隣の古道具屋さん

雪那 由多

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愛すべき時を刻む音 5

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 太郎と菖蒲の掛け軸事件からあまり集中することが出来なくなった。
 決して

「香月殿は器用ですな。そんな小さな茶碗のかけも直してしまうなんて」
「金継ぎと申したでしょうか。黄金の輝きが茶碗に美しい風景となりましてなんと味わい深くなるのでしょう」

 感心するように手元を覗きに来る太郎と金魚でも黄金の魅力に心揺さぶられる乙女な菖蒲のせいだとは言わない。

 引っ越しの際に段ボール箱が一つだけ荷崩れしてしまい、運悪くそれらが入っていた奥様の趣味の茶道の茶碗達が割れたり、ひびが入ったり、かけたりと言った姿に変わってしまった。
 一つ一つは観光地で購入したというような記念の物。
 とはいえ高価な物ではないが思い出の品だっただけに慌てて箱を開けて中を見れば変わり果てた姿。丁寧に梱包したのにと落胆したその姿に依頼人のご主人が人伝に家で金継をしていると耳にしたらしく、こうやって運ばれた次第。
 破片を紛失しないようにと箱のまま持って来た茶碗は9つ。
 引っ越し先の家では奥様の趣味の為に茶室を作った愛妻家は落ち込んだ姿にご主人も金継ぎを学び励ましたいと言ったものの働き盛りの役職の人がそんな時間も奥様に内緒で喜ばしたいというサプライズをする時間なんてない。
 そんなわけで俺がコツコツと復元から修復をしているのだがこれがまた大変だった。

「まるで金継ぎの修行をしているような光景ですね」

 なんて同じ部屋で作業をしていた池上さんは笑ってくれた。
「ほんとそうですね。目がしょぼしょぼします」
「適度に休憩入れろよ。そうしないと……あ」

 カチャ……

 その乾いた音に立ち上がって
「休憩、行ってきます……」
 そう。池上さんが注意を促してくれたとたん大きくぱっくりと割れた茶碗の組み立て中だったのに崩してしまったのだ。
「集中力切れた。今はもう無理」
「いやいや、朝からぶっ続けでやってたんだからそろそろ休憩しろよってことだよ」
「昼もついでに行ってきます」
「そうして来い」
 なんて送り出されてお袋にも声をかけて隣の渡り鳥へと足を運んだ。

「いらっしゃいませ!」

 集中も切れてせっかくくみ上げたパズルが崩壊して落ち込んだところに弾けるような七緒の声。一人黙々と仕事をしているだけにこの明るい声が心のビタミン剤になる。
「おー、七緒だ。もう体調は良いのか?」
「それー! なんかだるーな感じだけどいつまでも寝てられないしね!
 むしろ今は体を動かしたいって気分。
 あとお見舞いのお花ありがとうございます!」
「小さい物でもそれだけ喜んでもらえると嬉しいよ」
 言いながら指定席に向かえばさっとおしぼりとお水を出してくれた。
「ホットサンド、今日はカレードッグでコーヒーは先に」
「承りました。メニューの確認します。
 カレードッグのホットサンドとコーヒーで、コーヒーは先ですね!」
「よろしくー」
 言えば弾むような足取りでささっとカウンターの中へと入ってしまった。
 そして代わりに出てきたのは
「どうした。今日はやけにぐったりしてるな」
「ちょうど集中が切れた所」
「まあ、朝からバタバタしてたみたいだからな」
 なんて言うのは開店前に見せの前に黒塗りベンツが止まればお隣としては察するところがあったのだろう。いやその前か?もう考えるのもしんどい状態。
「それで今回はまた難しい話か?」
 廃墟探検とかをあれから行ってはないけど行きたがった朔夜はそれとなくうちの裏家業的な話を聞きたがる。だけどお客様情報を言えるわけもなく、あまり前だが障りのない話程度でとどめるだけにしている。
 まあ、常連さんとはいえ他のお客様の耳がある所で詳しく言えるわけもないが……
「すごく古い時計をもちこまれてね。いろんな店で故障の原因を探ってるみたいなんだ」
「動かないのか?」
「年代が古すぎて修理できる技術者がいないって所かな。
 うちもお手上げだって」
 だからどの店に持ち込んでもメンテナンスで終了と言う結果になったのだろう。
 って言うかもうメンテナンスするところがないしこれ以上となると歯車から何まで全部作り直しをしなくてはいけなくなるのだ。
 さらに何やら仕掛けがあるらしく、そこが全く見た事がない代物で触る事も出来ないという。
 担当の星崎さんもかなり自分の給料つぎ込んで古い時計を購入しては勉強しているのにまだまだ未知のものがあるのかと世界の広さに感心してしまうが
「うちの店の振り子時計直してくれた人でも直せないものがあるんだな」
 言って壁にかけられている振り子時計を見上げる。

 おじいさんが営業していたころからまだ何も変えていない店内はTHE昭和レトロそのもの。
 子供のころから入り浸っていたせいもあってほっとするし差し出されたコーヒーを受け取るこの席はそのころからの俺の特等席。
 高いカウンター席をよじ登って少し背が高くなった気分に大満足しながら朔夜と飲んだカフェオレがこの店での思い出。
 色あせる事のない思い出に自然と笑みまで浮かんでしまっていた。

 壁にかかる振り子時計を見て少し思い出に浸っている間に朔夜はキッチンに向かって七緒が作っているホットサンドの様子を見守っている。
 少しづつ料理ができるように、忙しい時でも対応できるように学んでいる七緒は本当に勤勉だ。
 朔夜に何かあれば一人でこの先何とかして行かないといけないうえにお世辞にも繁盛しているとはいいがたい渡り鳥。そんな環境も合わさってこの先の事を考えれば必死に資格を取ったりしている。周囲の同じ年の子たちが遊んでいるのを少し羨ましそうに見ているのがかわいそうにも思えるが……
 
「お待たせしました!
 カレードッグのホットサンドです!」

 付け合わせのサラダも用意してくれて満面の笑顔で出してくれるその様子を見れば、その一面だけを見てかわいそうと思うのは間違いだよなと今目の前に浮かべる笑顔を俺は信じた。



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