隣の古道具屋さん

雪那 由多

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愛すべき時を刻む音 4

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結局のところうちの作業員の皆さんはわが家の裏家業の事をご存じでした。
 まあ、職場でやってるしはたきの人に破壊された結界の部屋なんて普通の家にないしな。
 今では何の変哲もない板の間の和室となり、襖を開けてお袋が気持ちよさげに換気している姿はこの三十数年目にして見る出来事だった。

「まあ、いたずらをしなければ問題ないですし」

 それがうちの従業員の星崎さん、池上さん、本田さんの意見がそろっての返答。
 ほんと懐が広くて助かります。
「それにしてもこの鯉の絵がねえ。
 絵から出てくると金魚になるってまた不思議な話だねえ」
 うちで古書専門に修繕している本田さんは不思議そうに巻物を見ているけど今でこそ金魚で見た目がかわいいけどこの二匹が本気で呪ってきた時は本当に怖かったんだぞとそういう話しは言えない。

「ですがそれは良いとして今回のこの時計。スマホはもちろん職場の時計を止められるといささか困る事もあるのですが……」
 時間の経過とかそういう事も気にする作業もあるというけどそこは親父。
「修行時代使っていたものが、これを使ってくれ」
 なんて三分で砂が落ちる砂時計を渡していた。
 うん。
 母さんが紅茶入れる時に使ってるやつだね。
 そのことは口には出さずにこれなら時計の針なんて気にならないねなんて思う俺とは別に星崎さんはうなだれて
「何回ひっくり返さないといけないんだ……」
 軽く絶望した顔をしていたけどそれでもしっかり砂時計を受け取るあたりやる気を見せてくれたので誰ともなく拍手を送っていた。

「とりあえず今回は時計が使用不能と金魚と三毛猫さんでしたっけ?
 付喪神様がいらっしゃってるという事でよろしいでしょうか」
 もともと家具職人だったけどいろんな家具に触れて修繕する道に来てしまい、今では欄間の補修と言った事までできるよう成長されていた池上さんのわからないなりにも理解しようとする姿勢。俺より年下なのに見習わなくてはと反省。
「そのようにお願いします」
 なんて深々と頭を下げる親父。俺も自然と頭が下がった。
だけど改めて

「俺、次郎さんとか太郎と菖蒲の姿が見えるようになったからかな?その水の匂いとか気にならなくなった」
「ふむ、そこは明日九条様にお聞きすればいいのではないか?」

 誰?なんてみんな小首をかしげれば
「ああ、九条様はこの案件の時の相談役の方だ」
 なんて親父の説明にみんなは小首をかしげたままだけど皆さん誰?と言う顔に
「はたきの人ともう一人いただろ?その方だ」
「ああ……」
「いたな」
 なんてはたきの人の方がインパクト大きすぎて九条の印象が誰も残ってないという事件が発生。
「一応あれでも俺の高校の時の同級生だから……」
「つまり相談役が連れてくるようなすごい人ってことか?」
「おかみさんのはたきがあんなにもすごい武器になるとは思わなかったな」
「わかる。なんかよくわからないけどあの人がほうき振り回した後体が軽いって言うかさ」
「空気が軽いって言う感じ?」
 なんてとんでも人物だけど視えてない人にも何か感じさせるものがあるらしい。
 まあ、俺からすればインパクトの方が上回っててすごいも何もぶっ飛んでいったけど。

「とりあえず一度九条様に相談してから返品と言う形にするから」

 そんな親父の決断。
 明日来るとき相談すればいいかと思うもそこはちゃんと仕事は仕事という様に電話をかけてアポイントを取る。
 その時に周辺の時計の針を止めるような物騒なものを持って歩かないようにというわざわざうちにまで来てくれるという時間帯は明日のフライングモーニングを堪能した後お邪魔するという形になるらしい。
 因みに渡り鳥ではモーニングはやってない。

 学生だった七緒がちゃんと学校に行くために向かい合った結果売り上げは無視して両親を亡くしたばかりの心に寄り添うためにも朝は当時存命だった朔夜のじいさんと三人でごはんを食べる、そんな当たり前が難しい当たり前で向き合っていたという。
 その結果今もモーニングはしていないのだがお爺さんもなくなり七緒も一生懸命勉強に打ち込めば朔夜と一緒にご飯を食べる事が減ってきて……
 油断すると仕事中は食事ができないからと昼食を抜こうとする朔夜にせめてきちんと朝ごはんぐらいちゃんと食べるように俺が乗り込んで一緒に食べる生活をするようになった。
 そんな時間にも遠慮なくやって来たはたきの人。
 付喪神と九条まで連れてきて掛け軸が綺麗になるまで開店時間前に毎日来るとか迷惑極まりないが……

「香月殿、明日も主は足を運んできてくれるのですね!」
「香月殿、主は明日もパンを食べさせてくださるのでしょうか」

 俺の顔の周りをぐるぐると泳ぐ金魚は幸せそうに、そして待ちきれないという様に外へと飛び出して行ってしまった。そんな様子を見ていると
 
「別に悪い人じゃないんだよな……」

 俺の日常を壊したはたきの人をいつまでも文句言う俺の方がちっぽけな人間のように思えてため息が自然と零れ落ちる。
 いつの間にか誰も居なくなった部屋でぼんやりと考え込んでしまえば次郎さんはいつの間にか俺から少し離れた縁側に移動していて日向ぼっこしながらまどろみながら

「主はとても義理堅い方だ。
 だけど同時にとても厳しい方でもある。
 粗相のないようにな」

 どう考えても自己中な俺様の様な気がするが……

「そう思うのならまだ香月がその程度なのだろう」
 
 俺の心の中を読んだような返答。少しの怖さを感じてしまえば次郎さんは言う事を言ったという様に立ち上がり、ぴょんと庭へと降りたらその姿が消えてしまった。
 なんとなくムッとする言葉だが……
 親父とは丁寧に、そして和やかに会話を弾ませる姿があった。
 どう見ても同じ趣味家同士楽しく話が盛り上がる、そんな様子。俺にできたかと思うもはたきを持って乗り込んできた時点で完全不審者扱いで、親父みたいに話が盛り上がる気分にもなれなかった。
 きっとそこが次郎さんの言うその程度、と言う部分なのだろう。
 確かにそこは俺の未熟な部分かもしれないが……
 少し釈然としない気分のまま先日から取り掛かってる修復作業の続きに入るのだった。




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