ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十話

決起会

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 ***


 鈴凪神社に着くと境内に多くの人間が行き交っているのが見えた。ほとんどの者が祭りの法被を着ている。神社も全体的に祭りの装飾がされており神聖な場所から世俗にまみれた空間へと一変していた。

「遅えぞ」

 鳥居の下で桐谷と例の屋台の店主と思わしき男が立っていた。簡単に引き合わされ、互いの挨拶が終わる頃には桐谷は姿を消していた。
 (なんだ…)
 性処理以外で呼び出されるのは初めてで警戒していたが、本当に数合わせだったのかと内心ホッとする。

「いや~本当に困ってたんだよ。バイトの子が昨日の夜から急に連絡が取れなくなっちゃってさ~」

 四、五十代の陽気な店主はビール腹を揺らしながら笑った。その背後、境内はすでに日が陰り薄暗くなっていた。祭りの提灯があるおかげで灯籠の火だけの時より明るいが、中心地から外れた森部分はほとんど変わらぬ暗さを維持してる。
 
「そうだ。どうせ来てもらったんだし国枝くんも決起会においでよ」
「決起会?」
「そう。屋台チームの気合いを入れるための桐谷さん主催の宴会だよ。本当は店主しか参加できない事になってるけど、せっかくのただ酒飲まないと損だから、ははは!」

 (なるほど、宴会があるからこんなに人がいたのか)
 祭りの法被を着てる者達が同じ方向に歩いていくのが見える。祭りの準備もあると思うが宴会要員もかなりの割合で含まれてるはずだ。

「ほらほら!国枝くんも早く!」

 押される形で店主に連れられ中央広場に行くと

 ざわざわ

 盆踊り会場のようなやぐらが立っていた。やぐらから外側に伸びるように提灯がいくつも垂れていて、今からでも祭りができそうな程華やかな会場になっている。

「もう始まっちゃってるね。僕らはあそこら辺に座ろうか」

 やぐらを囲むように敷かれた宴会用のシートはよくあるお花見会場のような感じで、前後左右気にせず酒を交わしていた。店主と共に端っこの少し空いていた空間に腰を下ろし、氷水に浸ったビール缶を手に取る。

「じゃあ乾杯!明日から二日、よろしくね!」
「よろしくお願いします」

 ごくごく

 暑苦しい外気と冷えたビールの温度差が気持ち良かった。あっという間に一缶を空にしておかわりを開ける。店主が「いけるクチだね~」と笑って、身の上話をし始めた。俺は適当に相槌を打ちつつ、視線だけで桐谷の姿を探した。
 (…いた)
 宴会の中心で偉そうな者達と酒を交わしている。先程までの不機嫌な姿が嘘のように顔を赤くして笑っていた。
 (相当飲みまくったのか…?)
 手元のビールはそこまで減ってそうに見えないが…とにかく桐谷とは距離も離れてるし気付かれずにすみそうだ。ホッと胸を撫で下ろし、温くなったビールを口に持っていくと

「あれーライがどうして屋台チームの人達と飲んでるの~?」
「んぐっ?!!」

 まさかの声が降ってきて、思いっきり噎せた。

「げほげほっ、う、おまっ、ユウキ?!」
「やっほー、ライ、この時間に外で会うのは珍しいね」
「そっちこそ…」

 夜の宴会場に制服姿のユウキはかなり浮いていた。横に控えてる柴沢のおかげでただ者じゃない感も出てるし…視界の端で店主がそそーっと離席しトイレに行くのが見えた。

「俺は屋台チームが宴会やるって聞いて、大人の皆さんがハメを外しすぎないか見張りにきたんだよー…あ、横座っていい?俺が立ってると皆さん恐縮しちゃうからさ」
「あ、あぁ、」

 俺が横にどくとユウキが「よっこいしょ」と胡坐をかいて座った。そして何食わぬ顔でまだ空いてないビールに手を伸ばす。

「おいバカ、未成年」

 ユウキの手をベシッとはたき落とし、代わりに烏龍茶を押し付けた。

「えー?俺だけ烏龍茶ー?つまんなーい」
「つまんなーいじゃねえよ。見張りなのはわかったが…未成年のお前が宴会に参加してんじゃねえ。通報されるぞ」
「通報して困るのは皆さんじゃない?ヤクザと飲み会してるだなんて知られたら…未成年飲酒なんて可愛く思える騒ぎになるよ~、あはは~」
「お前なあ…」

 通報されると言われてビビらないとか…なんて可愛くない高校生なんだ。

「てかライの方こそどうしてここにいるの?これ屋台店主が集められた決起会でしょ?」
「それが…バイトが飛んじまったとかで…急遽手伝わされる事になったんだ」
「え~?このタイミングで飛んだってなんか怪しくなーい?」
「受けちまったんだからどうしようもねえだろ。もういいからお前は家に帰れよ、未成年」
「ぶー!未成年未成年って俺の名前はユウキなんですけどー!」
「知ってるわ」

 呆れつつビールを煽った。温くてもうまい。おつまみが並べられた紙皿からミックスナッツを取り、ポリポリと頬張ってると、ユウキがふて腐れながら呟いた。

「ちぇー、じゃあわかった。お酒飲めなくていいから少し話そうよ。邪魔が入らずライと二人きりで話せるのって貴重だしー」
「…俺としては浮気してるみたいで嫌なんだが」
「えーこんなに人がたくさんいる宴会で会うだけで浮気はないでしょ。それにソルジさんと寝落ちするまでゲームしたんだし?お話するぐらい可愛いもんだよねぇ」
「うっ…なんでそれを…」
「あはは、ソルジさんとはマブダチだからね」
「いつの間に…」

 ソルの事を引き合いに出されれば言い返せない。
 (てか二人きりって…)
 社の裏で桐谷に絡まれていた時に助けてもらった事を思い出し罪悪感に駆られる。

「ユウキ…あの時は情けねえ姿を見せちまって悪かった」
「あの時?ああ、裏で絡まれてた時ね。ううん、誰だって苦手な人はいるし、情けないってより可愛い姿だったから俺からしたら逆に得した気分だよ。なんたってハグできたし」
「お前ブレないな…」
「えっへへ、ライへの愛は永遠にブレませーん」

 そりゃどうも、と苦々しい気持ちでナッツを噛み砕いた。
 (俺への愛ね…)
 片想いだと知りながら想い続ける切なさを一度体感したからこそ、今のユウキの溌溂とした姿が恐ろしく思えた。やはりユウキと俺ではメンタルの構造が根元から違うらしい。ある意味尊敬した。

「ねえ、ライ、あれから店の人達には無茶振りされてない?」
「…されてねえ」
「あの人との関係に困ってない?束縛とか暴走とかしてない?」
「…、…大丈夫だ。なあ、これ尋問か何かか?まさか組に報告とかしねえよな」
「違うよ。単純に俺が気になってるだけ」
「あっそ…」

 ホッとする。ユウキは俺を探るように見た後

「これで最後ね、…今、困ってる事はない?」
「!」

 ギクリとした。横を見れば、栗色の瞳が心を見透かすようにジッと見つめてくる。

「俺にできる事ならなんだってするから、困ってる事があったら何でも言って」
「…ユウキ」

 (確かに狐ヶ崎組の協力を得れば桐谷は思うままに片付けられるかもしれないが…)

「…大丈夫だ。色々気遣わせちまって悪いな」

 ここまで踏み込んだ関係になっておいてあれだが、俺はユウキの事を“狐ヶ崎"として扱いたくなかった。ユウキはユウキとして向き合い続けたい。それがきっと互いの為になるはずだ。
 (何より…これは俺と桐谷の問題だ)
 ユウキは関係ない。

「そっか。俺の方こそしつこくしてごめんね。しつこいついでにもう一つ聞いちゃうけど、ライ、今スマホ持ってる?」
「!?」

 ユウキにスマホの話をされるとついつい過剰に反応してしまう。青ざめつつ「何が言いたいんだ…」と構えてると、ユウキはあははと無邪気に笑った。
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