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愛すべき時を刻む音 2
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開店より早くやって来たのは品のよさそうな老婦人とその息子と言う二人で老いてもどこか面影のつながりのあるそれなりに身なりの良い人だった
座敷に案内してお袋がお茶を出して下がった所で
「佐倉古道具店の店主、佐倉巌です。
本日は忙しい中足を運んでいただきありがとうございます。
これは息子の香月と申します。後学の為同席をよろしくお願いします」
「こちらこそお世話になります。
楠一成と申します。そして母の美津子です。
我が家は古くは貿易商を営んでおり、今そちらは撤退して日本各地の隠れた名産を紹介する商社を運営してます」
聞いた覚えがある。たぶんよくデパートのテナントに入ってる楠商店の事だろう。楠商会と言う大きな会社が母体だった記憶がある、
低姿勢だから解らなかったけど業界の有名人じゃんとあちらもまだお茶に手をつけてないので俺も手に付けるわけにいかなく、下座でおとなしく耳を傾けていた。
二、三お互いの話をした後持ってきたかばんから一つのアンティーク時計を取り出した。
貿易商をしていた時に手に入れたものだろう。
美しいアンティークの置時計は家具を愛する職人の手で作られたかのような美しいデザインに本物の金ではない事を願わんばかりの輝きを持つクラッシックなゴールドラインの装飾が目を引く華やかな品だった。
「すごい……」
綺麗と言おうとしたところで声を出してしまったことに気付いて慌てて口を閉ざしたけど楠様は嬉しそうに目を細めて笑ってくれた。
思わずという様に小さくなってしまうけど
「綺麗でしょ?
亡き主人のおじいさまが手に入れてくれたものなの。
当時でも相当無理して手に入れてね。だけどこの時計を手に入れたと同時に貿易商を始めてね。この時計と共に楠商店の歴史を刻もうと言って楠家の歴史は始まったの。
8人兄弟の末の子だったおじいさまには親から分けてもらった財産がほとんどなくってとても苦しい生活だったと主人からも聞いてたけど、無理してまで手に入れたこの時計を手放さないように必死で働いて今の会社の基盤を作ってくれた素晴らしい方なの」
楠家の歴史を聞きながら息子の一成様を見れば
「楠家の歴史ともいうべきこの時計ですが、父が亡くなったころから時々止まる様になりました」
それは、つまり……
「時計の修理をした方がよろしいのでしょうか?」
そんな親父の当然の疑問には楠様は首を横に振って
「この時計のメーカーは今ではなくなり知り合いの時計屋や宝石商にも見てもらいましたが埃を落としたり油をさしたり、古い油をぬぐったりと言った掃除ぐらいしかできないと言われまして」
「見てもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
言って親父はドライバーを持ってきて背面のねじで止められた背板を取って中を見る。
俺も一緒に中を見れば今までマメなメンテナンスをして丁寧に扱ってきたという様に、そしてここに来る前にもメンテナンスをしてきたのだろう。ホコリ一つない機械部分は百年以上の古い時計には到底見えなかった。
時々持ち込まれる振り子時計を解体して勉強した物よりも歯車の数が圧倒的に多い緻密な機械仕掛けの時計は見ただけで手に負える代物でない事が分かった。
時計屋や宝石商に見てもらったと言ったがきっとそちらでもメンテナンスぐらいしかできなかったのだろうことに想像がついた。
親父もふむ、と言ってすぐに背板をまたねじで止める。
そして正面から時計と向き合って
「とてもいい時計ですね」
ともに歴史を刻んだというだけあって俺の目でも白く輝く様な気配を放っている。
このまま時を刻むのを止めることなく動き続けばきっと太郎や菖蒲みたいな付喪神になるのだろう、それぐらい楠様に大切にされた事はかちこちと時計が刻む音が証明している。
そう、このぜんまい仕掛けの時計。
とっくにぜんまいが切れていてもおかしくないのに切れることなく動いている、その異常さ……
「ところでこの時計がもたらす怪奇とは、お話をしていただけましょうか」
言えばそっと視線を外した老婦人とは別に
「怪奇、と言うほどではありません。
ただ、この時計が狂うと家中の時計が狂うのです。それこそスマホやテレビの隅に映る時刻まで。
我が家は翻弄されて大切な商談も何度か流れた程です」
「それは……」
おかしいな。
言葉には出さずに思わず親父を見れば親父は俺を見ることなく少しだけ顎を引いて
「でしたら一週間ほどお預かりしてもよろしいでしょうか。
たぶん一週間もお時間を頂くことはないと思いますが」
少し目を細めて神妙な声での言葉に楠親子は少しほっとした顔を見せてから
「先祖が守ってきてくれた大切な家宝と言うべきこの置時計です。
どうぞよろしくお願いします」
深々と下げた頭。
そのわりにはどこか厄介者が引き取られて安堵したという顔。
修理しても本当に引き取りに来るだろうか、そんな不安を覚えれながらも親父と共に店先までお見送して戻ればふいに視線がある一点で止まった。
「親父……」
その一点を指で示せば
「ああ、なるほど」
楠母子が帰った瞬間我が家の時計が一斉に止まり……
「これはなかなか不便だな」
なんて言いながら時計こそ止まってしまったけどテレビのリモコンを持ってニュースをつける。
「まあ、多少は不便だがそこまでではないな」
こういう時俺は少し親父を尊敬するのだった。
座敷に案内してお袋がお茶を出して下がった所で
「佐倉古道具店の店主、佐倉巌です。
本日は忙しい中足を運んでいただきありがとうございます。
これは息子の香月と申します。後学の為同席をよろしくお願いします」
「こちらこそお世話になります。
楠一成と申します。そして母の美津子です。
我が家は古くは貿易商を営んでおり、今そちらは撤退して日本各地の隠れた名産を紹介する商社を運営してます」
聞いた覚えがある。たぶんよくデパートのテナントに入ってる楠商店の事だろう。楠商会と言う大きな会社が母体だった記憶がある、
低姿勢だから解らなかったけど業界の有名人じゃんとあちらもまだお茶に手をつけてないので俺も手に付けるわけにいかなく、下座でおとなしく耳を傾けていた。
二、三お互いの話をした後持ってきたかばんから一つのアンティーク時計を取り出した。
貿易商をしていた時に手に入れたものだろう。
美しいアンティークの置時計は家具を愛する職人の手で作られたかのような美しいデザインに本物の金ではない事を願わんばかりの輝きを持つクラッシックなゴールドラインの装飾が目を引く華やかな品だった。
「すごい……」
綺麗と言おうとしたところで声を出してしまったことに気付いて慌てて口を閉ざしたけど楠様は嬉しそうに目を細めて笑ってくれた。
思わずという様に小さくなってしまうけど
「綺麗でしょ?
亡き主人のおじいさまが手に入れてくれたものなの。
当時でも相当無理して手に入れてね。だけどこの時計を手に入れたと同時に貿易商を始めてね。この時計と共に楠商店の歴史を刻もうと言って楠家の歴史は始まったの。
8人兄弟の末の子だったおじいさまには親から分けてもらった財産がほとんどなくってとても苦しい生活だったと主人からも聞いてたけど、無理してまで手に入れたこの時計を手放さないように必死で働いて今の会社の基盤を作ってくれた素晴らしい方なの」
楠家の歴史を聞きながら息子の一成様を見れば
「楠家の歴史ともいうべきこの時計ですが、父が亡くなったころから時々止まる様になりました」
それは、つまり……
「時計の修理をした方がよろしいのでしょうか?」
そんな親父の当然の疑問には楠様は首を横に振って
「この時計のメーカーは今ではなくなり知り合いの時計屋や宝石商にも見てもらいましたが埃を落としたり油をさしたり、古い油をぬぐったりと言った掃除ぐらいしかできないと言われまして」
「見てもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
言って親父はドライバーを持ってきて背面のねじで止められた背板を取って中を見る。
俺も一緒に中を見れば今までマメなメンテナンスをして丁寧に扱ってきたという様に、そしてここに来る前にもメンテナンスをしてきたのだろう。ホコリ一つない機械部分は百年以上の古い時計には到底見えなかった。
時々持ち込まれる振り子時計を解体して勉強した物よりも歯車の数が圧倒的に多い緻密な機械仕掛けの時計は見ただけで手に負える代物でない事が分かった。
時計屋や宝石商に見てもらったと言ったがきっとそちらでもメンテナンスぐらいしかできなかったのだろうことに想像がついた。
親父もふむ、と言ってすぐに背板をまたねじで止める。
そして正面から時計と向き合って
「とてもいい時計ですね」
ともに歴史を刻んだというだけあって俺の目でも白く輝く様な気配を放っている。
このまま時を刻むのを止めることなく動き続けばきっと太郎や菖蒲みたいな付喪神になるのだろう、それぐらい楠様に大切にされた事はかちこちと時計が刻む音が証明している。
そう、このぜんまい仕掛けの時計。
とっくにぜんまいが切れていてもおかしくないのに切れることなく動いている、その異常さ……
「ところでこの時計がもたらす怪奇とは、お話をしていただけましょうか」
言えばそっと視線を外した老婦人とは別に
「怪奇、と言うほどではありません。
ただ、この時計が狂うと家中の時計が狂うのです。それこそスマホやテレビの隅に映る時刻まで。
我が家は翻弄されて大切な商談も何度か流れた程です」
「それは……」
おかしいな。
言葉には出さずに思わず親父を見れば親父は俺を見ることなく少しだけ顎を引いて
「でしたら一週間ほどお預かりしてもよろしいでしょうか。
たぶん一週間もお時間を頂くことはないと思いますが」
少し目を細めて神妙な声での言葉に楠親子は少しほっとした顔を見せてから
「先祖が守ってきてくれた大切な家宝と言うべきこの置時計です。
どうぞよろしくお願いします」
深々と下げた頭。
そのわりにはどこか厄介者が引き取られて安堵したという顔。
修理しても本当に引き取りに来るだろうか、そんな不安を覚えれながらも親父と共に店先までお見送して戻ればふいに視線がある一点で止まった。
「親父……」
その一点を指で示せば
「ああ、なるほど」
楠母子が帰った瞬間我が家の時計が一斉に止まり……
「これはなかなか不便だな」
なんて言いながら時計こそ止まってしまったけどテレビのリモコンを持ってニュースをつける。
「まあ、多少は不便だがそこまでではないな」
こういう時俺は少し親父を尊敬するのだった。
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