ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十話

★人隠し

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 シャラン、シャラン

 鈴の音が遠くで響いている。心地良いはずの鈴の音も繰り返し鳴り続ければ耳鳴りのように不快になってきて、微睡に落ちていた意識がゆっくりと浮上する。

「…う、…?」

 重い瞼を開けると、何本もの柱…檻が見えた。檻の先には蝋燭が置かれていて、唯一の光源として心細く壁を照らしていた。

「ここは…」

 目を凝らしながら周囲を確認する。檻がある面以外は全てコンクリートの壁に覆われていた。窓もなく、八畳程度の広さ。床部分には何人か若い男が寝かされていて、服装は私服の者もいれば浴衣の者もいる。
 (あ、俺と同じ柄の…)
 トンボの柄の浴衣を着た男を見つけて、あれ、と思った。

「お、おい、あんた…」

 軽く揺さぶってみるが、男に起きる気配はなく、まるで死んでいるようで…

「眠ってるだけなんで安心してください」
「!!」

 慌てて振り向くと、檻の向こうに鳴海が立っていた。祭りの衣装のままだから迫力があるのかと思ったがどうにも様子がおかしい。いつもの軽薄な雰囲気は皆無で、まるで別人のようだ。

「鳴海…これは、一体…」

 言葉の途中で思い出す。気を失う直前の記憶。あの時俺はグレイを見送り一人になった。不気味だと思ってると草むらが揺れて、

 ガササ

 “あんたは…!鳴海??”

 鳴海が飛び出してきたのだ。どうしたんだと問いかけようとした時、鳴海の手に握られていた神楽鈴がシャランと鳴って、

 (そこから先の記憶がない…)

「ここは神隠しで“消えた"人達を一時的に寝かせる場所です。普段こんなに人が並ぶことはないんですけど…今回はライさんを誘い出すためにたくさん神隠しを起こしたので、満員状態になってます」
「俺を誘い出す…?てか神隠しを起こしたって…」
「…鈴凪の神様は寂しがりでよく神隠しを起こすなんて言われていますが…それは間違いです。実際は俺達神主が生贄を捧げる為に神隠し…いえ“人隠し”を行っているんです」
「人隠し…??」

 鳴海は手に持っていた神楽鈴を思い詰めたような顔で見つめ、

 シャラン

 腕を払うようにして鋭く慣らす。社務所でマラカスのように振っていた時とは違う透き通るような音が耳に届くと
 (あ、れ…)
 意識が虚ろになっていく。

「この神楽鈴は鈴凪神社に代々引き継がれる“人隠し"専用の祭具です。この音を聞いた人は催眠状態になり、言うことを聞かせられるようになります。牢屋の人達みたいに静かに眠り続けさせる事や、このように、…“ライさん、こっちに来てください"」

 鳴海の声が聞こえる。俺の足はすぐに力が込められ、立ち上がると、鳴海が開けた檻の隙間から外に出た。

「…ある程度行動をコントロールできます。ライさん、手を後ろに回してください」

 言われるまま両手を背中側に回せば…後ろ手に縄がかけられた。

「“人隠し"の話をする前に鈴凪神社について話しましょう。かつて、数百年前の鈴凪神社では“参拝者の気絶"が続出していました」

 鳴海が何かを言っている。だがぼんやりとした意識の俺にとっては“鳴海の口が動いている”としかわからなかった。抑揚の少ない滑らかな話し方なのが余計耳に残らない。

「何故参拝者が気絶するのか。ばっちゃん達古い人は鈴凪の神様が参拝者を驚かせて卒倒させた…という説を信じてますが、神社に残る文献を読む限り自然ガスによる眩暈・転倒説が濃厚だと思ってます。…ああ、ライさん、足元に気を付けてついてきてください」

 鳴海の指示で階段を上がっていく。階段は古い木製のもので踏む度にミシッミシッと鳴った。

「原因はともあれ“神社に行くと気絶する”なんて騒がれても困りますから、当時の神主は色々試したそうです。神社内に鈴をたくさんつけて神様の声を聞こえにくくしたり、不審者の噂を流して参拝の滞在時間を減らしたり…それでも状況は変わらず、最終手段として、神様を鎮める為の生贄を用意する事にしました。そうして始まったのが“人隠し”です」
「…」
「“人隠し"…つまり参拝者に催眠をかけてここに連れてくるわけですが、“隠された”人達に不利益のないよう、神主はしっかり世話をしますし、帰す時も変な記憶が残らないように催眠をかけてから元の位置に戻します。ただご本人に違和感がなくても、生贄の祈祷が完了するまでの数日間“隠された”人達は現世では姿を消す事になるので、外から見れば“神隠し"のようになり…色々な噂が広がってしまったというわけです。もちろん、現代ではこんな事許されないのでばっちゃんの代からは外部の人にお願いして参加してもらう形になってますが」
「…」
「長くなりましたが、今日はその生贄の祈祷をライさんにやってもらいます。終わるので安心してください。…さあ、着きました。ここが本殿です」

 本殿は参拝者が立ち入る拝殿とは違って豪華な装飾があるわけでもなく、四方を木の壁に覆われただけの簡素な空間だった。俺達が出てきた地下からの入り口以外にも正面側に扉があり(閉じられている)、その扉に対面する壁側には1m程度の長さの木の箱が置かれている。箱の手前には成人男性一人が余裕で寝られる大きさの白い布が敷かれていた。

「ライさん、こちらで横になってください」

 鳴海が白い布を指さす。俺は鳴海の指示通り横になった。

「お、やってるやってる」

 ガタンという大きな音と共に正面の扉が開かれ男が入ってくる。

「よう、雷クン、生贄にされた気分はどうだ?」

 視界の端から桐谷が覗き込んできた。

「桐谷さん、話しかけても無駄ですよ。ほとんど思考が止まった状態なので…良くて“聞こえてる"程度です」
「いやぁ、ほんとすげえよなコレ。催眠だったか?神主は皆やれるもんなのか?」
「大抵は意識をぼんやりさせる程度です。それでも“人隠し”は行えるので問題はなかったみたいですが…俺のように特別深い催眠状態に導けるのは稀だとばっちゃんが言ってました」
「はぁ~何やらせてもダメなお前が催眠に関してはエリートってわけか。これで新しい商売でも始めりゃ一儲けできるだろうに」
「神楽鈴は神聖な祭具です。金儲けの道具になんて使えません」
「ははっ、今から全然神聖じゃない使い方をする癖に何言ってんだか」
「…」

 桐谷の言葉に鳴海の表情が曇る。

「まあいい。時間がもったいねえ。さっさと始めろ」

 桐谷の合図で鳴海が俺の横に腰を下ろす。正座の姿勢で何かお経のようなものを唱え始めた。同時に、再び桐谷が視界に入ってくる。

「この時を待ってたぜ、やっとお前の番が来たなぁ…雷クン」

 桐谷は白い布に膝をつき俺の体に覆い被さったと思えばスルスルと浴衣の帯を抜きとっていく。

「祈祷の間の生贄は白い布から出なきゃいいらしくてな、時々こうやって祈祷にさせてもらってるんだわ。儀式中は部外者は立ち入り禁止。社の本殿だからそもそも誰も気づかねえが…見張りが多くてなかなか捕まえられねえお前にはおあつらえ向きの儀式だろ?」

 帯が抜けると、浴衣は自然と前を開けていく。その隙間から桐谷の掌が入ってきた。少し汗ばんだ掌の感触にぞわっと鳥肌が立つ。

「引き離す為にわざわざ屋台チームに入れたってのに、それでもしつこく張り付いてきやがってよ…、こんなデカイ男のケツ追っかけ回して奴らは暇なのか?」

 苛立ちをぶつけるようにぐいっと乱暴な仕草で浴衣を剥ぎとられた。神聖な場所で脱がされる罪悪感にぶるっと寒気がした。桐谷は冷や汗をかく俺の肌には触れず、下着を脱がせ、ローションを塗り付けた指を雑な手つきで後ろに入れてくる。

 グチュッ

「…っ」
「はは、流石に指入れられたら反応するか」

 身じろいだ俺の顔を覗き込み笑う。
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