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第八話(アイリーン視点)

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「そろそろ、私たちのアナスタシアも手がかからなくなってきたかしら?」

「ああ、きっと良い子に成長しているはずさ。何せ、あのエリスに世話をさせて上げたのだから」

 夜泣きが煩くて、何が不快なのかずっと不機嫌そうにしている我が子をエリスに預けて二年と少し経ちました。
 まさか赤ん坊というものがあれほどストレスを溜める生き物だったとは……。
 そんな折にロバートがエリスが彼の子供を育てたがっているという話をしましたので、それに甘えさせてもらいます。

 エリスは聖女となったらしく、子供の世話係にすると何かと便利な人だと思っていたので、私たちに同行して欲しかったのですが、どうやら幸せになった私たちに嫉妬して意地悪なことを言ったみたいですね。

「だから、そろそろ……。ゴホッ、ゴホッ……」

 ロバートは最近よく咳をしては血を吐き出すようになりました。
 彼みたいに魔力もなくて、特に鍛えられた訳でもない人間が“勇者の血”の力を酷使すると体力が回復しなくなり、やがて死に至る――。
 そろそろ限界が近付いているみたいですね。聖女エリス……あなたが彼を看病しないからですよ。

「やはり、アナスタシアに力を分けて貰うしかないみたいですね。デルバニア王家の血と“勇者の血”を継ぐあの子には宿っているはずですから。初代デルバニア国王に匹敵する力の片鱗が」

 アナスタシアには“勇者の血”を得たロバートの血とデルバニア王家直系の私の血が混じっています。
 デルバニアに伝わる古文書には混血児には初代デルバニア国王と同様に生まれながらにして神通力が宿ると記されていました。
 つまり、アナスタシアには初代国王と同様に神の力が最初から付与されているのです。

 私たちの娘である彼女の血の力をロバートが吸収出来れば、ロバートの寿命もある程度は回復する見込みがありました。

「ゴホッ、ゴホッ……、はぁはぁ……だが、アナスタシアが10歳くらいまで成長しないと、力を奪われたあの子は体がついていけずにショックで死んでしまうんじゃないのかい?」

「構うものですか。私にとっては愛するあなたの体のほうが大事ですよ。子供はまた作れば良いのです。アナスタシアにはあまり思い入れはありませんし」

 しかしながら、幼いアナスタシアからロバートを復活させる程の力を奪うとその反動であの子が死んでしまう可能性があります。
 それを避けるためにもエリスの看病が必要だったのですが……。

 まぁ、よくよく考えてみればそもそもアナスタシアを作った理由がロバートの命を救うための薬を作る感覚でしたので、娘が亡くなってもそれほど惜しくない気がします。

 短い月日しか共に居ませんでしたし、死んだところで実感がないというか……。

「ありがとう。アイリーン……。僕からそれを頼む手間が省けたよ。正直、最近辛くてさ。ゴホッ、ゴホッ」

「可哀相なロバート。こうなったのも全部、エリスさんのせいですわね。責任を取ってもらわないと……」

 アナスタシアを隠れて育てていることが父上にバレたらどうなるでしょうかね。
 その混乱に乗じて、私たちはゆるりと娘を返してもらいましょうか。

 母親ごっこにもそろそろ飽きているでしょうし――。
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