ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十一話

動物園の妖精さん

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「それでソルに首輪がついてたわけネ…」

 店内に戻り今日あった事を話していくと、グレイは“消防”という言葉に表情を曇らせた。

「よりにもよって狼と上手くいってないタイミングで消防に目を付けられちゃうなんて…参っちゃうワ…」
「やっぱ消防は幻獣あんたらの中でも厄介な存在なのか?」
「ええ、幻獣専門の部隊が作られているのは有名な話ヨ。野良猫にとっての保健所と同じ、幻獣あたしたちが一番近寄っちゃいけない存在。まだヤクザの方がお金を受け取ってくれるから可愛いもんだワ」
「金か…」

 確かに仕事中のセツを見てると金銭では懐柔できないだろうなと思った。

「彼らに捕らえられた幻獣はほとんど戻って来ないし、首輪付きとはいえ返してもらえるのはかなり優遇されてるワ。問題は、この待遇をどう生かすかヨ。狼が暴れたら何もかもパーになっちゃうし、消防側も尻尾を出させる為にあえて自由にさせたんだと思うから…、なんとかして調査期間を“異常ナシ”でやり過ごさないとネ」
「だな…とりあえず監視体制を強めるか?」
「そうしまショ。あたし達三人のうちの誰かしらが傍にいれば狼化しきる前に抑えつけられるはず」
「って事は交代制か。担当はどうする?」
「あたしが起きてる間は任せてチョーダイ。あんた達にはそれ以外の時間をお願いできるカシラ」
「グレイの就寝中を俺とフィンで?それじゃあんたの負担が重くないか?」
「大丈夫。少し寝る時間をズラせば他はいつもと何も変わらないワ。営業中は廊下にでもお座りさせとくし。…代わりと言ってはあれだけど、つじつま合わせの方をお願いできル?」
「それはもちろん」

 俺とフィンが頷くとグレイはホッと表情を緩ませた。

「ふふ、アリガト。流石にそっちまでは手が回らないから助かるワ。じゃ、ちょうどその話になったし、フィンの今抱えてる案件について報告してもらおうカシラ」
「!…そういや昨日聞き忘れてた。フィンは何を追ってんだ?」

 フィンがスマホで共有フォルダを開き“動物園の妖精さん”と書かれたメールを見せてくる。

「動物園の妖精さん…やけにファンシーな…」
「ああ。だが内容はそこまで可愛くないぞ。昨日の夕方、動物園に住み着いた何者かがトラブルを起こしていると連絡があって、手が空いていた私が調査する事になった。到着早々ライ達と合流してしまって昨日は何もできなかったが今日は徹底的に調べた。おかげである程度意見がまとまった」
「流石ネ。で、どう?幻獣は関わってそウ?」
「ああ、確実に園内にはだろう。痕跡がいくつも残っていたしスタッフもそれらしき目撃情報を口にしていた。ただ、厄介な事に、気配は感じ取れるのに接触は一切できなかった。まるで雲を掴むように逃げられる」
「気配は感じるのに接触できない…妖精の人払いが起きてるってコト?」
「おそらくな」
「ん?人払いってなんだ?」

 俺が首を傾げると、グレイが「リリイの店を思い出してみて」とウィンクしてきた。

「あそこの店は招かれた者しか入れないデショ?あれは、リリイが人払いをしてるからヨ。人払いのやり方は色々あるのだけど、妖精がそれぞれの方法で自分の棲み処や大事な場所を隠す事を人払いというノ」
「こんなデジタル化が進んだ世界でも隠せるものなのか?」
「案外機械と魔法は相性イイのヨ。それよりも生身の人間の方がエラーを起こすからやりにくいワ。才能なのか、妖精との相性なのか、人払いの隙間をくぐり抜けて進めちゃう人が稀にいて、そういう愚痴をよくリリイから聞かされるモノ」

 精密機械より人間の方がやりにくいなんて意外だ。だからリリイは人間を警戒(嫌悪?)するのだろうか。

「チンパンジーの柵を破壊した犯人も捕まってないみたいだし、もしその妖精のせいだとしたら…注意してあげないとネ。消防に捕まったら処分されちゃうワ。明日リリイに連絡してみるから少し待機していて」
「了解した」

 ぺたぺた

 そこで、廊下から不機嫌なオーラを背負ったソルが現れた。びしょびしょの頭には、消えたはずの狼耳がまたまた生えている。
 (もう通常装備みたいになってんな…)
 呆れる俺達の視線に更に顔をブスッとさせたソルは、元気に揺れる尻尾を指さしながら「オレのせいじゃねえからなっ!」と叫んだ。

「洗ってたら勝手に生えやがったんだ!」
「はいはい、わかってるワヨ。そろそろ眠くなる時間だしトリガーが緩くなってるんでしょうネ」
「ケッ!」
「でも狼化してるなら好都合だワ。最後にあたしの報告…というか収穫?を持ってくるから、ここで待っててチョーダイ」

 グレイは一瞬廊下に消えて、保冷バッグを手に持って戻ってきた。

「それは?」
「ふふ、血液ヨ」
「!!」

 保冷バッグから透明のビニールに包まれたを取り出し妖艶に微笑む。

「昨日話してたデショ?血液で狼化が解けるかもって…これでその疑問をハッキリさせまショ」

 グレイは当然のように食器棚からマグカップを取り出し、そこになみなみと赤い液体を注いでいく。俺とソルがドン引きしてるのに対して、グレイとフィンは嫌悪感を全く感じないらしく、いっそ恍惚としながらその赤色を眺めていた。これが生粋の幻獣との血液の捉え方の違いか…なんて驚いてるとグレイが安心させるようにニコリと笑みを浮かべた。

「安心して、エスコット財団の人から譲り受けたものだから品質もルートも折り紙付きヨ。さあ、ソル。飲んでミテ」

 まるでコーヒーを渡すかのような気安さで「はい、どうぞ」と手渡され、ソルは顔を真っ青にした。

「こんなん飲めるわけねえだろッ!オレをなんだと思って…ッ、うえっ、鉄臭ッ……吸血鬼じゃねえんだぞ!!うっ、血なんて飲めるかぁッ!」

 人間としては真っ当な反応を見せるソル。昨日俺の血を喜んで舐めていたのは本当に狼の衝動だったらしい。それにホッとするのと同時に俺は同情した。いくら必要な事だとわかってても、どこの誰のものかも知らない他者の血を口にするのはなかなかに勇気がいるだろう。

「もう、ワガママ言わないで。これで狼化が解けるなら大きな進歩になるし、今後、狼を抑え込むのも格段に楽になるジャナイ」
「でもよぉ…もうちょっと別の方法はねえのかよッ?!」
「昨日と同じ状況を再現するには経口摂取しかないデショ。あんたの為にわざわざ苦労してもらってきたのヨ?無駄にしたら血液の提供者にも申し訳ないし、せめてひと舐めくらいはしてチョーダイ」
「そ、それはわかってるがよぉ…うぐっ、無理なものは無理ッ!」
「ハーイ、うだうだ言う悪い子は口開けなさ~い」
「ンむぐぐ?!」

 グレイの馬鹿力で口をこじ開けられ、無理やり喉に流し込まれるソル。俺は心の中で合掌した。南無三。

「ううえええッ!鉄ッ…まっずぅ!!死ぬッ…はぁ、吐きそう…うえっ」
「もう~大袈裟ネ~」

 グレイがマグカップに残った血を飲み干しながら笑う。

「こんなに美味しいのに~」

 インキュバスは人間の体液からも生気を得るらしいし、グレイにとって血液はのようだ。俺は無意識に横に座っていたフィンに身を寄せた。

「ふむ、狼化が解ける様子はなさそうだな」

 フィンの指摘で視線を移せば、ソルの狼耳と尻尾は生えたままだった。

「…そうみたいネ。という事は昨日の狼化が解けた要因って…つまり、」
「「「…」」」

 全員押し黙る。


「ケホッ…あー、もう…このまま試しちまおうぜ」


 シィンと静かになった店内にソルの声が響いた。流しで口をゆすいでいたソルは、その縁に両手を置きながらジッと俺の方を見つめてくる。

「ソル、」
「前言ったろ。色々ダメだったら添い寝を試させてくれって。ちょうど寝る時間だし、てめえで狼がイイ子になるのかハッキリさせようや」

 ソルは濡れた口を手の甲で拭いながらニヤリと笑った。
 
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