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第一話
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「不味いわね。下げてちょうだい」
片肘を付きながら、私の主君であるクラリス様は食事が盛り付けられた皿を不機嫌そうに押し出しました。
今日のメインディッシュはケルベロスという強力な魔物一匹から数グラ厶しか取れない希少部位を存分に使ったメニューです。
クラリス様がこれしか喉を通さないとリクエストされましたので、私が腕によりをかけて調理しました。料理の腕は三ツ星レストランのシェフからお墨付きを頂いた私ですが、彼女の口には合わなかったみたいです。
ケルベロスの希少部位――もちろん、こんなモノを大量に扱っているような店はありません。ですから、私は早朝というか深夜に魔物の群生地帯に赴いて血みどろになりながら、大量のケルベロスを狩ってきたのでした。
そんな苦労をして作られた品もクラリス様が気に食わなければ、簡単にゴミになります。
――私の半生はこの方の理不尽なわがままにひたすら付き合うことでした。
クラリス様がこれだけ身勝手に振る舞っても許されるのは聖女だからです。それも途轍もない力を持った――。
代々聖女の家系であるマーティラス家は王家の血を引く大貴族で、クラリス様はそのマーティラス家の長女として生まれました。
そんな彼女は当然のことながら聖女になり、このボルメルン王国を国外にいる魔物たちから守っています。
さらにクラリス様の容姿は絶世の美女と呼ばれるに相応しいほど美しく、先代や先々代の聖女と比べても才能が飛び抜けて豊かでしたので国民から絶大な支持を受けているのです。
ですから彼女はどんなことをしても許されますし、本人もそれを良く理解していました。
そして、そんな彼女の世話をする我々は軽く地獄を見ています。
特に代々マーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれた私は、幼いときから聖女お付きのメイドになるべく英才教育を受けて彼女の側近になっていますので、彼女からの無茶ぶりをほとんど身に受けることとなりました。
私ことエミリア・ネルシュタインは――ネルシュタイン家のために聖女クラリス様のわがままに延々と付き合わされる運命にあるのです。
「クラリス様、北の森の結界が弱まっていると報告が上がっております。ですから、明日のスケジュールは――」
「えーっ! 明日はオペラを見に行くって決めてるの。パスよ、パス」
「いえ、そういう訳には……。結界を張るのは聖女としての――」
「あんたが代わりにやれば良いでしょ?」
結界術は聖女だけが使える秘伝のような術です。しかし、クラリス様のサボり癖が悪化の一途をたどっていましたので、私は見様見真似で何とか『結界のようなモノ』を発現させることに成功しました。
もちろん、聖女が使う正式な術式ではありませんので見た目も不格好ですが、魔物の侵入はどうにか防げているので、誤魔化しは利いています。
クラリス様は「不細工な子は結界も不細工なのね」と嘲笑されましたが、それでも仕事を押しつけることは止めませんでした。
とにかく彼女は気分屋でしかも癇癪持ちです。クラリス様の怒りを買うようなことがあれば、ネルシュタイン家は簡単に潰されてしまいます。
なので、私は彼女の機嫌を取るためには何でもやりますし、何でも出来るようにならなくてはなりませんでした。
メイドとして家事に関することを一流にこなすことは当然として、芸術や学問から魔法や剣術などの武芸も一通り……挙げ句の果てに諜報活動まで……とにかく彼女のわがままに付き合うためには並大抵ではいられません。
私は段々と自分の中のナニカが壊れていることを理解しながらも、幾年もクラリス様に仕えていました――。
しかし、そんな私にも生きる希望というものはあるにはあったのです……。
「君と結婚したい。僕と婚約してくれ……」
それは偶然の出来事。とある日――この国の第四王子であるニック殿下が落馬して大怪我を負ったところを私が治癒魔術で手当したことがきっかけで彼と仲を深めることになった私は、彼と婚約することになりました。
下級貴族であるネルシュタイン家が王族と婚約するなど、今までに前例がなかったので、これは快挙だと両親は大層喜ばれました。
私は自分の幸せをようやく掴んだのです。
それなのに――。
「エミリア、あんたはもう要らないわ。消えてもらえるかしら――」
ある日、クラリス様はあっさりと私を捨てようとされました。
これまで必死に仕えてきたのに……どんなに理不尽な要求にも応えてきたのに――。
ネルシュタイン家のために自分を殺して生きてきた私は今日――自分の存在意義を全否定されました。
片肘を付きながら、私の主君であるクラリス様は食事が盛り付けられた皿を不機嫌そうに押し出しました。
今日のメインディッシュはケルベロスという強力な魔物一匹から数グラ厶しか取れない希少部位を存分に使ったメニューです。
クラリス様がこれしか喉を通さないとリクエストされましたので、私が腕によりをかけて調理しました。料理の腕は三ツ星レストランのシェフからお墨付きを頂いた私ですが、彼女の口には合わなかったみたいです。
ケルベロスの希少部位――もちろん、こんなモノを大量に扱っているような店はありません。ですから、私は早朝というか深夜に魔物の群生地帯に赴いて血みどろになりながら、大量のケルベロスを狩ってきたのでした。
そんな苦労をして作られた品もクラリス様が気に食わなければ、簡単にゴミになります。
――私の半生はこの方の理不尽なわがままにひたすら付き合うことでした。
クラリス様がこれだけ身勝手に振る舞っても許されるのは聖女だからです。それも途轍もない力を持った――。
代々聖女の家系であるマーティラス家は王家の血を引く大貴族で、クラリス様はそのマーティラス家の長女として生まれました。
そんな彼女は当然のことながら聖女になり、このボルメルン王国を国外にいる魔物たちから守っています。
さらにクラリス様の容姿は絶世の美女と呼ばれるに相応しいほど美しく、先代や先々代の聖女と比べても才能が飛び抜けて豊かでしたので国民から絶大な支持を受けているのです。
ですから彼女はどんなことをしても許されますし、本人もそれを良く理解していました。
そして、そんな彼女の世話をする我々は軽く地獄を見ています。
特に代々マーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれた私は、幼いときから聖女お付きのメイドになるべく英才教育を受けて彼女の側近になっていますので、彼女からの無茶ぶりをほとんど身に受けることとなりました。
私ことエミリア・ネルシュタインは――ネルシュタイン家のために聖女クラリス様のわがままに延々と付き合わされる運命にあるのです。
「クラリス様、北の森の結界が弱まっていると報告が上がっております。ですから、明日のスケジュールは――」
「えーっ! 明日はオペラを見に行くって決めてるの。パスよ、パス」
「いえ、そういう訳には……。結界を張るのは聖女としての――」
「あんたが代わりにやれば良いでしょ?」
結界術は聖女だけが使える秘伝のような術です。しかし、クラリス様のサボり癖が悪化の一途をたどっていましたので、私は見様見真似で何とか『結界のようなモノ』を発現させることに成功しました。
もちろん、聖女が使う正式な術式ではありませんので見た目も不格好ですが、魔物の侵入はどうにか防げているので、誤魔化しは利いています。
クラリス様は「不細工な子は結界も不細工なのね」と嘲笑されましたが、それでも仕事を押しつけることは止めませんでした。
とにかく彼女は気分屋でしかも癇癪持ちです。クラリス様の怒りを買うようなことがあれば、ネルシュタイン家は簡単に潰されてしまいます。
なので、私は彼女の機嫌を取るためには何でもやりますし、何でも出来るようにならなくてはなりませんでした。
メイドとして家事に関することを一流にこなすことは当然として、芸術や学問から魔法や剣術などの武芸も一通り……挙げ句の果てに諜報活動まで……とにかく彼女のわがままに付き合うためには並大抵ではいられません。
私は段々と自分の中のナニカが壊れていることを理解しながらも、幾年もクラリス様に仕えていました――。
しかし、そんな私にも生きる希望というものはあるにはあったのです……。
「君と結婚したい。僕と婚約してくれ……」
それは偶然の出来事。とある日――この国の第四王子であるニック殿下が落馬して大怪我を負ったところを私が治癒魔術で手当したことがきっかけで彼と仲を深めることになった私は、彼と婚約することになりました。
下級貴族であるネルシュタイン家が王族と婚約するなど、今までに前例がなかったので、これは快挙だと両親は大層喜ばれました。
私は自分の幸せをようやく掴んだのです。
それなのに――。
「エミリア、あんたはもう要らないわ。消えてもらえるかしら――」
ある日、クラリス様はあっさりと私を捨てようとされました。
これまで必死に仕えてきたのに……どんなに理不尽な要求にも応えてきたのに――。
ネルシュタイン家のために自分を殺して生きてきた私は今日――自分の存在意義を全否定されました。
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