ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十一話

狼との約束

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「んもー!起きたら地下はもぬけの殻だし、スマホも置いたままで一体どうしちゃったのかと思えば、なんで消防署のお世話になってんのヨーー!!びっくりしすぎて寿命縮むかと思ったワ!!!」

 グレイが消防署の入り口で待っていた。珍しくノーメイクでかなり焦って駆け付けてくれたのがわかる。背後にはいつぞやお世話になったワゴン車が停められており(メデューサの一件で最後の回収に使ったやつ)、俺とソルが揃うと「さ!早く帰るワヨ!」とぐいぐい背中を押してくる。車で迎えにきたのは“ソルが狼化してても運べるように"という事だろう。

「シートベルトしてネー…ってチョット!あんたその首輪ナニ?!」
「アア?毒入りの首輪だってよ」
「はあ~~~????!」
「グレイ…それは帰ったら説明するから、前みてくれ」

 俺がやんわりと指摘すると、我に返ったグレイが今度こそ車を発進させた。そのまま俺達はグレイの安全運転(※エンドレス説教付き)で店に戻ったのだが開店時間が迫ってる事もあって詳しい話はまた後程となった。



 チリリーン

 最後の客が退店し「閉店」の看板をかけに行く。店内は俺とグレイだけになり、いつものように締め作業を進めていると、廊下の奥からペタペタと近づいてくる足音がした。

「よう、終わったかぁ?」

 のっそりと姿を現したソルの頭には再び銀色の耳が生えていた。腰には尻尾もある。一瞬ヒヤっとしたが、耳と尻尾が生えた程度では首輪は破壊されないし、何より意識もソルのままなので今すぐ毒薬が打ち込まれる心配はなさそうだ。
 (完全体になるか、意識が狼と入れ替わって暴れだすとアウトって感じか…)
 俺の視線につられてソルが狼耳をぐいぐいと引っ張った。

「さっきまでは生えてなかったんだけどよぉ。店の鈴が聞こえた途端、狼の野郎が急にそわそわしだしてこのザマだ」
「店の鈴…?てか、そわそわって大丈夫なのか…」
「わっかんね。変に暴れる感じはねえけど、居ても立ってもいられねえから仕方なくこっちに来てやった」
「…眠気は?」
「ねえぜ。昨日寝れてるおかげでスッキリしてるぐらいだわ」
「…」

 昨日のバードショーでも狼化してたし、眠気以外で狼化するのが普通になってきてる。
 (よくない兆候だ…)
 人間界で生きるには狼化のコントロールが必須だ。その為にも狼化のトリガーをあぶり出さなくてはいけないが…今の所狼の行動は派手になる一方で、法則性は全くと言っていいほど見えてこない。

 トン

 考え込んでると、ソルが俺の正面のカウンター席に両手をついてくる。

「なあライ。それよりよぉ、なんか狼の野郎がてめえに会いたがってんだけど…心当たりねえ?」
「え、俺に?」
「おう。こっちに来たのもそれが理由でさ、アピールがすげえの。うるさくてたまんねえしどうにかしてくれや」
「いやどうにかって言われてもな…」

 見れば、尻尾が落ち着かない様子で頻りに揺れていた。

 (待てよ…俺に会いたがってるってまさか…)


 “店に戻ったらボールでもなんでも相手してやるから…今は俺の言う事を聞いてくれないか”


 昼間した約束を思い出す。もしあれを狼が覚えていて、それに期待してそわそわしているのであれば、客の退店を告げる店の鈴に反応したのも納得がいく。

「その顔、心当たりがあるんだなぁ??」
「もしかしたら…ってレベルだけど、俺と遊びたいのかも…」
「てめえと遊ぶだぁ??」

 すぐに俺は公園でのやり取りを説明した。ソルはもちろんのこと、横で聞いていたグレイも目を見開いて驚いている。

「マジかよ…」
「ライの言葉をだけで狼化が解けたノ…?」
「ああ、信じられないと思うけど、実は前にも同じようにソルの狼化を解いた事があってさ」
「「!!」」

 猟師の件で無実の証明をしていたソルが、最後の最後で脱走し、狼化してしまった時。あの時も俺が必死に説得したら一時的に狼化が解けたのだ。

「血を舐めさせたり、接触する事もなく…話してるだけで狼化が解けたんだ」
「それってつまり…ライの言葉が通じてるってコト…?」
「多分…?」
「てんめえええッ!んな大事な話!!なんでもっと早く言わねえんだよッ!!」
「ごめん…昼間の狼化が解けてく姿を見るまではそんな事があったのも忘れてた…」
「うっかりさんかよぉおおッ!!」
「まあまあソル落ち着いて。これはすごい発見ヨ。言葉が通じるなら狼との関係は一気に構築しやすくなるし、不眠も解決できるカモ…。不思議なのは“ライだけが説得に成功してる”って点ネ。もしかしたら狼に届いてるのは“言葉”じゃなくて何か別のものなのかもしれないワ…」
「別のものってなんだよ、お人好し魂かぁ??」
「ふふ、ここは定番に“愛"ジャナイ?」
「「愛…」」

 ソルと半目で睨み合う。

「ねえな」
「ねえよ…」

 ソル相手に愛を抱いた事はない。ソルもそれはわかってるのか同じような反応をしていた。お揃いの反応にグレイが「そうよネ~」と苦笑いを浮かべる。

「って、やべえ…そろそろ、狼の野郎が…暴れだしそ…」

 ソルが歯を食いしばりながら唸った。爪や歯も尖ってきており、このまま狼化が進めば首輪に異常を感知されてしまう。

「いっ!急いで裏庭に行こう!」
「そうネ!!」

 三人でバタバタと裏庭に移動する。

「この中に…、あったあった」

 裏庭の隅にある道具入れを開けて、客の忘れ物と思われる野球ボールを手に取った。背後にいたソルがギョッとする。

「おいっ!まさかそれ使う気かッ?!遊ぶってゲームじゃダメなのかよ?!」
「昼間、すげえボールで遊びたそうにしてたからさ。これが一番喜ぶと思うんだ。じゃ、投げるぞ」
「ちょっ待ちやがれッ!オレは野球なんてッ」
「よーし、とってこーい」
「聞けええッ!!!って遊び方そっちかよぉおおッ」

 文句を垂れるソルを無視して、ぽいっと軽めに投げた。ソルは舌打ちしつつ俺に背を向け小走りで拾いに行く。裏庭の端まで転がったボールに追いつくと、ソルはそれを手で拾いあげ――るのではなく、口に咥えた。

 ぱく、とてとて

 そのままソルは不安定な二足歩行で戻ってきて、俺の前に座り込む。

「あんた…狼だな」

 ワウッ!!

 俺の呼びかけに狼は元気よく応えてくる。吠えた拍子にボールがこぼれ落ちてしまい、狼は慌てて口で咥え直した。そしてもう一度、と言うように俺の手に押し付けてくる。

「…わかったよ。ほら!」

 ボールを投げてやれば狼は喜んで走って行った。それから俺達は投げては受け取りを延々と繰り返した。



 三十分後…

「ぜえ、ぜえっ、アアァ!死ぬッ!!ゼエッ、もうっいいっ!もう奴は満足したッ!!ゼエッ!!投げんなッゲホゲホッ」

 ソルが裏庭で大の字になって倒れていた。ボール遊びを堪能した事で狼は満足してくれたのか意識をソルに戻していた。耳と尻尾も引っ込んでいる。しかし肝心のソルは散々走り回った体に急にバトンタッチされた為「クソッタレッ!!」と不満たらたらに叫んでいる。

「なんで狼の野郎の為にオレが走り回らねえといけねぇんだッ!!」
「体を共有してるから仕方ないだろ」
「ソーヨ。運動不足解消になっていいじゃないノ」
「どう考えてものレベルじゃねえだろッ!!シャトルランの後半みてえな全力疾走をずっとさせられて…っ!うえっ、吐きそ…ッ」


「…これは一体どんな状況だ?」


 そこでフィンが裏庭に入ってきた。

「フィン!おかえり」
「ただいま…ライ、駄犬と一緒に消防署に連れていかれたと聞いたが大丈夫だったか」
「ああ、今のところは平気だけど、ちょっと厄介な事になってて…。その辺りはこの後話すよ」

 フィンと軽く頷き合ってからソルの方に向き直る。いまだに突っ伏したままのソルは泥だらけで、なかなかに悲惨な状況である。
 (狼がやりたいように動いていたし仕方ないか…)

「ソル、あんたシャワー行ってこねえと部屋で休めねえぞ」
「わーってるわ!…クソッ」

 ソルは威勢よく吠えてから、ゾンビのような足取りでよろよろと店内に消えていく。その様子をグレイが苦笑を浮かべながら見送り、

「さ、ソルが出てくるまでの間、お互いの報告をしましょうカ」

 扉を開けて俺達を招き入れた。
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