ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十話

★屋台の手伝い

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 その後、思うようにフィンと話せぬまま俺達は昨日と同様別行動となった。店もそれなりに忙しかったがつじつま合わせの方が更に立て込んでるらしく、いつ帰れるかわからない状況だと連絡があった。結局その日はフィンと会う事無く朝を迎えた。

 “ひるすぎに戻る”

 いつもの文面を確認して、冷たいままの左側のシーツを撫でる。寂しい…なんて思う資格、俺にはない。

「よし」

 今朝は目覚ましをかけて少し早めに起きておいた。いつかかってくるかわからない桐谷の呼び出しに備える為、店の準備を昼までに終わらせる必要があるからだ。予想通り昼頃にスマホが鳴り桐谷に呼び出された。ギリギリ準備を終えていた俺は急いで神社に向かった。

「ん?」

 その道中で何故かソルから「アイスを買ってこい」と寝言のような電話があったがすぐに切れたので無視する事にした。



「ンぐ、けほっ…」
「今日も上手に飲むなぁー雷クン」

 卓袱台に腰掛けた桐谷の足の間に顔を埋め、口の中に出されたものを嚥下する。心を無にしていた事もあり不快感は昨日よりマシだったが、どうしても粘つく口内が気になって視線だけで水を探る。でも桐谷がそんなものを用意するわけもなく絶望のまま視線を前に戻した。

「ほら、次の準備しろ」

 かかとで正座する太ももを蹴られ、仕方なく、自ら脱ごうとすると

 ブーブー

「!」

 俺のスマホが振動し始めた。和室に入ってすぐ身体検査され奪われたスマホは連れ二人の背後に位置する棚に置かれている(ちなみに昨日とはまた違う顔ぶれだ)。木の棚だからやけに振動音が響いてうるさい。

 ブーブー

 鳴り止まないバイブ音に桐谷が舌打ちする。

「チッ、出ろ」
「…!」
「お前のバックには狐ヶ崎組がいる。怪しまれると厄介だ。早くしろ」

 言うが早いかスマホを俺に投げつけた。未だ振動し続けているスマホの画面を確認すると、ソルからだった。珍しく非通知じゃない。

「…もしもし、ソルか?」
 <おい!ごらぁ!アイスはどうした!>
「え」
 <昼飯の後に食いたいって言ったろうが!!どこのスーパーまで行ってんだよ!>

 何の事かと思ったが、道中でかかってきた電話を思い出し、ああアレは寝言ではなかったのか…と今更思い直す。

「いや、ちょっと…知り合いに会っちまって」
 <どーでもいいから急げよ!ラーメンの後はアイスって決めてんだよ!…って、うおい!グレイ!それはオレのラーメンだ!食うな!>
 <え~お腹すいたのに~ケチ~>
 <うるせえ!>

 ソルの後ろからグレイの声まで聞こえてきてやけに賑やかだった。一旦かけ直すからと言って切り、顔を上げれば、煙草を咥えた桐谷が貧乏ゆすりをしながら見下ろしてくる。

「チッ、今の、店の奴らだな…?」
「…はい」
「良い所で邪魔しやがって…あーあ、もう萎えたわ。お前、帰れ」

 まさかの解放に心が浮かび上がる。まだ桐谷の事は何も探れていなかったが、最後までやらされなかったのはラッキーだ。桐谷の気が変わる前にと俺は即時に神社を脱出した。



 それからも奇妙な事が立て続けに起きた。桐谷に絡まれる度、面白いぐらい良いタイミングで邪魔が入るのだ。ソルのいたずら電話だったり、狐ヶ崎の巡回が入ったり、はたまた町内会の人が訪れてきたりと。こんなにうまいタイミングがあるのだろうかと思ったが、俺も鳴海も外部には漏らしてないし桐谷がボロをだすわけがないからきっと偶然なのだろう。

 とにかく俺は桐谷に抱かれる事なく三日間をやり過ごした。

 だが桐谷との接触時間が短い分、奴を追い込む手がかりも得られず…いつまでこんな事を続けなくてはいけないのだろう、と憂鬱な気持ちは増していた。



「とうとう明日ネ~」

 外の清掃を終えて店内に戻ると、グレイが電卓を叩きながら話しかけてくる。

「明日?」
「鈴凪祭り。土日にやるって言ったデショ?」
「ああ、そういや…そうか」

 桐谷の事で頭が一杯ですっかり忘れていた。どうりで歓楽街全体が活気に包まれてたわけだ。

「ふふ、お祭りはみんなで楽しまなきゃネ」
「楽しむって言っても夜営業の店は参加できないだろ?」
「参加できなくても、商売としては人通りが増えるから新規さんを増やしやすいし、何よりお祭り騒ぎの人達ってお財布の紐が緩むからかき入れ時なのヨ」
「なるほど、そりゃ一大事だな」

 個人的にはお祭り気分なんてもっての他の憂鬱メンタルだったが、それを吐露するわけにもいかない。愛想笑いを張り付けてると

「…ってことで、ライも、フィンを誘ってみたらどうカシラ?」
「!!」

 今、なんと?とグレイの方を見れば、苦笑を向けられた。

「あんた達この数日ずっとギスギスしてんじゃないノ。いい加減鬱陶しくなってきたから、お祭りデートして仲直りしちゃいなさいナ」
「いや、俺は店やらねえとだし…フィンはパトロールとかつじつま合わせで立て込んでるし…」
「んもー!!お互い休憩のタイミングを合わせればいくらでも行けるデショ??焦れったいわネェ~!全然進展しない恋愛ドラマを見せられてる気分ダワ~勘弁して~!」

 メキキッと軋む音がしたと思えば、グレイが電卓を叩き割る勢いで棚に押し込んでいた。

「ひぃっそんなに押し込んだら棚が!へし折れるって!」
「折れないわヨ!失礼ね!…って、キャー!ちょっと凹んじゃった!」
「ほらやっぱり…」
「大変ー!直し屋さんに連絡しないと~!!」

 グレイはバタバタと賑やかな足音を響かせながら廊下に消えた。スマホを取りに行ったのだろう。俺は店内に残り、清々しい程綺麗にグレイの手の形で凹んだ棚を眺める。

「すげえな…」

 呆れつつ、笑いが溢れる。グレイの馬鹿力のおかげで少し憂鬱な気分が晴れた。

 ブーブー

「!!」

 非通知の着信だった。上がりかけていた気分が再降下する。今日は珍しく昼に呼び出されなくて桐谷に絡まれずに済むと思ったのに…。ため息と共に店の外に移動する。

「もしもし……」
 <雷クンよぉ、ワンコールで出ろよ。時間を無駄にさせんな>
「…すみません」

 どうやら今日の桐谷は大層機嫌が悪いらしい。背後で忙しそうに走ったり喋ってるのが聞こえるし、祭り前日で立て込んでるのだろう。

「…え?俺が屋台の手伝いですか」
 <ああ、バイトの一人が飛んじまってな。人が足りなくなって困ってんだよ。だからヘルプ頼むわ、雷クン>
「そう言われても…俺にも仕事があります」
 <安心しろ。根回しはしてある。話が終わったら神社前に来い>

 そこで電話は切れた。
 (根回しはしてあるって…)
 首を傾げながら店に戻ると、グレイが受話器片手に駆けよってくる。

「チョットチョット~今、鷲野さんから電話があったけど、あんた屋台任されちゃったって本当~?やけにここ数日、町内会の人達と仲良くしてると思ったらまたお人好しを発動したのネ??」

 なるほど、これが根回しか、と内心ため息を吐いた。

「悪い…断り切れなくてさ」 
「ンも―。引き受けちゃったのなら仕方ないし、お祭りはアクシデントありきのイベントだから止めないけど…屋台に立ってたらお祭りデートができないジャナーイ!どうすんのー!!」

 憤慨するグレイに苦笑しつつエプロンを外した。

「じゃ…行ってくる」
「お祭りの事だし鈴凪神社近くで顔合わせよね?…一応神隠しの件もあるし、気を付けるのヨ」
「!」

 グレイの心配するセリフに足が止まる。

「あたしでもフィンでも…バカワンコは戦力外だから論外だけど、気軽に呼んでいいんだからネ」
「ああ、ありがとな」

 それ以上聞いていられず早口で礼を言って俺は店を飛び出した。
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