ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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一話

買い出し

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 翌日、俺はあまり眠れないまま朝を迎えた。

 (…7時か)

 部屋にかけられた時計を確認する。昨晩は「今日はもう寝なさい、あんたの酷い顔見せたらお客さん帰っちゃうわヨ」とグレイに無理やり控室に押し込まれた。だがいくら寝付く時間が遅くても不思議といつもの時間に目が覚めてしまうもので。

「…はあ」

 周りを確認する。無駄に大きいロッカーと固いベッド、ボロくなったソファ、冷蔵庫がポツンと置かれてる。壁にはアイドルのポスターがびっしりと張られておりやけに壁だけうるさい。
 (グレイの趣味か…?)
 ぼーっと部屋を見回してると

「起きたのか?ライ」
「うわ!!」

 フィンがベッドの横から顔を出した。どうやら床に寝ていたらしい。頭に少し埃がついている。

「また悪夢をみたらいけないからな、すぐ起こせるようにここで寝させてもらった」
「悪い、大丈夫だ…」

 ほとんど眠れてないから悪夢も何もない。

「ライ、お腹はすいてないか?何か食べれそうならグレイがサンドイッチを用意してくれたぞ」

 手作りなのか歪な形のサンドイッチを差し出される。しかしそれを見ても空腹は感じず、胃も口も受け付けそうにない。頭を横に振った。申し訳ない、と謝るとフィンが肩を落とした。

「そうか…顔色もよくないし、何か口にしてほしいんだが…無理はよくない。何か栄養のある飲み物がないか聞いてみる。少し待っててくれ」

 フィンが狭い店のなかを器用に走っていく。俺はその後ろ姿を見届けたあと、ため息をついた。
 (これからどうするか…)
 昨日は奇跡的にグレイの厚意を受けられたが、依然として絶望的な状況に変わりはない。身分証もリュックにいれたままどこかへ行ってしまったし、履歴書を書こうにも住所がなければバイトすら受けられない。グレイはこの世界じゃ一文無しは珍しくないと言っていたが、このままでは本当にホームレスになってしまう。

「なによ!栄養っていったら酒デショ?酒飲ましとけば治るワヨー!」
「馬鹿言わないでくれ!極限の空腹状態で酒なんて口にしたら倒れてしまう!ライを殺す気か!!」
「おバカはそっちヨ!スナックのママに、栄養のある飲み物ください、なんて言ったら酒出されるに決まってるでしょーが!!」

 (またやっている…)
 あの二人、昨日知り合ったわりにやけに仲がいい。相性の問題だろうか。お互い普通の人間からはかけ離れたミステリアスな要素がある。馬が合うんだろう。俺は二人の事が掴めなくていまいち距離感に困ってる分、ちょっと羨ましかった。
 (性格もだけど、やってる事もヤベえんだよな…)
 夢を操る灰色の霧に木箱から燃えながら現れた男。嘘だと言ってほしいがどちらもこの目で決定的なシーンを見てしまっている。いっそ悪夢、もしくはストレスで気が触れて幻覚が見えていると言われた方が信じられるかもしれない。

「はぁあ…」

 俺は深いため息をつき、体を起こした。ベッドから出る。廊下を進み、二人のいるカウンターに顔を出した。

「水、もらってもいいか」
「ライ!動いて平気なのか?」
「そんな病人扱いしなくて大丈夫だって、っと」
「ほら、フラフラじゃないか」
「悪い…」

 立ってるだけでクラクラと眩暈がする。しかしそれよりも喉の乾きの方が酷かった。フィンから水を受けとり飲み干す。

「あんた、そのまま食べなかったら死ぬわヨ?」

 ナイトキャップをかぶったグレイが顔をしかめながら忠告してくる。どうやらグレイはこれから寝るらしい。

「ああ、わかってる…」

 いっそこのまま死ねたらと何度考えたか。このまま飢え死にできるならそれでもいいかもしれない。真人がいない世界は酷く孤独を感じる。目の前にグレイとフィンがいても俺にとっては誰もいないのと同じだった。

「「…」」

 俺の様子に二人が顔を見合わせた。フィンが跪いて「お願いだ」と乞うてくる。

「お願いだから生きてくれ、ライ。私にはあなたが必要なんだ…!」
「そう、言われても…」
「はいはい。悲劇のヒロイン…ヒーローになってるところ悪いけどこっちはボランティアじゃないのヨ」

 グレイがあくびを噛み殺しながらメモを渡してくる。

「ここにかかれたものを買ってきてチョーダイ」
「調味料やシロップ…これが一宿一飯の礼になるのか?」
「足らないから帰ってきたらまた雑用をお願いするわよ、じゃ、いってらっしゃ~い。あ、帰ってきても14時ぐらいまでは起こさないでよ」

 そういってグレイは廊下に姿を消した。



 外に出ると歓楽街が朝日を浴びて健全な町に戻っていた。サラリーマンが足早に駅に向かっていく姿が見える。

「まずはどれから行こうか、ライ」
「…あんたもついてくるのか?」
「もちろん!途中でライが倒れたら運ぶ人が必要だろう?」
「そこまで死にかけてるつもりはないが…」

 追い返す気力もない。仕方ない、一緒に回るか。

「まずは酒屋…いや、スーパーか」

 近くのスーパーに行くと夜職っぽい男女の客が多かった。こういう所は歓楽街の空気を少し感じる。野菜コーナーを過ぎて調味料コーナーに移動した。買い出しメモを見ながら目的のものを探す。

「ライ、辛いものは好きか?」
「ああ」
「苦いものは?」
「食える」
「香りが強いものも?」
「問題ない」
「では好きなものは?」
「…」
「ライ…ライは好き嫌いがないというか…好きも嫌いもないのか?食えればいいと?」
「そういうわけじゃ、ないと思うが…」

 フィンが少し怒ったような様子で詰め寄ってくる。あまりにも食への興味が薄い俺に呆れているようだ。もしかして…今の俺でも食べられそうなものを探ってくれたのだろうか。

「いいか、ライ。食べることは生存の基本だ!食は命!食べる事で生存が守られ、人生が彩られるんだ」
「わかってる…ただ、昔、食べ物を選べるほど恵まれてなかったから、大体何でも食うし好き嫌いもしない体になってんだよ」
「…ライ…」

 同情するような顔をされた。そういえばフィンがいつの間にか服を着ていたことに気づく。フィンはやっと気づいたのかと呆れている。

「昨日の夜“見苦しいし客に逃げられるから”とグレイに借してもらったんだ。前にいた居候が使っていたものだと言われたがなかなか斬新なデザインだろう」

 キャラもののTシャツにジーンズという、一歩間違えたらガチオタクになる服装もフィンが着るとオシャレに見えるから不思議だ。

「どうだ、いいだろう!」
「ああ、似合ってる」

 服を着ているフィンは怪しさが抜けて純粋に格好良かった。裸で現れたときはヤバい奴にしか見えなかったが、今目の前で立っている姿はモデルのように格好いい。オレンジの瞳に白金色プラチナブロンドの髪、グレイと並ぶと気づけなかったが190センチは余裕で越える抜群のスタイル。筋肉も程よくついており、そこら辺のマダムがみたら卒倒しそうな人外の美しさがあった。

「さあ、食べたいものがあればかごにいれるんだぞ。私はライの好きそうなものがないか探してくるから、何かあれば声をかけてくれ」
「んなのいい…ってもういねえし」

 フィンは俺の食べれるものがないかスーパーを一周するつもりらしい。どうしてそんなにしてくれるのか不思議で仕方ない。
 (ホスト集団から助けたのがそんなに嬉しかったのか?)
 あのガタイであればそこらのホストの一人や二人簡単に蹴り飛ばせそうだが。まあ木箱につめられてたらどうしようもないか。
 (そもそもなんで木箱なんかに入れられてたんだか…)
 まったく、謎が多い男だ。



「買い出しはこれで終わりだな、ライ」

 二時間ほどで全ての買い出しが完了した。メモと買い物袋の中身をもう一度確認する。問題ない。

「ああ、これで戻れる」
「店に戻る前に少し散歩しないか?どうせ14時まではグレイも起きてこないんだろう」
「そうだけど…」

 男二人で散歩して楽しいか?と顔で訴える。フィンはワクワクと体を弾ませていた。どうやら楽しいらしい。俺は諦めて付き合うことにした。スナックのカウンターでぼーっとしてるよりは外で散歩している方が有意義な気がする。
 (まあ、どうせ暇だしな)
 歓楽街を抜けて少し空き地が増えてくると、無駄に広い公園を見つけた。遊具はなく中央にサッカーができそうな空き地があり、周りを囲むように木々が生えている。「竜水公園」と入り口の石に刻まれていた。俺たちはそこを一周するように歩くことにする。フィンが気持ち良さそうに深呼吸した。

「はあ~~最高だ!朝にこうやって散歩するなんて久しぶりだよ」
「夜型の生活だったのか?」
「夜型というか…閉じ込められててね。自由がなかったんだ」

 木箱につめられる前から窮屈な思いをしていたのか。踏み込んでいいのかわからずそれ以上聞けずにいるとフィンから話し出した。

「昨日言った通り私は炎を操る幻獣だ。その能力以外にも色々できることはあるが人間にとってそれらの能力は喉から手が出るほど欲しいものらしい。人間に捕まってからというもの延々と利用され続けた」
「…大変、だったんだな」
「ライのおかげでそのループから抜け出せたんだ。これほど嬉しいことはないよ」

 眩しいほどの笑顔を向けられる。何故か胸が傷んだ。

「ライは私のナイトだ」
「恥ずかしいからそれやめてくれ…」
「ふふ、ではもう少しライの事を教えてくれないか?今の私にとってはナイトである以外にライの情報がないのだ」
「ぐ…」

 うまい返しだ。俺はため息まじりにこれまでの経緯を話した。フィンは時々堪えるように拳を強く握りしめ静かに聞いていた。だが聞き終わると同時に腕を広げ信じられない、と叫んだ。

「なんだその男は!人の恋人を奪うだけでなく、ライの地位・尊厳すら踏みにじるなんて…恥を知れ!」
「馬鹿、静かにしろって」

 犬の散歩をさせてるマダムたちが俺たちを避けるようにUターンしていく。すみませんと頭を下げた。

「こんな話を聞いて怒らずにいれるか!よくライは落ち着いていられるな!!その恋人も恋人だ!何故ライを信じない?ライを助けない!」
「…」
「友人や家族は?身を寄せれそうな人はいないのか?」
「友人は何人かいるが無理だな。遠くに住んでるし結婚してるやつも多い。家族は…会えねえ」
「…詰みという事か」

 俺の追いやられた状況を憂い、二人して黙り込む。すると公園の中央からなにか叫び声が聞こえてきた。

「やめてくれ!やめてくれ!」

 ホームレスの男が酔っぱらいに絡まれている。

「助けてくれ…!!」

 ホームレスは頭を守るように地面に伏して助けを求めていた。だが散歩中の人々は関わらないようにそそくさと去っていく。もう俺たちしか近くにいる者はいなかった。酔っ払いの三人は周りが見えてないのかぎゃあぎゃあと笑いながら蹴り続けている。

「汚物がなんか言ってるぞ!ぎゃははっ」
「やめとけよ、足が汚れるぞ~」
「お前みたいなやつ、いてもいなくても一緒なんだよ!死ね!」

 酔っぱらい達は相当酔ってるらしい。加減をせず思いっきり蹴っていた。あのままでは本当に殺してしまう。まあ、仮にホームレスが蹴り殺されたとしても事件にはならずそのまま遺体を処理されるだけなんだろうが。
 (弱者はいつもこうだ)
 力がなければ何もできない。自分の命の選択肢すらない。
 (やってらんねえ)
 拳を握りしめた。俺の怒りに気付いたフィンが制止するように声をかける。

「ライ、やる気か?」
「あんたはそこにいてくれ。俺一人でいい」
「…しかし」

 フィンの制止を抜けて酔っぱらい達に近づく。三メートルぐらいの距離まで近付いたところでやっと俺に気付いたらしい。血走った目で睨んでくる。相当飲んでいるらしいが悪酔いもいい所だ。

「おい酔っ払い、何にイラついてんのかしんねえけど人に当たってんじゃねえよ、格好わりいな」

「ああ?なんだてめえ」
「俺らに文句あんのかよ!」
「この汚物の仲間か~?」

 雑魚らしい台詞だ。聞いてるだけで頭痛が酷くなる。

「もういい、そこのおっちゃんから離れろ」
「うううるせえ!指図すんなっ!」

 酔っ払い達が殴りかかってきた。昨晩からこんなのばっかだなと思いつつ、一人、二人と倒していく。

「こんのっ…うっわあ!?」
「どわあ!なあ!?」

 元々男たちは足元がぐらついており少し重心をずらすだけで倒れ込んでいく。こんなの子供でも避けられる。呆れながら対処し、気だるげに最後の男に視線を移した。早く来いよと手招けば

「てんめえ!!」

 最後の一人が走り込んできて、その勢いを利用して投げ飛ばす。

「ぐふううう!」

 ホームレスがぽかんと驚いた顔で見ている。酔っ払い達は受け身もとれず顔面から転んだ。砂利に擦り付けた顔が血で赤く染まっている。ぱっと見なかなかのケガに見える。

「て、ってっめえ!」

 全員倒し、誰も向かってこなくなったところで一息つく。すると、最初に倒れた一人がスマホをこちらに向けていることに気付いた。ずっとカメラが俺の方を向いている。どうやら撮られていたらしい。
 (しまった、めんどい事に…)

「よくも俺たちにこんな…!これは、暴力事件だ!うっ、ううっ訴えてやる!!」
「そっそうだそうだ!治療費請求してやる!!」
「前科者にして社会的にも殺してやる!!」

「お前らの方がおっちゃんに酷い事してただろうが」

 呆れつつ返すが酔っ払い達は一向に聞き耳を持たない。その上

「うるせえ!あんなの死んで当然なんだよ!社会のゴミが!!」
「…はあ」

 負け犬の遠吠えのようにぎゃあぎゃあ騒いでいる。自分たちを棚に上げてどの口が言うんだか。だがどれだけ男たちがおかしい事を言っていたとしても、今撮られている動画を見られれば俺の暴行動画にしか映らないだろう。
 (面倒だな。あのスマホを奪って消させるか…)
 スマホを睨み付けて次の動きを考えていると、突然スマホが燃え上がった。

 ボオオッ

「あっアヂイ!熱い!?!なんでこれ、燃えて…!うわああ!俺のスマホ!!」

 スマホを持っていた男はスマホが灰になっていくのを絶望の顔で見つめている。俺はまさかとフィンのいる後方に振り返った。フィンは口笛を吹きながらよそ見をしている。まるで私じゃありませんと言いたげだが、どう考えてもスマホがあのタイミングで突然発火するわけがない。フィンの炎だ。俺が口を開けるより先にフィンは指を鳴らした。

 パチンっ

 長い指先がはねて、火打石のように綺麗に音を鳴らす。それを合図に前方からもっと大きい悲鳴が聞こえてきた。酔っぱらいの方に視線を戻せば、彼らの全身が勢いよく燃えていた。絶句する。

「うわあああ!!」
「やめろおおお!?」
「助けてええ」

「お、おい!?!」

 炎は彼らを燃やし尽くす勢いで全身に広がっている。何も見えなくなる程に燃え盛り飲み込む赤い炎。これでは近づく事もできない。

「ひいいいい、なんだこれは!」
「おっちゃん離れて!」

 ホームレスを引っ張り炎から後退ける。首だけで振り返りフィンに訴えた。

「おい!やめろ!あのままじゃアイツら焼死するぞ!」
「ライ、もう少し離れて、調整が難しいんだ」
「調整?調整も何も燃えカスになるだけだろ!あんな派手に燃やして!!今すぐ消せ!」
「安心してくれ…私は器用な方なんだ」
「?!」

 フィンは息を浅く吐きながら前方を指さした。

「アチチチチ!うわあ!おい!水!水をかけろ!」

 酔っぱらい達が地面でジタバタと暴れている。とっくに燃えカスになり息を引き取っていると思ったが、彼らは火の消えた体をゴロゴロと転がして叫んでいた。

「うわああ!死ぬううう?…ええ…?」

 遅れて気づく。全員無傷で火傷一つおってなかった事に。俺も酔っ払い達もやっとそれに気づいて、信じられないという顔をする。
 (ありえない…)
 あれだけの炎に包まれて無事でいられるわけがない。皆ぽかんと呆けた。無傷な事と、もう一つ共通してる事があり、それは「全員服を身につけてない(※髪の毛もない)」ことだった。
 (まさか…服だけが燃えたのか…??)
 そんな器用なことありえるのか。答えを求めてフィンの方を見ると、腕を組み勝ち誇った顔をされた。

「うっ…うわああ!たすけ、助けてええ!ままあ!!」

 慌てて逃げていく酔っぱらいたち。服も髪も無くした姿で「ママ」と叫ぶ姿はなんとも哀れなものだった。あの姿で電車やタクシーに乗れるのだろうか。どちらにせよ身分証もスマホもないのだ。一度捕まって職質を受けるのは確実だろう。

「ざまあみろというやつだな」

 腰に手を当てえっへんと胸を張るフィン。俺とホームレスのおっちゃんは開いた口が塞がらないのだった。
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