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第十二話
しおりを挟むレイヴン殿下は兄であるアレックス殿下によって強制的に城に連れて行かれて、国王陛下にお叱りを受けたようです。
そして、私の父に対する暴行については最後まで知らぬ存ぜぬ貫き通し……証拠も無かったのですが、兄であるアレックス殿下が状況的に彼の手引きだと断じて地下牢に投獄されたとのことでした。
いつまで彼を投獄するのか分かりませんが取り敢えず安心するようにと、ルークは私に仰せになりますが、まさか元婚約者に強引に迫っただけで処刑されるはずがありませんので、不安です。
勧善懲悪という言葉を信じたいですが、この世の中は悪い人ほど逞しく生き残る……。
そんな言葉を叔父が昔、私に教えてくれました。
あの頃の私は人の悪意など知らなくて、叔父の言葉も実感としてよく分かりませんでした。
しかし、今ならよく分かります。
悪意というものは恐ろしい。
特にレイヴン殿下の恐ろしいところは自分の悪意に何一つとして気付いていないことでした。
――彼は良いことをしていると心の底から思っている。
ですから、あそこまで理屈が通じることがなく……自らの主張を曲げなかったのでしょう。
人間というものは僅かでも良心があれば悪いことするには抵抗があるものです。
逆に良いことならどうでしょう? 殿下が自らの行いが正しいと一切疑って無かったらとしたら……。
レイヴン殿下は自分が正しいと自信を持っていました。
王子である自分が男爵令嬢ごときと結婚してやるのだから、過程はどうあれ良い行いに決まっているという大前提の元で動いていたのです。
そういう背景もあり、レイヴン殿下がもしも外に出るようなことがあれば彼は確実に逆恨みをすると思いましたので、私はそれが怖くて仕方ありませんでした。
「なるほど。確かにお前の言うとおりレイヴン殿下の様子は普通では無かった。しかし……陛下もかなりお怒りの様子だし、アレックス殿下も友人の婚約者の為に動かれたのだ。少なくとも一年は獄中だろう。私を襲撃した証拠さえあれば処刑もあったのかもしれんが……」
父はそう仰せになって、私を安心させようとしてくれました。
そうですね……。確かに父への暴行の容疑もある以上は簡単には出てこないという父の言い分も理解できます。
それ以降も外に出て問題を起こさぬように配慮もされるとは思いますし……。
私が神経質になりすぎていたのかもしれません。
「オリビア、こんなときだからこそ……、婚約者であるオルグレン伯爵をもっと頼りなさい。彼もお前に頼られて嬉しいみたいだし」
さらに父はルークをもっと頼れと口にされました。
もう十分に頼っていますから、これ以上となると憚れます。
「愛する者から頼られるのは嬉しいものだ。お前は人の悪意に毒されすぎて忘れているかもしれないが……」
「分かりました。何かあればルーク様を頼りにします」
父の言うことを素直に受け止めて、私はレイヴン殿下の件でさらに何かがあれば……ルークを頼ることにしました。
とはいえ、それは当分先のことになると思いますので……もしかしたらその時には私とルークが結婚をしているかもしれませんが。
そう、思っていたのですが。そのときは思ったよりもずっと早く来たのです。
間もなくして、国中が大騒ぎになりました。
地下牢からレイヴン殿下が消えてしまった……、と。
その知らせを聞いたとき、私はとてつもなく嫌な予感がします。
なりふり構わなくなった人間ほど恐ろしい人は居ないからです。
既に脱獄囚となっているレイヴン殿下は今まで以上に躊躇が無くなっているでしょう……。
彼の執念が私にはただひたすら……怖かったです――。
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