ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十話

場瀬さん

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「…い…おい」

 頬を叩かれる感覚と繰り返し呼びかけられる声に、ゆっくりと意識が覚醒していく。のろのろと瞼を開ければ、ひょろりと背の高い男、場瀬が覗き込んでいた。

「ば、せさん…?」
「お前こんな所で寝てると襲われるぞ」
「…え、あれ」

 俺は何故か地面に倒れていた。
 (は??なんで倒れて…)
 必死に記憶を探るがどうしても気を失うまでの行動が思い出せない。店主達の宴会に参加する事になって、途中でユウキとフィンが現れて、それでどうして森の中で倒れる事になるんだ…訳が分からない。混乱する俺を見て、場瀬は相変わらず淡々とした調子で言った。

「お前はつくづく運が悪くて、運が良い」
「…どっちですか」
「両方だ。そんな事よりさっさと起きろ。れんが戻ってくるぞ」
「…はい」

 場瀬に言われるまま起き上がった。体に熱っぽさや痛みもない。熱中症というわけではなさそうだ。場瀬はそのまま会場の方へと戻っていく。

「場瀬さん、ありがとうございました」
「…」

 その背中に短く礼を言ったが、場瀬は振り返る事なく立ち去ってしまう。

「…ほんと、読めねえ人」

 中学の時もだが場瀬は常に読めない男だった。桐谷の事を「蓮」と名前で呼ぶのは場瀬だけだ。きっと桐谷とも親しい仲なのだろうがそれ以上場瀬の事を深く知れる情報はない。今も昔も互いに口下手だしで、距離を縮める理由もない。ただただよくわからない男、という印象を胸に残したまま俺も宴会会場に戻った。



「あ~!ライおかえり!一時間もトイレってどんだけ混んでたの~~」

 ユウキの台詞で「ああ、トイレと言ってここから抜け出したんだった」と思い出した。そんなユウキの横には店主が座っていて、顔面蒼白となりつつも必死に愛想笑いを張り付け、ユウキの持つ紙コップにお茶を注いでいる。祭りの影のドンであるヤクザ息子を蔑ろにはできないのだろうが、向かい側には紳士的な笑みを浮かべるフィン(でも内心激怒している)も座っているし、色んな意味で可哀想だった。

「あの、そろそろ俺は帰ろうかと思いますが」

 そう店主に声をかけると「それなら僕も!!」と目を輝かせてくる。苦笑いでそれを受け止め、俺はユウキの方を見た。

「じゃそういう事だから俺らは先帰るわ。またな、ユウキ」
「ん、またね~おやすみ~」

 ユウキに見送られ俺達は会場を抜け出した。神社を出てすぐに店主と別れた俺はフィンと二人で歩いていた。こうして互いが起きてる状態で二人きりになるのは久しぶりだ。変に緊張してしまう。

 “お祭りデートして仲直りしちゃいなさいナ”

 グレイの台詞が脳内で木霊する。仲直り。お祭り。デート。考えるだけでソワソワする。誘いたい。お祭りじゃなくてもいい。ただこうして二人で一緒にいられる時間を作れたら…。
 (でも、今の俺がそんなものを求めていいのか…?)
 きっと一度でもフィンに甘えてしまえば、ずるずると自制する気持ちは崩れていくだろう。桐谷と戦うという事は自分の弱さと向き合うという事だ。“今”その優しさを与えられたらきっと俺は…桐谷に立ち向かえなくなってしまう。フィンに甘えようとする。…それではダメだ。

「ライ?」

 フィンが振り返って見てくる。

「フィン、俺、」
「…?」
「ちゃんとやるから、だから…終わったらデートしよう」

 そう言ってフィンの横に並ぶと、ふわりと優しく微笑まれた。色々俺に言いたい事があるはずなのに、包み込むような笑顔を向けられ、胸がぎゅって締め付けられる。

「ライの気が済むまで、いくらでも待とう。その代わり、デートの後は抱かせてくれ。それを褒美に耐えるから」
「…俺の腰を破壊するなよ」
「ライはそこまで柔じゃないだろう」
「いや、あんたの絶倫さには勝てねえから…」

 俺が小さく文句をいうと、ふふ、とフィンが幸せそうに笑った。


 ***


 翌朝、

「よし、こんなもんか」

 早めに起きた俺は手早く開店準備を済ませ、店を出た。俺が担当する屋台は歓楽街側にあり場所は昨日のうちに聞いておいた。いつもより何倍も人通りがありざわざわと騒がしいメイン通りを進みながら目的の屋台を探す。するとどこからともなく「おーい」と声をかけられた。

「こっちこっち!国枝くん、おはよう!」
「おはようございます」

 店主はほとんど屋台の準備を完了させていた。周りの屋台も同様で、すでに始めてる所すらある。

「うちは焼きそば屋だからね。お昼時から始めようかなと思ってるよ。国枝くん、焼きそば作れる?」
「こんな大きい鉄板は使った事ないですが…一応作れます」
「じゃあ作る担当にしてもらおうかな」
「わかりました」

 鉄板や道具の使い方を聞いて、一度練習で作ってみた。「お昼ご飯代わりに」と屋台店主がそれを口にすると、次の瞬間バクバクと勢いよくかきこんでいく。

「喉に詰まりますよ」
「むほ、んむ、っむ!!」

 店主は手を振って「大丈夫大丈夫」とジェスチャーしてくる。それから満面の笑みを浮かべた。

「ごくん、…うん!めちゃくちゃうまい!同じ食材を使ってるのになんでこんなに味が違うんだ?!麺もべとべとじゃなくて…噛んでるだけでも美味しいし…まさか国枝くんって普段料理人だったりする?!」
「いえ違います。ただ、麺はあまり触らずしっかり焼いてから解すといい感じになります。味についてはいつも俺が使ってる隠し調味料をいくつか持ってきて混ぜてみました。勝手にすみません」
「隠し味ってすごいなあ!どんどん仕込んじゃって!こんだけ美味しくなるんだから誰も文句言わないよ!それこそ値段倍にしてもね、はは!」

 店主の冗談に苦笑いで応えていると、遠くから男達の集団が現れた。桐谷だった。

「よう、雷クン。楽しそうだなぁ」
「桐谷さん」
「差し入れ用に二十人分作って神社に持ってきてくれや。大至急な」

 そう言ってさっさと行ってしまった。桐谷達の背中を睨みつけるようにして見送っているとひそひそと店主が耳打ちしてくる。

「今更だけど国枝くんって何者?」
「…え?」
「桐谷さんとも仲良さそうだし、昨日も、狐ヶ崎組の人と親しそうにしてたじゃない?もしかしてだけど、危ない人だったりする…?」

 さっきまでの気さくさが消え、ちょっと警戒するように見てくる。俺は取り繕うように答えた。

「別に大したことないですよ。桐谷さんとは学生の頃バイトが同じで付き合いがあっただけです。狐ヶ崎組の方は…ご子息の家庭教師を任されてて、軽く勉強を教えてます。でもそれだけなんで…屋台の皆さんと同じくらいの距離感だと思います」
「そ、そっかぁ。はは、まあ、そうだよね。国枝くんこんなに穏やかだし、危ない人なわけないか」

 店主はホッと安堵を浮かべた。

「それならいいんだ!じゃあ桐谷さんの差し入れをさっさと作って本番開始といこうか!」
「はい」

 なんとか誤魔化せたようだ。二日とは言え一緒に働く相手に怯えられるのは忍びない。俺はこのまま平和に進みますようにと祈って焼きそば作りに取り掛かるのだった。
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