名探偵に憧れた私はついうっかり異世界に探偵事務所を構えてしまった

冬月光輝

文字の大きさ
2 / 64

第2話 出張と失踪と思考

しおりを挟む
 あたしは雨宮 涼子(アマミヤ リョウコ)、今年高校に入ったばかり。
 お母さんの記憶はほとんどない。あたしが小さい時に亡くなったとお父さんから聞いている。
 だから、お父さんとずっと2人暮らし。

 お父さん、雨宮 和也(アマミヤ カズヤ)は出版社に勤めているサラリーマン。
 いつも優しくて、頼り甲斐のあって、ちょっと口うるさい所があったけど、私は大好きだった。

1週間前……。

 珍しく父はお酒を飲んでいて上機嫌だった。

「涼子、ちょっとお父さん出張に行かなきゃならなくなった。明日から2日か3日家を空けるから家のことをお願いな」
 出張に行くことは、特別なことでは無かったので、特に違和感を感じなかったから、あたしも普通に返事をした。

「わかった。大丈夫よ家の事ぐらい全部やっとくから」
 そして当然こう続けた。

「どこに行くの?」
 大した質問では無かったのだけど、急に上機嫌だった父の顔は一瞬だけ真剣な表情になった。
 しかし、すぐにニヤッと笑った。

「あれぇ、どこだったかな? ど忘れしてしまったよ。ハッハッハ」
 酔っ払ってしまったのかと思ったのでそれ以上聞かなかった。

 あのとき、もっと詳しく問い詰めなかったことを後悔することになるなんて思ってなかったし。
 夜も遅くなって来たので、そのまま自分の部屋に戻って寝てしまった。

――次の日――

「行ってらっしゃい」
 早朝にあたしは父を見送った。

「ちゃんと、勉強もするんだぞ。別に良い大学に行けって事じゃない。思考力を養うっていうのはだな‥」
 何回も聞いた小言にウンザリしたあたしは、

「もう、分かってるって。それより時間大丈夫?早起きしたことも無駄になるよ」
 父は、慌てて時計を見た。

「もうこんな時間じゃないか。涼子、それじゃあ行ってくるよ。あっ後お母さんの事なんだけど‥」
 父は私の目を見て何かを言おうとした。

「えっ」
 あたしは父の言葉を待った。でも‥

「まあ、帰ってからで良いか。一緒にまたアルバムでも見ながら話そう」
 優しく微笑みながら父はまた言った

「それじゃあ行ってくるよ」
 今思い出すと、父の顔は微笑んでいたが、眼光は今までになく強い意志が宿っていたように見えた。
 帰ってきたら何を話すんだろう。
 お土産買ってくれるかな?

 他愛のないことを考えて、直ぐに3日経った。
 父は帰って来なかった。連絡も無い。携帯に電話しても留守電に繋がるだけ。
 
 流石に心配になって会社に電話してみた。
 取次いで貰うと父の上司の平田部長が出てくれた。
 そして、電話口から思いもよらない事が告げられる。

「出張? そんな話は無いよ。君のお父さんは今日まで有給休暇を取っていたからね」
 父は確かに出張と言った。訳が分からないが、漠然と嫌な予感がした。

「こっちも休暇中に悪かったんだけど、昨日、仕事の事で電話してみたんだけど、今日になっても折り返しが無かったから変だと思ったんだ。雨宮くんは責任感のある人だからね。何か事故なんかに巻き込まれてなければいいんだけど」
 電話の声が凄く遠く感じた。

「もしもし……、大丈夫かい?」
 平田部長の声が小さく聞こえる。

「大丈夫です。もし、何か分かれば連絡いただけますか?すみません」
 動揺しながら、必死に返事をした。

「無神経なことを言ってしまって、ごめんね。こっちからも連絡取ってみるから」
 しかし、次の日になっても父の音信不通のままだった。

 今日は土曜日、学校は休み。
 心配でほとんど眠れなかったあたしは、父との会話を思い出していた。

「あの時、お母さんのことを何か喋ろうとしていた。あたしにはわざわざ出張と嘘までついて出掛けて行った」
 どうして、そんな嘘をついたのだろうか?
 母のことって、なんだろうか?

 手がかりが少な過ぎて全然分からない。
 ふと父の小言が頭の中でささやいた。

『思考力を養うって言うのはだな、単純に知識を溜め込むって事じゃないんだ。自分の頭で考えて、考えて、考え抜くんだ。その結果が正解か不正解かって言うのは大して重要じゃない。考えて答えを出すって言うプロセスが大事なんだ。これが出来る人間っていうのは凄く幸せなんだよ。今は直ぐに正解を与えられるけど、本当に正解なのかどうか疑うことを忘れがちだ。だから、若い内は特に常識に捕らわれないで物事を考えて欲しいな』
 長過ぎる父の口癖だった。

 今は特に関係ないのに、何故かあたしはこの言葉が凄く大事なことに思えた。

「またアルバムでも見ながら話そう」
 父の最後の言葉……。

 そんなものを見ても何も分かるはずが無いのに、自然とアルバムを探しに父の書斎に足が向かった。

『常識に捕らわれるな……』
 何度も父の声が頭の中でこだましていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...