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翌朝、アリアドネは最低限の荷物と共に、粗末な馬車で雪深い辺境の修道院へと送られた。御者は露骨に嫌そうな顔をしており、まるで厄介払いをするかのような扱いだった。
(レグルス様とリディアの婚約が華々しく発表されるのは、きっと今頃ね……)
馬車の中で、アリアドネは昨夜一睡もできずに考え続けていたことを思い返していた。街の人々の噂話が聞こえてくる。
「ヴァーミリオン侯爵子息とエルムウッド家の次女の婚約ですって! なんて美しいお二人でしょう」
「前の婚約者? ああ、病気で療養に行かれたとか。可哀想に」
(病気で療養……そんな嘘まで……)
アリアドネの心は更に深く傷ついた。自分の存在そのものが、家族にとって恥ずべきものだったのだと改めて思い知らされる。
山道に差し掛かった時、突然激しい雪嵐が襲った。馬車は立ち往生し、御者は慌てふためいている。
「こりゃあ駄目だ! こんな嵐じゃあ進めねえ!」
御者はアリアドネを馬車に残したまま、近くの小屋に避難しようとする。
「待ってください! 私も一緒に……」
「お嬢様は馬車で待っていてくだせえ。すぐに迎えに来ますから」
しかし、御者はそのまま姿を消してしまった。アリアドネは薄い外套一枚で、吹雪の中に取り残される。
(このまま死んでしまうのかしら……それも、いいかもしれない)
寒さで意識が朦朧としてきた時、馬の蹄の音が聞こえた。
「おい、あそこに馬車があるぞ!」
「誰か乗っているのか?」
優しい声に促されて、アリアドネは震える手でドアを開けた。そこには立派な外套を着た老人と、その従者が立っている。
「これはひどい……お嬢さん、大丈夫ですか?」
老人の温かい手が、アリアドネの頬に触れた。その瞬間、彼女は驚きで目を見開く。
「あなたは……セドリック・グレイワース卿?」
「ほう、君は私を知っているのか?」
セドリック・グレイワース卿。かつて王宮筆頭薬師を務めた伝説的な人物だった。アリアドネが幼い頃、一度だけ薬草について教えを受けたことがある。
「私はアリアドネ・エルムウッド。以前、薬草園で……」
「ああ! あの時の利発な少女か!」
セドリック卿の顔に、温かい笑みが浮かんだ。
「まさか、こんな場所でお会いするとは……しかし、なぜ君がこのような粗末な馬車で?」
アリアドネの衰弱ぶりと、明らかに不自然な状況を見て、セドリック卿は事情を察したようだった。
「修道院へ行くのは待ちなさい。私の館でまずは体を休め、それから先のことを考えるといい」
予期せぬ救いの手に、アリアドネは戸惑いながらも、セドリック卿の温かさに触れて、凍てついた心にわずかな希望の灯がともるのを感じた。
(もしかして……これは運命なのかしら?)
雪嵐の中、アリアドネは新たな道へと歩み始める。まだ彼女は知らない。この出会いが、彼女の人生を根底から変えることになると。
(レグルス様とリディアの婚約が華々しく発表されるのは、きっと今頃ね……)
馬車の中で、アリアドネは昨夜一睡もできずに考え続けていたことを思い返していた。街の人々の噂話が聞こえてくる。
「ヴァーミリオン侯爵子息とエルムウッド家の次女の婚約ですって! なんて美しいお二人でしょう」
「前の婚約者? ああ、病気で療養に行かれたとか。可哀想に」
(病気で療養……そんな嘘まで……)
アリアドネの心は更に深く傷ついた。自分の存在そのものが、家族にとって恥ずべきものだったのだと改めて思い知らされる。
山道に差し掛かった時、突然激しい雪嵐が襲った。馬車は立ち往生し、御者は慌てふためいている。
「こりゃあ駄目だ! こんな嵐じゃあ進めねえ!」
御者はアリアドネを馬車に残したまま、近くの小屋に避難しようとする。
「待ってください! 私も一緒に……」
「お嬢様は馬車で待っていてくだせえ。すぐに迎えに来ますから」
しかし、御者はそのまま姿を消してしまった。アリアドネは薄い外套一枚で、吹雪の中に取り残される。
(このまま死んでしまうのかしら……それも、いいかもしれない)
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「おい、あそこに馬車があるぞ!」
「誰か乗っているのか?」
優しい声に促されて、アリアドネは震える手でドアを開けた。そこには立派な外套を着た老人と、その従者が立っている。
「これはひどい……お嬢さん、大丈夫ですか?」
老人の温かい手が、アリアドネの頬に触れた。その瞬間、彼女は驚きで目を見開く。
「あなたは……セドリック・グレイワース卿?」
「ほう、君は私を知っているのか?」
セドリック・グレイワース卿。かつて王宮筆頭薬師を務めた伝説的な人物だった。アリアドネが幼い頃、一度だけ薬草について教えを受けたことがある。
「私はアリアドネ・エルムウッド。以前、薬草園で……」
「ああ! あの時の利発な少女か!」
セドリック卿の顔に、温かい笑みが浮かんだ。
「まさか、こんな場所でお会いするとは……しかし、なぜ君がこのような粗末な馬車で?」
アリアドネの衰弱ぶりと、明らかに不自然な状況を見て、セドリック卿は事情を察したようだった。
「修道院へ行くのは待ちなさい。私の館でまずは体を休め、それから先のことを考えるといい」
予期せぬ救いの手に、アリアドネは戸惑いながらも、セドリック卿の温かさに触れて、凍てついた心にわずかな希望の灯がともるのを感じた。
(もしかして……これは運命なのかしら?)
雪嵐の中、アリアドネは新たな道へと歩み始める。まだ彼女は知らない。この出会いが、彼女の人生を根底から変えることになると。
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