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第十一話(マリーナの独白)
しおりを挟む「あら、レイヴンは下手を打ったみたいですね。頭が悪かったから操るのは楽でしたが、やはりボロが出ましたか……」
城内の兵士は何人か私の息がかかってる。
地獄の沙汰もなんとやら。金さえ掴ませれば、連中は簡単に私の言いなりになるの。
彼等の報告でアレックス殿下が出張ってきたことと、オリビアの新たな婚約者がオルグレン伯爵ってことが分かった。
オルグレン伯爵とは厄介なカードを引いたわね。あの女も……。
アレックス殿下への口利きは彼がしたに違いない。確か、あの二人は王立学園の同期だったはず。
彼が味方なら、もしかしたらレイヴンと私の関係まで調査するかもしれないわね。
私が兄様に恥をかかせたオリビアに復讐するためにあのバカ殿下の教育係になったこともバレそうになっている可能性すらある。
思えばレイヴンは単純過ぎた。
王子として出来が良くなかったものだから、厳しくされていて愛情というものに飢えており、自信が無いものだから承認欲求が強かった。
ひたすら甘やかし、肯定してやるだけで彼は面白いほど私に懐く。
一時期は私と結婚したいと駄々をこねるので、やんわりとオリビアに意識を持っていくのに苦労したものである。
彼の堕落して腐っていく様子を観察するのは中々に唆るものがあった。
王家というのは基本的に下流貴族を見下している。
兄が努力して金鉱山の黄金を元手に商売をして巨万の富を築き、多額の税金を納めても感謝の一つもするどころか、貴族が労働などとバカにしたような態度を取った国王のことは今も忘れない。
私はオリビアと王家に復讐がしたかったのだ。
生まれもった地位や見た目だけで持て囃され……誰よりも努力した兄様をバカにしたような態度を取ったことは絶対に許さない。
あの日、兄様は酔っ払ってオリビアの見た目に翻弄され……求婚をした。
オリビアはまるで化物を見るような顔をして兄様を拒絶したのだそうだ。
その日から暫くの間……兄様の顔は見ていられなかった。
そんなオリビアは私が手塩にかけて育てたレイヴンという餌に食い付いたとき、笑いが止まらなかったわ。
ここから、彼女に兄様の受けた屈辱を何倍にして返してやろうかと思えたから。
レイヴンとオリビアの婚約が上手くいっている時分を見極めて、私は彼に「女性は女遊びをするくらいの男でなくては魅力を感じない」とか、「捨てるふりをして愛情を確認した方が良い」とか、吹き込むと彼は呆れるほど単純にそれをストレートに実行する。
オリビアが信じた男に裏切られて心が壊れたと聞いて胸がすく思いがしたものだ。
そこから2年経って、レイヴンはオリビアが戻って来ないとかバカなことを言い出した。
私が適当に背中を見せれば追ってくると言ったことをまだ真に受けていたのかと思うと憐れになってきたが、オリビアも彼のことを忘れかけている時分だろうと思い……彼に彼女を連れ戻すように仕向けることを思いつく。
きっとあの女は恐怖だっただろう。この2年で私はレイヴンをさらに堕落させて自己愛と虚栄心の塊にしたのだから。
国王陛下や兄のアレックス殿下が彼にもっと気を使えばそれも阻止出来たかもしれない。
だけど、彼らは私を教育係からクビにするくらいで正面からレイヴンとぶつかろうとはしなかった。
だから気付かない。バカ殿下の変化に……。
変わりきった彼を恐れたオリビアは案の定、レイヴンを拒絶した。
ここから、無理やりにでも再び二人を婚姻関係にさせることが出来ればもっと面白かったんだけど、残念ながらそれは無理だったわ。
まぁ、それも想定の範囲内。
私もどうやらおかしくなっているみたい。
もう、何もかも壊さなきゃ気が済まないの……。
あのバカにはまだ使い道があるわ。もう少しだけ踊ってもらうわよ。
道化として、この舞台を盛り上げるために――。
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