ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十話

“他三人"のターン

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「はぁ~あ、ライと店長さん今頃イチャイチャしてるのかな~…」
「そりゃしてるだろ、グレイのやつ、なんだかんだライにメロメロだからな」
「ですよねー、あーズルいー…」

 前を歩く二人がグチグチと不満を口にしている。私はそれらに関与せず周囲に意識を巡らせ警戒を続けた。

「でも意外でしたよ」

 狐ヶ崎ユウキが振り返ってくる。

「てっきり私と以外認めん!って当たり散らすと思ったのにすんなり行かせましたね」
「私をなんだと思っている。それに…組み直してお前達に当たるよりグレイと二人で行かせた方が安全だ。グレイは私達の中でも群を抜いて適応力がある。理性もな」
「まあそれはそうなんですけど、俺にあんだけ絡んどいて店長さんにはそれってなんか納得いかないなぁ」
「お前は前科がありすぎるからな」
「前科で言ったらそっちもあるでしょ。公然と浮気して、暴走して…ライの事をたくさん傷つけてる癖に」
「…」

 ギロリと睨みつければ狐ヶ崎ユウキも負けじと鋭い目を向けてくる。ライがいないとあざとくしなくていい分、容赦のない面が表に出てくるようだ。いつもの薄っぺらい笑みを浮かべる“胡散臭い姿"よりはいくらかマシだが、私も奴も互いへの怒りは消えず、今にも手が出そうな殺気立った状態で対峙する。

「おい、てめえら止まってんじゃねえ」

 私達を無視して進んでいた駄犬が見かねたように声をかけてくる。

「てめえらと組まされるってだけでも面倒なのに無駄に長引かせんじゃねえ。置いてくぞ」
「置いてくぞって“一人で歩けないから早く進め”の間違いでしょ?ソルジさん怖がりなんだから強がっちゃダメだよ」
「うううっうるせえッ!!!」

 駄犬は狐ヶ崎ユウキに言い返しつつ暗がりの方を見た。提灯の灯りが届かない森の中は暗く不穏な気配が漂っている。人気もない。ぶるるっと身震いするように震えた駄犬はキッと私を睨みつけてくる。

「おい!不死身野郎!てめえが前歩け!こういう時くらい不死身を生かしやがれ!!」
「いちいち怒鳴るな…鬱陶しい」

 呆れつつ前に出てやれば、駄犬とその後ろに狐ヶ崎ユウキも続く形でついてきた。張り詰めた空気は駄犬の情けない姿によって一旦緩められたらしい。

「そういえばソルジさん、そっちはどう?」
「ああ、一応変に思われねえ範囲でやってるぜ。てめえもうまくやってるみてえだな」
「職業柄慣れてますから」
「ヤな職業柄だぜ。ま、今日もちゃんと張り付いとけよ」
「はーい。…と言いつつ今はどっちも見張れないんでちょっと怖いですけど」
「そこは魔王に任せとけば大丈夫だろ」

 後ろの二人がヒソヒソと話している。ふと前方に誰かが倒れているのが見えた。

「あれは…」

 浴衣を着た若い女性で、気付いた狐ヶ崎ユウキが確認しに行く。

「脈も呼吸も問題ない。気絶してるだけみたいですね」
「例のガキの母親かぁ?」
「話ができないからわかりませんけど、状況的にそうでしょうね。こんな場所で気を失うってなかなか特殊…というかかなりきな臭いですが服が乱れてないので不審者に襲われた説は薄いです」
「つーか、父親はどこ行ったよ?」

 周囲を確認するがどこにも父親らしき人影は見えなかった。別々で行動していたのか、もしくは
 
「父親だけ神隠しにあったか…」
「鈴凪の神隠しは迷信ですよ。幻獣が関わってる話も聞かないし神様なんてのは論外」
「まさか幽霊…」
「ビビりさんは黙っててください」
「アアッ?!!」
「ふむ、とにかく、この者はセンターに連れていった方がいいだろうな。看護師が待機しているから診てもらえるはずだ。…駄犬、背負え」
「なんでオレぇ?!!てめえら覚えてろよ!!」

 女性の体を起こし駄犬に背負わせる。未だに起きる気配がない女性は髪が乱れておらず顔を擦ったような傷もない。つまり、

「気絶した時に頭を打ってないのか…」
「え、それって近くに人がいたって事ですか?」

 狐ヶ崎ユウキの言葉に反応するように

 ガササッガサッ

「!!」

 周囲の草むらが揺れた。そして複数人の男達が出てくる。八、九人…いやもっと奥から出てきた。皆ガラの悪い雰囲気で、手には鉄パイプや長物の武器が握られている。待ち構えていたと言わんばかりの登場に「なるほどな」と女性の方を見た。どうやら囮だったらしい。

「お前らをぶちのめせって命令だ。覚悟しな」

 リーダー格と思われる男が言葉少なに振りかぶってくる。体を反らし、片手でいなしながら後方を確認する。女性を背負ったままの駄犬と、それを庇うようにして相手取る狐ヶ崎ユウキが見えた。ヤクザ息子というのは伊達ではなく手慣れた体捌きだ。それに比べて駄犬は

「どわああ!なんだよコイツラ!!」

 実戦がからっきしの駄犬は誰よりも腰が引けていた。いつもの威張りっぷりはどこへやら。狐ヶ崎ユウキも呆れている。

「おい!狐ヶ崎ィ!こっち来てる!早く!早く倒せぇ!!」
「気が散るから黙っててソルジさん。大丈夫、ママさんには指一本触れさせないからー、っと!」
「イッテェ!おい!当たってんだろが!オレもちゃんと守れぇッ!!」
「情けない悲鳴ださないでよ…って、あ!ヤバイ!」

 駄犬の死角から男が一人襲いかかってくるのが見えた。狐ヶ崎ユウキには届かない距離だ。仮に届いたとしても駄犬の体が邪魔で対応できない。女性か駄犬のどちらかは負傷するだろう。

「ソルジさん!!」
 
 バチチッ

 鉄パイプが駄犬に当たる寸前、襲いかかる男の鼻先に火花が散った。

「うわあああ!」

 鼻を焦がされた男は突然の現象に驚き、後方へ倒れ込んだ。

「「おお~」」

 駄犬達が感心するように見てくる。私は「女性を守る為だ」と短く答え、正面に向き直った。

「遠隔攻撃ずる~い。てか炎って出しちゃダメなんじゃなかったっけ?」
「今のは炎ではなく火花だ。問題ない」
「あはは、俺並みのスレスレ論じゃん」

 文句あるかと睨みつけ、襲いかかってくる男の足を払った。幻獣に襲われるのに比べれば鉄パイプなど可愛いものだが、借り物の浴衣を汚すわけにはいかない。

「さっさと片付けるぞ」
「はーい」

 妙な共闘になってしまったが私と狐ヶ崎ユウキは適度な距離を保ちつつ、的確に襲来者達を処理するのだった。



 ぱんぱん

 服についた汚れを払う。足元には動かなくなった男達が倒れており、狐ヶ崎ユウキが鉄パイプを蹴って遠くにどかしながら口を開いた。

「みんな武器持ってるからどうなるかと思ったけど案外いけましたねー」
「女性は?」
「もちろん無事です」

 目を閉じたままの女性はかすり傷一つなくすやすやと駄犬の背で眠っていた。これで解決だと言わんばかりの和やかな空気が流れ始めた時、

「アラアラ、なにこれ、大乱闘が起きてるじゃないノ」

 グレイが進行方向の草むらから現れた。

「え?!」
「なぁッ!?」

 途端に、駄犬と狐ヶ崎ユウキが顔色を悪くする。

「グレイ!なんでてめえがここにいんだよ!」
「店長さん!ライは!?ライは一緒じゃないんですか??」

 駄犬達に責め立てられたグレイは不思議そうな顔をして後方を見た。

「え?ライ?あの子なら置いてきたケド」
「「ええーー!!!」」
「そっちこそ何があったのヨ。あまりにも遅いから見に来てみたら予想通り揉め事になってるし、ソルが背負ってる女性はどちら様…って、ちょっとー!?」

 最後まで聞かず二人はグレイの横を走り抜け、森の切れ目へと向かった。私もグレイと顔を見合わせた後、奴らの背中を追いかけた。

 ガササッ

 石畳の道に出る。外灯に照らされていた道には誰もいない。狐ヶ崎ユウキがキョロキョロと見回し「そんな…」と溢してる。

「ど、どうしよう!ライが攫われた…!!」
「クソが!ライのスマホのGPSで追うしか…って反応ねえってどういう事だ!またぶっ壊されたのか!!」
「あ、ごめん、アプリ俺が消しちゃった」
「てめええええッ!緊急の方はPCねえと使えねえんだぞ!」
「だって~~!」

「ちょっとあんたタチ、一体これはどういう事?」

 追いかけてきたグレイもライが消えているのに気づいたのか、表情が見るからに強張っていた。

「ライが攫われたって聞こえたのだけど、誰に攫われたって言うのヨ?その口ぶり…何か知ってるんデショ?」
「「…」」

「桐谷という男だ」

 私が代わりに答えると、狐ヶ崎ユウキと駄犬が弾かれたように顔を上げる。グレイは眉を寄せ「桐谷…?どこかで聞いた名前ネ…」と記憶を巡らしていた。

「桐谷の事、気付いてたんですか…?」

 狐ヶ崎ユウキが見るからに動揺した顔で尋ねてくる。

「ああ、少し前からな」
「…!」
「パトロール班で桐谷がとある男を探しまわっているという話を耳にした。その時は、探し人の特徴を聞き…似ているなと思う程度だったが、ここ数日ライが思い詰めた顔で知らぬ男の匂いをつけて帰ってくるのを見て、確信になった」
「よく、問い詰めなかったですね…」

 狐ヶ崎ユウキが意外そうに言う。私は石畳の道を撫で、そこに落ちていた銀色の鈴を拾い上げ、掌の上でシャランと鳴らした。

「私は…無力だ。狐ヶ崎やグレイの保護下にいなければライとの日々を守る事もできない、情けない男だ。それは私が一番わかっている。…いや、この数日でわからされた所だ」
「…」
「そんな私が今ライの為にできる事は…一つだ」

 “ちゃんとやるから、だから…終わったらデートしよう”

 ライは葛藤しつつもそう言った。一人でやりたいと。それなら私は、

「…私は待つだけだ」
「待つって、冗談でしょ!」

 狐ヶ崎ユウキが珍しく取り乱した様子で胸ぐらを掴んでくる。

「そりゃ俺だって、ライの面子の為にも、トラウマを克服する為にも…黙って見守るのが一番と思ったけど…、桐谷に攫われた以上フェーズが違う!待つとか…そんな、悠長な事を言ってる場合じゃない!!今すぐ助けに行くべきだ!」
「私はライを信じている」
「何言って…!」
「ライの強さも、ライが…私達に助けを求めてくれるだろうという事も…信じている」
「!!」

 私の言葉を聞いた狐ヶ崎ユウキが恐る恐る手を離す。

「だからこそ、」

 自由になった私は駄犬に向き直った。ここまで固唾を呑んで見守っていた駄犬は私と目が合うと表情を引き締めた。

「駄犬、…いやソルジ、お前に頼みがある」

 私に初めて名を呼ばれた男は、数秒の間の後、ニヤリと笑って見せるのだった。


 ***
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