【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

第十四話（ジーナ視点）

　急にケヴィンさんと連絡が取れなくなった。
　仮住まいだという、屋敷ももぬけの殻。周りの人間に聞いても急に引き払ったとしか言わない。
　どこに行ったの？　わ、私、借金の額がとんでもないことになっているんだけど……。
　質屋で実家の権利書まで持ち出して大金を借りて……全部ギャンブルに使っちゃったし。チップもケヴィンさんが管理してる。
　
　せめて、チップの半分でも良いから回収して、家の権利書だけでも取り返さなきゃ――。


　私は賭博場に向かった。もちろん、使用人たちも私が賭博場に行っていることは知らない。
　ケヴィンさんの友人の屋敷の地下にある賭博場は会員のみしか入れなくなっており、その存在は秘密にされているのだ。

　
「ケヴィンの旦那？　いや、知らないなぁ。ここのところ会ってないぞ」

　賭博場の管理人と話をするとケヴィンとはもう会っていないとのこと。
　まぁ、いいわ。とりあえず、お金よ、お金。お金を何とかしなくちゃ、私は怒られるじゃ済まない。

「わかったわ。……じゃあチップを半分換金したいんだけど。知ってるでしょう？　あれ、半分は私のものなの」

「……チップ？　んなもん、もう預かってないぞ。この前、旦那が全部換金しちまった」

「――っ！？　か、換金したですって！？　そ、そんな……」
　
　視界がグニャグニャする。足に力が入らない。頭が痛い……。
　ま、まさか。私、騙されたの？　あの男に……。
　嘘でしょ？　あんなに私のこと、好きだって言ったじゃん。
　可愛いって、美人だって、褒めてくれたじゃない。

　ひ、酷い……、酷すぎるよ……。

「ジーナ……？　泣いているのかい？」
「――っ！？」

　目頭が熱くなり涙が溢れてきたとき、一番聞きたかった声が私の耳元を刺激した。
　振り返ると彼がいた。なぜか傷だらけの顔をして――。

「け、ケヴィンさん！？　そ、その怪我はどうしたの？」

「いや、君が凄い借金をしていると聞いてね。他の賭博場でも頑張ったんだ」

「ほ、他の賭博場？」

「だが、勝ち過ぎてしまってね。質の悪い連中に仮住まいを襲撃されて……この有様だよ」

　なんと、ケヴィンさんは私のためにお金を稼ごうとしてくれたみたい。
　でも、そのせいでボロボロになったのだとか。　
　私はたまらない気持ちになり、彼を力いっぱい抱きしめた。

「ここのチップは換金して既に安全なところに隠している。君に迷惑がかかるといけないからみんなには口止めしておいたんだ。心配かけて、ごめん」

「良いのよ。あなたが無事ならそれで。でも、あなたをこんな目に遭わせた奴は許せないわ」

「僕も殺したいけど、良いんだ。質の悪い連中のトップはニッグっていう侯爵家の嫡男らしい。さすがに手は出せないよ」

「――っ！？」

　に、ニッグがケヴィンさんを酷い目に遭わせた連中の親玉？
　悪い人たちと付き合いがあるって聞いてたけど、なんてことを……。
　ああ、ケヴィンさんの温もりが心地よい。こんなに良い人を怪我させるなんて……。

「残念だ。ニッグという奴さえ居なければ、君の借金も全部返して、二人で住む屋敷を建てる計画も上手くいくというのに。僕らの幸せは全部壊されてしまった」
　
　ゆ、許さないわ。
　ニッグ、私たちの幸せを邪魔するというのね。
　大丈夫よ、ケヴィンさん。ニッグは私が殺してやるわ――。