳を傾けていた。
二、三お互いの話をした後持ってきたかばんから一つのアンティーク時計を取り出した。
貿易商をしていた時に手に入れたものだろう。
美しいアンティークの置時計は家具を愛する職人の手で作られたかのような美しいデザインに本物の金ではない事を願わんばかりの輝きを持つクラッシックなゴールドラインの装飾が目を引く華やかな品だった。
「すごい……」
綺麗と言おうとしたところで声を出してしまったことに気付いて慌てて口を閉ざしたけど楠様は嬉しそうに目を細めて笑ってくれた。
思わずという様に小さくなってしまうけど
「綺麗でしょ?
亡き主人のおじいさまが手に入れてくれたものなの。
当時でも相当無理して手に入れてね。だけどこの時計を手に入れたと同時に貿易商を始めてね。この時計と共に楠商店の歴史を刻もうと言って楠家の歴史は始まったの。
8人兄弟の末の子だったおじいさまには親から分けてもらった財産がほとんどなくってとても苦しい生活だったと主人からも聞いてたけど、無理してまで手に入れたこの時計を手放さないように必死で働いて今の会社の基盤を作ってくれた素晴らしい方なの」
楠家の歴史を聞きながら息子の一成様を見れば
「楠家の歴史ともいうべきこの時計ですが、父が亡くなったころから時々止まる様になりました」
それは、つまり……
「時計の修理をした方がよろしいのでしょうか?」
そんな親父の当然の疑問には楠様は首を横に振って
「この時計のメーカーは今ではなくなり知り合いの時計屋や宝石商にも見てもらいましたが埃を落としたり油をさしたり、古い油をぬぐったりと言った掃除ぐらいしかできないと言われまして」
「見てもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
言って親父はドライバーを持ってきて背面のねじで止められた背板を取って中を見る。
俺も一緒に中を見れば今までマメなメンテナンスをして丁寧に扱ってきたという様に、そしてここに来る前にもメンテナンスをしてきたのだろう。ホコリ一つない機械部分は百年以上の古い時計には到底見えなかった。
時々持ち込まれる振り子時計を解体して勉強した物よりも歯車の数が圧倒的に多い緻密な機械仕掛けの時計は見ただけで手に負える代物でない事が分かった。
時計屋や宝石商に見てもらったと言ったがきっとそちらでもメンテナンスぐらいしかできなかったのだろうことに想像がついた。
親父もふむ、と言ってすぐに背板をまたねじで止める。
そして正面から時計と向き合って
「とてもいい時計ですね」
ともに歴史を刻んだというだけあって俺の目でも白く輝く様な気配を放っている。
このまま時を刻むのを止めることなく動き続けばきっと太郎や菖蒲みたいな付喪神になるのだろう、それぐらい楠様に大切にされた事はかちこちと時計が刻む音が証明している。
そう、このぜんまい仕掛けの時計。
とっくにぜんまいが切れていてもおかしくないのに切れることなく動いている、その異常さ……
「ところでこの時計がもたらす怪奇とは、お話をしていただけましょうか」
言えばそっと視線を外した老婦人とは別に
「怪奇、と言うほどではありません。
ただ、この時計が狂うと家中の時計が狂うのです。それこそスマホやテレビの隅に映る時刻まで。
我が家は翻弄されて大切な商談も何度か流れた程です」
「それは……」
おかしいな。
言葉には出さずに思わず親父を見れば親父は俺を見ることなく少しだけ顎を引いて
「でしたら一週間ほどお預かりしてもよろしいでしょうか。
たぶん一週間もお時間を頂くことはないと思いますが」
少し目を細めて神妙な声での言葉に楠親子は少しほっとした顔を見せてから
「先祖が守ってきてくれた大切な家宝と言うべきこの置時計です。
どうぞよろしくお願いします」
深々と下げた頭。
そのわりにはどこか厄介者が引き取られて安堵したという顔。
修理しても本当に引き取りに来るだろうか、そんな不安を覚えれながらも親父と共に店先までお見送して戻ればふいに視線がある一点で止まった。
「親父……」
その一点を指で示せば
「ああ、なるほど」
楠母子が帰った瞬間我が家の時計が一斉に止まり……
「これはなかなか不便だな」
なんて言いながら時計こそ止まってしまったけどテレビのリモコンを持ってニュースをつける。
「まあ、多少は不便だがそこまでではないな」
こういう時俺は少し親父を尊敬するのだった。
351
あなたにおすすめの小説
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
スーパーのビニール袋で竜を保護した
チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。
見つけ次第、討伐――のはずだった。
だが俺の前に現れたのは、
震える子竜と、役立たず扱いされたスキル――
「スーパーのビニール袋」。
剣でも炎でもない。
シャカシャカ鳴る、ただの袋。
なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。
討伐か、保護か。
世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。
これは――
ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる