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十話
束の間の休憩
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「せっかくだけど、これから神社に行くから食べ物は持っていけないんだ」
「そう…でしたか」
「神社で思い出したけど、あそこには寂しがりの神様がいるって知ってる?」
「寂しがりの神様…?」
「そう。生贄が足りなくなると自分で神隠しを起こして人間を攫っちゃう困った神様がいるらしい。だからあそこの神社には代々、神様を鎮める役割を任される特殊な巫女がいるんだそうだ」
「特殊な巫女…」
「はは、こんな話急にされても困るよね」
にこりとお面の隙間から笑みの形になる口元が見えて
(やっぱどこかで会ったことあるような…)
モヤモヤが積み重なっていく。喉元まで出てきているのにどうしてか思い出せない。
「今年も人が消えてるようだからライも参拝する時は気をつけるんだよ。特に不思議な鈴の音が聞こえた時は、神様が近くにいるらしいから」
「鈴の音…って、あ」
浴衣の男はすでに人混みの中に消えていた。俺は誰もいなくなった空間を見て「あれ」と首を傾げる。
「俺、あの人に名乗ったっけ?」
あの男、最後に俺の事をライと呼んでいた。名札もつけてないし見ず知らずの者に名前がバレる事はまずありえない。唯一ありえるとしたら直前のグレイ達との会話を聞いていた線だが、結局俺はよく分からないまま屋台の忙しさに明け暮れ、客足が落ち着く頃にはすっかり男の事を忘れていた。
***
「おにいさーん、焼きそば二つくださーい」
やっと列が途絶えたと思えば私服姿のユウキと柴沢が現れた。最近毎日見ている気がする。
「お前らも来たのか…」
「えへへ、そりゃライがいるなら行くでしょ~てか、ねえねえ!俺、大盛にしてほしいんだけど!できる??」
「倍の金額払うなら特注で盛ってやる」
「オケ払う!むしろ三倍出すからマヨネーズでハートも書いてくれない?」
「誰が書くか。店を間違えてんじゃねえ」
マヨネーズはスルーして大盛りだけ応えてやると、ユウキはケラケラ笑って受け取った。俺達の様子を横で見守っていた店主がヒヤヒヤとしながら耳打ちしてくる。
「狐ヶ崎さんだしタダでよかったのに…!」
「ダメですよ。客は客です。ヤクザ相手でもしっかりぶんどるべきだ」
「ええ~あとで怒られたらどうしよう…」
「大丈夫です」
ユウキはそんなに小さいタマではない。その証拠にユウキは一切気にした様子もなく、もぐもぐと立ち食いしながら俺が焼く所を観察していた。その位置だと熱気が当たって熱いだろうに…。俺が呆れてる横でユウキはにこにこと上機嫌に笑う。
「ライがご飯作ってる姿、好きなんだよね。ASMR的なスルメ効果があると思う」
「ねえよ。なんだASMRって」
「ええ~!ライASMR知らないの?!今度マイク用意しとくから試しに喘いでみてよ、イテッ(※蹴られた)」
「アラアラ、賑やかと思ったらユウキ君じゃないノ」
ユウキと話してるとグレイ達が戻ってきた。なんと今回はフィンも並んでる。一気に心拍数が跳ね上がった。パトロールの合間に俺みたいにグレイに誘われたのだろうか…。まさか祭りの間に会えるなんて、とドキドキしてしまう。
「店長さんこんばんは!それに皆さんもお揃いで~」
「こんばんは。ユウキ君も巡回がてらライの焼きそばを食べに来たクチ?」
「はい、めちゃうまですよ~」
「それは最高ダワ。あたしらでかいのがぞろぞろ並んでも邪魔でしょうしフィン並んできてくれる?」
「ああ、わかった」
グレイはフィンに代金を渡してから、屋台横に組み立てられた臨時ベンチに腰掛けた。ソルもスマホを弄りながらその横に腰を下ろすと、逆側にユウキも腰を下ろした。
「店長さんもお祭り行くタイプなんですね~意外にお茶目~」
「ふふ、あたしカーニバル大好きだもの」
「あはは、陽キャだ~」
グレイとユウキが朗らかに話す合間、俺は視線を前方に戻した。ちょうどフィンの番になったタイミングで、オレンジの瞳は俺の手元を見つめた後、遠慮がちに目を合わせてくる。
「ライ、三人分、お願いしても?」
「ああ…もちろん」
ちょうど焼けた分があったので手早く詰めてフィンに渡した。俺もフィンも特に会話らしいものはしなかったが、明らかに俺の態度が違う事に気付いた店主が気遣うように耳打ちしてくる。
「国枝くん、休憩行ってきなよ」
「え、」
「昼からずっと立ちっぱなしだし、お腹もすいてるでしょ。ほら、もう一人分ぐらい残ってるし一緒に食べておいでよ」
「でも、店主さんは…」
「こっちは慣れてるからさ、ほら一時間休憩、とっておいで」
店主がウィンクしてくる。
「…ありがとうございます…では少し…失礼します」
「うんうん、少しと言わずちゃんと楽しむんだよ!せっかくのお祭りなんだから!ははっ」
ビールっ腹を揺らしながら手を振られて、俺はそれに軽く会釈してからフィンと一緒にグレイ達の元に行った。皆で焼きそばを食べながらこの後の流れを軽く打ち合わせる。
「屋台を一周したら神社にお参りにいきまショ。ライとフィンもそれぐらいの時間はあるワヨネ?」
「うん」
「ああ」
「決まりネ。そうと決まればちょっと男子達、来なさい!」
「「「?」」」
首を傾げていると、グレイがどこからともなくスーツケースを取り出した。そして柴沢の方を見る。
「柴沢さん。近くに車停めてると思うのだけど、ちょっと車内を使わせてもらえないカシラ?」
柴沢はユウキに確認をとるように視線を送る。ユウキは「なんか楽しそうだからOK」と笑って承諾した。
そして十五分後…
「きゃ~~~!皆素敵ヨ~!やっぱ持ってきといて正解だったワ~~~!」
グレイが目をハートにしてはしゃいでる。車に連れ込まれた俺、フィン、ソル、ついでにユウキは順番に浴衣に着替えさせられた。
「いやなんで浴衣…」
「お祭りといえば浴衣デショ~?せっかくだし気分上げてかないと♪」
「ええ…」
俺は紺色のトンボが描かれたよくある浴衣で、フィンは黒に金の刺繍が入った男の色気を纏う浴衣、ソルは灰色に黒の帯という少し毛色の違う浴衣、ユウキは若々しさを感じる矢絣柄の浴衣だった。それぞれ違うデザインだが皆総じて似合っている。高身長イケメンが並んでる事もあって何かのイベントでも行われるのかと周囲の通行人もざわついていた。
(この面子の横に並びたくねえぇ…)
やんわりと柴沢の後ろに逃げてみたがすぐにグレイとユウキに捕まった。
「そう…でしたか」
「神社で思い出したけど、あそこには寂しがりの神様がいるって知ってる?」
「寂しがりの神様…?」
「そう。生贄が足りなくなると自分で神隠しを起こして人間を攫っちゃう困った神様がいるらしい。だからあそこの神社には代々、神様を鎮める役割を任される特殊な巫女がいるんだそうだ」
「特殊な巫女…」
「はは、こんな話急にされても困るよね」
にこりとお面の隙間から笑みの形になる口元が見えて
(やっぱどこかで会ったことあるような…)
モヤモヤが積み重なっていく。喉元まで出てきているのにどうしてか思い出せない。
「今年も人が消えてるようだからライも参拝する時は気をつけるんだよ。特に不思議な鈴の音が聞こえた時は、神様が近くにいるらしいから」
「鈴の音…って、あ」
浴衣の男はすでに人混みの中に消えていた。俺は誰もいなくなった空間を見て「あれ」と首を傾げる。
「俺、あの人に名乗ったっけ?」
あの男、最後に俺の事をライと呼んでいた。名札もつけてないし見ず知らずの者に名前がバレる事はまずありえない。唯一ありえるとしたら直前のグレイ達との会話を聞いていた線だが、結局俺はよく分からないまま屋台の忙しさに明け暮れ、客足が落ち着く頃にはすっかり男の事を忘れていた。
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「おにいさーん、焼きそば二つくださーい」
やっと列が途絶えたと思えば私服姿のユウキと柴沢が現れた。最近毎日見ている気がする。
「お前らも来たのか…」
「えへへ、そりゃライがいるなら行くでしょ~てか、ねえねえ!俺、大盛にしてほしいんだけど!できる??」
「倍の金額払うなら特注で盛ってやる」
「オケ払う!むしろ三倍出すからマヨネーズでハートも書いてくれない?」
「誰が書くか。店を間違えてんじゃねえ」
マヨネーズはスルーして大盛りだけ応えてやると、ユウキはケラケラ笑って受け取った。俺達の様子を横で見守っていた店主がヒヤヒヤとしながら耳打ちしてくる。
「狐ヶ崎さんだしタダでよかったのに…!」
「ダメですよ。客は客です。ヤクザ相手でもしっかりぶんどるべきだ」
「ええ~あとで怒られたらどうしよう…」
「大丈夫です」
ユウキはそんなに小さいタマではない。その証拠にユウキは一切気にした様子もなく、もぐもぐと立ち食いしながら俺が焼く所を観察していた。その位置だと熱気が当たって熱いだろうに…。俺が呆れてる横でユウキはにこにこと上機嫌に笑う。
「ライがご飯作ってる姿、好きなんだよね。ASMR的なスルメ効果があると思う」
「ねえよ。なんだASMRって」
「ええ~!ライASMR知らないの?!今度マイク用意しとくから試しに喘いでみてよ、イテッ(※蹴られた)」
「アラアラ、賑やかと思ったらユウキ君じゃないノ」
ユウキと話してるとグレイ達が戻ってきた。なんと今回はフィンも並んでる。一気に心拍数が跳ね上がった。パトロールの合間に俺みたいにグレイに誘われたのだろうか…。まさか祭りの間に会えるなんて、とドキドキしてしまう。
「店長さんこんばんは!それに皆さんもお揃いで~」
「こんばんは。ユウキ君も巡回がてらライの焼きそばを食べに来たクチ?」
「はい、めちゃうまですよ~」
「それは最高ダワ。あたしらでかいのがぞろぞろ並んでも邪魔でしょうしフィン並んできてくれる?」
「ああ、わかった」
グレイはフィンに代金を渡してから、屋台横に組み立てられた臨時ベンチに腰掛けた。ソルもスマホを弄りながらその横に腰を下ろすと、逆側にユウキも腰を下ろした。
「店長さんもお祭り行くタイプなんですね~意外にお茶目~」
「ふふ、あたしカーニバル大好きだもの」
「あはは、陽キャだ~」
グレイとユウキが朗らかに話す合間、俺は視線を前方に戻した。ちょうどフィンの番になったタイミングで、オレンジの瞳は俺の手元を見つめた後、遠慮がちに目を合わせてくる。
「ライ、三人分、お願いしても?」
「ああ…もちろん」
ちょうど焼けた分があったので手早く詰めてフィンに渡した。俺もフィンも特に会話らしいものはしなかったが、明らかに俺の態度が違う事に気付いた店主が気遣うように耳打ちしてくる。
「国枝くん、休憩行ってきなよ」
「え、」
「昼からずっと立ちっぱなしだし、お腹もすいてるでしょ。ほら、もう一人分ぐらい残ってるし一緒に食べておいでよ」
「でも、店主さんは…」
「こっちは慣れてるからさ、ほら一時間休憩、とっておいで」
店主がウィンクしてくる。
「…ありがとうございます…では少し…失礼します」
「うんうん、少しと言わずちゃんと楽しむんだよ!せっかくのお祭りなんだから!ははっ」
ビールっ腹を揺らしながら手を振られて、俺はそれに軽く会釈してからフィンと一緒にグレイ達の元に行った。皆で焼きそばを食べながらこの後の流れを軽く打ち合わせる。
「屋台を一周したら神社にお参りにいきまショ。ライとフィンもそれぐらいの時間はあるワヨネ?」
「うん」
「ああ」
「決まりネ。そうと決まればちょっと男子達、来なさい!」
「「「?」」」
首を傾げていると、グレイがどこからともなくスーツケースを取り出した。そして柴沢の方を見る。
「柴沢さん。近くに車停めてると思うのだけど、ちょっと車内を使わせてもらえないカシラ?」
柴沢はユウキに確認をとるように視線を送る。ユウキは「なんか楽しそうだからOK」と笑って承諾した。
そして十五分後…
「きゃ~~~!皆素敵ヨ~!やっぱ持ってきといて正解だったワ~~~!」
グレイが目をハートにしてはしゃいでる。車に連れ込まれた俺、フィン、ソル、ついでにユウキは順番に浴衣に着替えさせられた。
「いやなんで浴衣…」
「お祭りといえば浴衣デショ~?せっかくだし気分上げてかないと♪」
「ええ…」
俺は紺色のトンボが描かれたよくある浴衣で、フィンは黒に金の刺繍が入った男の色気を纏う浴衣、ソルは灰色に黒の帯という少し毛色の違う浴衣、ユウキは若々しさを感じる矢絣柄の浴衣だった。それぞれ違うデザインだが皆総じて似合っている。高身長イケメンが並んでる事もあって何かのイベントでも行われるのかと周囲の通行人もざわついていた。
(この面子の横に並びたくねえぇ…)
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