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第二話
それはルークと会食をした翌日の朝です。
レイヴン殿下が私に会いに来たと仰せになられていると、執事のハンスに言われ……「そんな馬鹿な!?」と驚きながらも玄関に向かうと仁王立ちをした殿下の姿が見えました。
エルトナ王家の紋章が刻まれた馬車が我が家の門の前に停車したのは、婚約をしている時に殿下と食事をした際に送ってもらって以来です。
こんな辺境の田舎に何用でしょう? 私たちの関係は終わっておりますし、私に会いたいという理由が分かりません。
正直に申しまして殿下の顔を見るだけであの時の記憶がフラッシュバックしてしまい、手の震えが止まらないのですが……。
「お、お久しぶりです。殿下……。あのう、本日はどのような――」
「なぜ2年もの間、僕のもとに謝りに来なかった!?」
開口一番、物凄い剣幕で怒鳴られた私は思わず恐怖で目を閉じてしまいます。
謝りに来る? 婚約中に心移りをされて、一方的に婚約を解消されたのは殿下ではありませんか。
そういえば、慰謝料は父が頂きましたし……レイヴン殿下の両親である国王陛下及び、王妃陛下には謝罪をして頂きましたが、最後まで彼は一言も私に謝罪はされませんでした。
――もしかして、殿下は婚約破棄の原因は私にあるとお考えなのでしょうか。
さすがにそのような理屈に合わないことを仰るような方ではないと思いますので、怒鳴られた事には、何かしらの理由があるのかもしれません。
「で、殿下。2年前にお慕いされている方が出来たと仰って別れを告げたのは殿下の方でしたと存じます。なぜ、私が謝罪をせねばならないのでしょう?」
私はストレートに殿下の発言の意図を質問します。
本当は一刻も早く帰って貰いたいのですが、婚約者ではなくなり他人になったといえども一国の王子――無碍に扱うことは出来ません。
「――君は僕のことを慕っていたよな? 幸せな家庭を築きたいと夢を語ったことは覚えているか?」
殿下は婚約して何度目かの会食での私の発言を口にされます。
もちろん、レイヴン殿下のことはお慕いしておりました。彼と共にたとえ苦難が押し寄せても、幸せになれるように努力したいと本気で想っていました。
――思っていたことは事実ですが、それがこの話と何の関係があるのでしょう……?
「覚えております。確かに私はそう申し上げました」
私が彼の言葉を肯定すると、殿下は満足げに頷き口を開きます。
「そうだ。君は僕のことを慕っている。なのに何故、困難を乗り越えて僕と幸せになる努力をしない? 婚約は解消されても僕と君の心が繋がっているなら、婚約者同士ではないか」
「殿下……? あの……」
「それなのに、君ときたら2年だ。2年もの間……僕のもとに現れない。涙の一つも流して僕との関係を修復しようとも言わない。そりゃ、最初の数カ月は僕も他の娘と遊んだりはしたし、奥ゆかしい君が身を引いたのだと納得はしたが……」
「ですから、殿下……」
早口でまくしたてるレイヴン殿下に私は圧倒されてしまい、反論をしようと声を出す前に彼が言葉を発するので、何も言えなくなってしまいました。
「最後には君のもとに帰ってくると、どうして分からなかった? 僕は優しいよ。挨拶に来ることが遅れたことは、一言でも詫びれば許すつもりだった。だが、2年は長過ぎる!」
――驚きました。
レイヴン殿下の仰ることが何一つ理解できません。
同じ言語を話す人間同士なのにも関わらず、彼と意思の疎通をとれる自信が持てなくなったのです。
私が彼のことを慕っていたのはもちろん婚約中のお話です。
しかし、殿下の中では……あのような別れ方をしたにも関わらず、私の心の中に彼への愛情が残っていると信じておられるように見受けられました……。
どうして、そのような思考になってしまったのか……一欠片も分からないのです。しかもはっきりと他の女性に手を出されたことも宣言されるなんて、私のことを馬鹿にされているのでしょうか……。
「殿下、殿下こそ覚えておりませんか? あの日、レイヴン殿下は真実の愛に目覚めたと仰せになりました。――その瞬間、私の想いも全て砕けてしまったのです」
私はどこから説明しようかと迷いましたが、殿下の発言を思い出してもらうことにしました。
別の方に“真実の愛”とやらを向けられていると言われた私の心を想像してもらえれば、ご自分のされたことを見直せるかもしれません。
「ああ、言ったな。そんな戯言も……。君の気を存分に引きたかったからな。オリビアは心が強いし、多少のことでは動じないと思ったからさ。やっぱり泣きつかれるくらい好かれたいじゃないか。他の娘と遊んだのもその為だ。そんな男心が分からないか?」
殿下は何の悪びれもなく、私の心に深い傷を負わせた理由を告げました。
――気を引きたかった?
そんな子供じみた理由で私を傷付けて、一方的に婚約破棄までしたというのですか?
この2年間……私がどれだけ心を壊されて、感情の制御が出来ずに苦しんだのか、貴方は全く考えていない。
私は純粋に恐怖しました。レイヴン殿下のどこまでも澄んだ碧眼に――。
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