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45.緊急の番契約
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ああ、どうすれば……
恐怖と焦燥感にどうしようもなくなった時――
「殿下、うなじを噛んでください!運命の番相手なら、レアオメガのうなじを噛む事が命の活力を与える行為と同じなのです!」
「うなじ……!」
本当は性衝動の際に噛むのが基本だが、片割れが命の危機に瀕している場合のみ活力を与えるために噛む場合もありだという。後で知ることになるが。
エミリーの咄嗟の指示にもうなりふり構ってられない。パスカルの体を少し抱き起し、そっと白いうなじに唇を寄せる。
「痛いと思うけど我慢してね」
そっとそう呟き、一気に歯を立てた。
「――ッ!」
びくっとパスカルの体が大きく震える。閉じていた目が一瞬だけ開き、何かに悶えるように体動しているのがわかる。おそらく生きようとする意思や血液が急激に沸騰し、体内のフェロモンが変質しているからだろう。
それに自分の体も変動しているのがわかる。脳内にたくさんの何かが流れ込んできて、これは……記憶?
とにかく歯を立てながら生きてくれとひたすら祈り、やがてパスカルの体に熱を感じてくると、流れてくるパスカルの血を舌で舐めとり、唇をゆっくり離した。
「パスカル……っ」
ゆっくりまたベットに寝かせる。顔色を改めて確認すると、パスカルは先ほどと違って顔に赤みが戻ってきた。荒く吐いていた呼吸も正常にもどっている。
「容態が落ち着いてます。やはり、うなじを噛む行為は有効だったようです」
エミリーの言葉に安心したようにホッとして、知らぬ間に涙が一つ、二つとパスカルの頬にこぼれ落ちた。
「よかった……生きてくれた……っ」
嗚咽をこらえながら、そっとパスカルの唇にキスを落とした。
「大きな山場は今ので乗り越えました。あとはパスカル君次第です」
「大丈夫、なのか……?」
「運命の番にうなじを噛まれたのです。それは普通の番同士以上に何十倍もレアオメガにとっては幸福な事。だからきっと大丈夫」
エミリーの言葉にとりあえずは待つことになる。別室で休むことになり、ベータであるセバスチャンとこの病棟で寝泊まり。残りの部下達に近隣の町に泊まるよう促し、パスカルを信じて夜が明けるのを待った。
翌朝、エミリーがパスカルだけでなくアルファの自分にも診察を促してきた。番契約後のアルファも体調変化が起こりやすいらしい。
「殿下、お体はどうですか?」
「少し倦怠感を感じるくらいか……」
番契約をしたばかりか、体が熱っぽい気がする。
「パスカル君と番になった事で、殿下の方も体が今現在進行形で変化している最中です。数日はずっと熱っぽさと倦怠感を感じると思いますが、それはよい方向に向かっているだけなので安心してください」
「……どうりで体が熱っぽいわけだ」
以前とはどこか違うような気がするのはそのせい。それに、自分の事もいろいろ思い出した。
「アルファは運命の番と番った時、他のオメガやレアオメガのフェロモンを全く感じなくなり、ひたすら番のフェロモンだけを感じるようになります。そして、番のオメガへの庇護欲と独占欲が過剰なくらい増し、嫉妬もしやすく、他のアルファを威嚇して攻撃的になったりするのでそこは注意してください」
「威嚇に嫉妬か。それは……今後十分ありえそうだ」
以前もパスカルが巣作りで別の人間の服を借りると提案した時、黒い感情が沸き上がって苛立ちがしばらくは抑えきれなかった事があった。その時からもう自分のアルファとしての性質が現れていたようで、無意識に体がパスカルを運命の番と認識していたんだろう。気づかなかった自分がますます情けない。
「殿下、パスカル君が目を覚ましました」
エミリーの診察を受けている時、別の看護師が報告にきた。もう峠は越えたとはいえ心配だったので急いで向かう。
「パスカル!」
がらっと扉を開けると、起きたばかりの愛しい恋人がこちらに顔を向けて穏やかに微笑していた。
「メル……おはよう……」
「あ、ああ、おはよう。パスカル」
ベット上にいる神々しく微笑む小さな恋人を抱きしめた。
「よかった……元気になってきてる。もう、離したりしないし、オレが守るからね」
「メル……俺も、メルと……ごほっごほっ」
「咳がまだひどいから無理して話さなくていいよ。いっぱい後で聞かせて」
「ん……」
パスカルが頷くのを見てそっと額にキスを送る。パスカルは驚いている。
恐怖と焦燥感にどうしようもなくなった時――
「殿下、うなじを噛んでください!運命の番相手なら、レアオメガのうなじを噛む事が命の活力を与える行為と同じなのです!」
「うなじ……!」
本当は性衝動の際に噛むのが基本だが、片割れが命の危機に瀕している場合のみ活力を与えるために噛む場合もありだという。後で知ることになるが。
エミリーの咄嗟の指示にもうなりふり構ってられない。パスカルの体を少し抱き起し、そっと白いうなじに唇を寄せる。
「痛いと思うけど我慢してね」
そっとそう呟き、一気に歯を立てた。
「――ッ!」
びくっとパスカルの体が大きく震える。閉じていた目が一瞬だけ開き、何かに悶えるように体動しているのがわかる。おそらく生きようとする意思や血液が急激に沸騰し、体内のフェロモンが変質しているからだろう。
それに自分の体も変動しているのがわかる。脳内にたくさんの何かが流れ込んできて、これは……記憶?
とにかく歯を立てながら生きてくれとひたすら祈り、やがてパスカルの体に熱を感じてくると、流れてくるパスカルの血を舌で舐めとり、唇をゆっくり離した。
「パスカル……っ」
ゆっくりまたベットに寝かせる。顔色を改めて確認すると、パスカルは先ほどと違って顔に赤みが戻ってきた。荒く吐いていた呼吸も正常にもどっている。
「容態が落ち着いてます。やはり、うなじを噛む行為は有効だったようです」
エミリーの言葉に安心したようにホッとして、知らぬ間に涙が一つ、二つとパスカルの頬にこぼれ落ちた。
「よかった……生きてくれた……っ」
嗚咽をこらえながら、そっとパスカルの唇にキスを落とした。
「大きな山場は今ので乗り越えました。あとはパスカル君次第です」
「大丈夫、なのか……?」
「運命の番にうなじを噛まれたのです。それは普通の番同士以上に何十倍もレアオメガにとっては幸福な事。だからきっと大丈夫」
エミリーの言葉にとりあえずは待つことになる。別室で休むことになり、ベータであるセバスチャンとこの病棟で寝泊まり。残りの部下達に近隣の町に泊まるよう促し、パスカルを信じて夜が明けるのを待った。
翌朝、エミリーがパスカルだけでなくアルファの自分にも診察を促してきた。番契約後のアルファも体調変化が起こりやすいらしい。
「殿下、お体はどうですか?」
「少し倦怠感を感じるくらいか……」
番契約をしたばかりか、体が熱っぽい気がする。
「パスカル君と番になった事で、殿下の方も体が今現在進行形で変化している最中です。数日はずっと熱っぽさと倦怠感を感じると思いますが、それはよい方向に向かっているだけなので安心してください」
「……どうりで体が熱っぽいわけだ」
以前とはどこか違うような気がするのはそのせい。それに、自分の事もいろいろ思い出した。
「アルファは運命の番と番った時、他のオメガやレアオメガのフェロモンを全く感じなくなり、ひたすら番のフェロモンだけを感じるようになります。そして、番のオメガへの庇護欲と独占欲が過剰なくらい増し、嫉妬もしやすく、他のアルファを威嚇して攻撃的になったりするのでそこは注意してください」
「威嚇に嫉妬か。それは……今後十分ありえそうだ」
以前もパスカルが巣作りで別の人間の服を借りると提案した時、黒い感情が沸き上がって苛立ちがしばらくは抑えきれなかった事があった。その時からもう自分のアルファとしての性質が現れていたようで、無意識に体がパスカルを運命の番と認識していたんだろう。気づかなかった自分がますます情けない。
「殿下、パスカル君が目を覚ましました」
エミリーの診察を受けている時、別の看護師が報告にきた。もう峠は越えたとはいえ心配だったので急いで向かう。
「パスカル!」
がらっと扉を開けると、起きたばかりの愛しい恋人がこちらに顔を向けて穏やかに微笑していた。
「メル……おはよう……」
「あ、ああ、おはよう。パスカル」
ベット上にいる神々しく微笑む小さな恋人を抱きしめた。
「よかった……元気になってきてる。もう、離したりしないし、オレが守るからね」
「メル……俺も、メルと……ごほっごほっ」
「咳がまだひどいから無理して話さなくていいよ。いっぱい後で聞かせて」
「ん……」
パスカルが頷くのを見てそっと額にキスを送る。パスカルは驚いている。
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