ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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八話

★おやすみのキス

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「どちらにせよ今回の件でライは行く当てがなくなるのじゃ。ならこのままうちに住めばいい」

 行く当てがなくなるという言葉に我に返った。ハジメの方を見ると至って真面目な顔で「不自由はさせん」と告げられる。

「住む場所も仕事も、全て手配してやる。その様子だと何も聞かされてなかったようじゃしな、巻き込まれた被害者の世話をするのは組としても当然のこと。遠慮するな」
「待ってください…俺は…っ」

「もういいですか?」

 ずっと口を閉ざしていたユウキが笑顔のまま呟いた。大きい声でもなかったのに皆が息をひそめユウキの方を見る。狐ヶ崎も龍神組も、その場にいた全員が気圧されていた。それほど今のユウキにはひりついた“何か”が宿っていた。

「ライを引き取るのは俺も賛成です。ただ、組同士の話はまとまりましたよね。俺はまだ組に所属したわけじゃないですし、これ以上酔っ払いの長話を聞く気はありません。そろそろ失礼したいのですが」
「そうじゃな…遅くまで付き合わせて悪かった。ここから先の細かな話はこちらでやっておく。ライも連れていってやれ」
「はい、ありがとうございます」

 ハジメも今のユウキを止める事はできないと察したのかあっさりと退室を承諾する。ユウキは表情を変えぬまま立ち上がり、テーブルを回り込むように歩いて、俺の真後ろに移動した。

「ユ、ウキ…」

 振り返ると、イイ子モードのユウキと目が合った。栗色に暗い色を混ぜた怪しい瞳と数秒見つめ合う。

「ライ、行こっか」

 本当はもう少しこの場で粘るべきかもしれない。グレイ達の話を聞くべきだろうが、俺の体も限界だった。

「ああ、…そうだな」

 さっきから心臓が嫌な跳ね方をしてるし吐き気もすごい。
 (本気で体調悪いなこれ…)
 今にも倒れそうな状態に顔をしかめる。自分の体のポンコツ具合に呆れつつ足に力を込める。

「ライ?!」

 ふらっ

 前のめりに倒れかけ、慌てたユウキに支えられる。
 (ああ、やばい…気持ち悪い…)
 ユウキの焦る声を遠くに聞きながら目を瞑った。体が重い。頭痛と吐き気も酷い。ユウキの腕の中でぐったりとしたまま動けなくなった。体の次は頭の方も溶けてくる。
 (こんな所で寝てる場合じゃないのに…)
 そのまま底なし沼に沈むように意識を手放した。


 ***


 次目を開けた時、俺は離れに移動させられていた。昨日寝た部屋に布団を敷いて寝かされている。服は浴衣に変わっていて、誰かが着替えさせたらしい。ぼーっとそれらを確認していると廊下から足音が聞こえてきた。

 ぺたぺた

 顔を上げると、狐の紋が入った浴衣を着たユウキが現れる。手には水の入ったコップが握られていた。

「ライ、気分はどう?」
「……悪い、迷惑かけた」
「謝らないで、あんな規制ギリギリのバカ酒飲まされたんだから悪酔いするのも当然だよ」
「はあ…格好悪い…」
「時雨の爺の横に座った奴は大体潰されるから皆慣れたもんだし気にしない気にしない。あ、倒れたライは俺が運んだから安心してね」

 誰にも触らせてないから!と宣言されるが一体どこに安心要素があるんだそれはとつっこんだ。
 (てか、さっきのユウキ…なんか様子が変な気がしたが…)
 目の前にいるユウキは普段と変わらなかった。瞳に暗い光があるわけでもないし、距離感を保った良い子そのもの。

「二時間ぐらい寝てたけど、まだ赤いね、辛そう」

 そういって水の入ったコップを手渡される。浴衣の合間から見える肌がほんのりと赤く染まっていた。胸元の布を手繰り寄せて肌を覆いつつ「今は大分マシだ」と呟く。

「ならいいけど、おかしいな。ライって別にお酒弱い方じゃなかったよね」
「ああ、人並みには飲めるはずだが…」
「それにしては潰されるのが早かったよね。うーん、昨日も死んだように寝てたし今日も顔色はよくなかったしなあ…旅行中に店長さんに生気吸われて回復が遅れてるとかじゃない?」
「なっ…生気って、インキュバスの能力でって事か?」
「そうそう。インキュバスは接触した相手から生気を奪えるんだよ。こうなると温泉旅行の前も怪しくなってきたなあ。ねえ、店長さんと知り合ってから体がだるくなったり変な夢を見たりとかしてない?」
「…睡眠障害みたいなのは、あったが…」

 グレイに拾われた当時はちょうど真人とのあれこれがあってほとんど眠れてなかった。悪夢も毎日のように見ていた。でもその睡眠障害は真人が原因だったし、グレイが引き起こしたものとは思えない。思えないのだが…もう何を信じたらいいのかわからなかった。

「ごめん。しんどい時に話す事じゃなかったね。そういえばこれ返し忘れてた」

 ハッと弾かれたように顔を上げた。ユウキが懐から出したのは…ソルから預かっていた予備のスマホだった。多分俺を着替えさせた時に見つけたのだろうが、ヤバイ、と顔をしかめた俺に対してクスクスと笑ってくる。

「そんな顔しないで。はい、どーぞ」
「…いいのか?」
「いいも何も俺のじゃないし奪う権利はないよ」

 ソルのスマホを渡され、画面を確認すると充電が100%にされていた。ご丁寧な事に充電までしてくれたらしい。という事は絶対中も確認したはず。どこまで探られたのかわからないが少なくともソルのスマホだという事はバレてるだろう。

「さっき鬼のように電話が来てたよ。かけ直してあげたら?」

 ユウキに見張られながら着信履歴を確認した。数分前に何回か着信があったようだ。非通知だからこちらから折り返す事はできない(多分ソルのスマホでかけたのだろう)。仕方なく店の固定電話にかけてみる事にした。

 プルルルル…

 しかしいくら待ってもそれに繋がる事はなかった。店に誰もいないのか、それとも立て込んでるのか。狐ヶ崎と龍神組、二つのヤクザに狙われることになったのだ。平和であるはずがない。あの三人ならよっぽどの事がない限り大丈夫だとは思うがそれでも不安にはなる。俺の思考が手に取るようにわかるのかユウキが気遣うように片膝をついてくる。

「今夜はまだ大きな動きはないはずだから、今は寝ておこう?せっかく体も綺麗にしたんだし、とにかく回復に徹して明日に備えるのが一番だよ」

 そういって肩を押された。仰向けに寝かされかけて後ろ手に手をついて止める。

「待て、今綺麗にしたって…お前」
「ああうん。ライの体、俺が隅々まで洗っといたよ★」
「??!!」
「そんな絶望した顔しないでよ、冗談だって。洗ったのは柴沢だから。意識がないと危ないからって言われてさ……、渋々、ほんっとーに渋々譲ったんだ」

 (よかった…マジで命拾いした…)
 流石に酒で潰れた俺を襲ったりしないとは思うが、それでも意識がない状態でユウキの前に出るのは避けたい。

「ふんっ!別にいいしー!洗ってる横で一緒に入浴したからほとんど一緒だし!」
「何もよくねえだろ。少しは遠慮しろ」
「あはは、触るのは遠慮したからいいじゃん。ほら、これでもういい?電気消すよ~」
「えっ、あ…」

 パチっという音と共に一気に部屋が暗くなる。俺は暗闇に目が慣れないまま、慌ててユウキがいた方へと顔を向けた。

「ユウキ、ちょっと待て!」
「なーに?」

 さらっという布擦れの音と共に布団がめくられる気配。ぎょっとした。

「お前…何で布団に入って…!自分の部屋に帰らないのか??」
「こんな状態のライを放っとけって?無理無理。心配で五分ごとに見に来ちゃうよ」
「寝かせる気ないだろそれ!」
「あはは、嫌なら今日は横で寝させてー?」
「今日はって……お前、」

 昨日もだろうが。とっさに言い淀むが、その沈黙で察したらしい。くすくすと笑いだした。

「あれ?バレてたかー。ごめんごめん。昨日も横で寝てたねー」
「バレてたかじゃねえよ!昨日俺がどれだけ驚いたと思ってっ!!…とにかく!心配なら隣の空き部屋で寝ろ!同じ布団に入る意味ねえから!」

 ユウキの体を布団から押し出そうと両手を伸ばした時だった。

 ぐいっ

 暗闇でほとんど見えてないはずなのにユウキは俺の両手首を掴み、体重をかけるようにして押し倒してくる。

「うぐっ、なにすっ」

 仰向けに倒されたと思えばそのまま腰に乗られ、完全に身動きがとれなくなった。泥酔した相手に容赦がなさすぎる。

「何、して…っ!どけって…!!」

 身を捻っても腰に乗られていては抜け出せない。もがきつつユウキに手を伸ばせば、前のめりになった体に押し戻される。腕が折りたたまれユウキの胸と正面から密着する形になる。心音すら聞こえそうな距離に戸惑っていると

 ちゅっ

 額に濡れた感覚。ひっと喉の奥で悲鳴を上げると肩を優しく撫でられた。子供らしくない、色気のある撫で方に鳥肌が立つ。

「…ユウ、キ!!いい、加減にっ、しろ!!」

 明確な拒絶を口にすると撫で付ける手が止まった。だが、手は止まってもユウキの体は離れていかない。覆い被さったままじっと見下ろしてくる。それをハラハラと見上げた。

「お、い、ユウキ…っ…酔ってん、のか…?」
「俺は飲まされてないよ。見てたでしょ」
「なら、急に…どうしたんだよ…怖いって……っ」

 (やっぱさっきの違和感は間違ってなかった…!)
 青ざめながらユウキの言葉を待ってると「あのエロ爺」と小さく呟くのが聞こえた。

「ライ…、俺さ、結構ライの事は知ってるつもりだったんだよ」
「…」
「だけど間違ってた。時雨の爺との接点があるなんて知らなかったし、多分こういう風に俺にも知らない事がたくさんあるんだよね。爺のせいで現実を思い知らされた。それがなんかすごく悔しいんだ」
「…ユウキ」
「ねえ、教えて。あのエロ爺とどこで会ったの?耳打ちされた時何を言われてたの?すごい気に入られてたけど、あっちの組に来るよう唆されてないよね?お金積まれたのなら俺はその倍用意するから、教えてよ?あんなエロ爺より俺の方が絶対いいよ?ね?」
「ちょ、ぐっ、おちつ…けっ、苦し…っ、っ」

 首元の布を締められ呼吸ができなくなる。手首を叩くと少しだけ力が緩められた。

「ケホッケホッお前…殺す、気かっ…!」
「あ、ごめん…」
「ごめんじゃねえ…いいからどけ!誰に何を言われようが俺には恋人がいるんだぞ!どうもこうもならねえよ!」
「恋人は一時的なものじゃん。いつ別れてもおかしくないし…、イッ」

 ここまでの事も含めて奴の脇腹を強めに殴ってやった。痣になるレベルの強さだ。流石のユウキも「酔って潰れた人間がやれるパンチじゃない」と言って大人しくなった。

「いいからお前は一晩寝て頭を冷やせ。今のお前とじゃ話にならねえ」
「……ごめん、…」

 ユウキは殴られたところを摩りながらおりていく。そのまま部屋を立ち去るかと思ったが

 スル…

 性懲りもせず布団に入ってきた。

「…ったく」

 もう追い出す気力もなくてそのままにさせておいた。添い寝するだけなら昨日と同じだし好きにさせておこう。寝返りを打ってユウキに背中を向けた後、目を瞑り、睡魔が訪れるのを待つ。

「ね、ライ、起きてる?」

 ユウキが遠慮がちに声をかけてくる。無視するかとも考えたが、その後が面倒で答えることにした。

「こんな速攻寝れるわけねえだろ」

 誰かさんに襲われてアドレナリン大盤振る舞い状態なんだぞ。ユウキは俺の言葉に苦笑しつつ「お願いがあるんだけど」と肩の部分を引っ張ってくる。こっち向いてと言わんばかりに。仕方なく寝返りを打ちユウキの方を向いた。頬杖をついた状態でユウキを見つめる。

「あのさ、起きてるついでに、俺にキスしてくれない?」
「……そんなに殴られてぇのか」
「俺ドMじゃないし殴られても喜べないよ…。そうじゃなくて、俺はおやすみのキスがしてほしいの!」
「はあ???何ガキみたいな事言って……」

 いやまあ実際ガキ(未成年)なんだけども。呆れてるとユウキの掌が頬に触れてきた。フィンに比べるとぬるま湯のような人肌の温度にくすぐったくなる。

「俺、家族におやすみのキスしてもらった事なくてさ」

 ポツリと小さく呟いた。そういえばユウキから母親の話を聞いたことがない。親父さんはそういう事をするタイプではないのは見てわかるが、物心がついた時からずっと一人で寝ていたとしたら…それはきっとすごく寂しいものだろう。同情していると、ユウキが更に声を小さくして呟いた。

「この年になってまでおやすみのキスに固執してるとかダサいし、頼む相手もいないし、ずっと我慢してたけど…ライなら馬鹿にせず話を聞いてくれると思って、勇気を出して言ってみた」
「お前ならいくらでも恋人作って頼めるだろうが」
「恋人同士のじゃなくて、家族がいいの。大事な人のおやすみのキス」

 布団の中で手を合わせてお願いしてくる。

「お願いぃ、ライぃ…」

 その必死さからふざけてるわけではないというのはわかったが、なんでこう…俺はユウキに弱いのか。フィンが異常に心配してきた理由をなんとなく察した。

「お前…本当に寝る気あんのか」
「うん!寝るよ!約束する!こんなことライにしか頼めないんだよ。ね、ほっぺでいいから、お願い、ちゅってして…?」
「…はあ」

 ため息を吐いたあと、肘をついて体を起こした。横になったままのユウキの髪を手櫛ですいてやってから眺める。整った顔は幼さと男らしさの狭間にあり今だけしかない雰囲気を漂わせていた。栗色の髪はユウキの柔らかい態度をより柔和にさせるが、こうして夜の暗闇の中で見ると少し印象が変わる。穏やかさとは真逆の、男の色気を纏う武器の一つになっていた。
 (きっと将来…モテまくるんだろうな…)
 そんな未来を想像して苦笑する。

「ライ…?」

 目を開けかけたユウキの瞼を掌で閉じさせる。それから

 ちゅ

 頬に触れるだけのキスを落とした。すぐに離れて、よしよしと頭を撫でてやる。

「おやすみ」
「…!!」

 ユウキは頬を自分で撫でたあと、その腕を俺の背中に回してきて、ぎゅううっと力を込めてくる。背骨がきしむほどの強さで「痛いわ」と頭をはたいてはった。

「ん~~ー!やばい!心臓とまる!!皆こんな風に毎日キスしてもらってるの?!羨ましいんだけど!!」
「いや俺もこんなのはされた事ねえけど…って、なんで浴衣掴んで…!あ!ばか!おいっ!?!」

 興奮しきった様子でユウキが浴衣の帯を引き抜いていく。そのまま肩にかけられていた浴衣を下ろされ、慌てて手を掴み、浴衣を奪われるのを食い止めた。

「このやろっ!寝るんじゃねえのかよ!」
「寝るよ。寝るけどすぐに寝るとは言ってないよね。ライに触らないって約束もしてない」
「おまっ!!」

 殴りかかろうとしたがユウキはそれを片手で受け止めて、笑みを浮かべる。

「大人しく寝てなって。怪我しちゃうよ」
「うるさっ、う…っ、なにっ」
「俺もライにおやすみのちゅーしたげる…体に、ね」
「体にやったら意味が変わっ…ひっ、やめっ、んんっ…!」

 首を舐められ、びくりと全身が震えた。

 ぺろっ、ちゅ…

 上半身は何も纏ってない為防ぎようがない。首、鎖骨、肩に柔らかい唇が押し当てられ、時々吸いつかれる。その度に腰がひくりと震えた。自由な方の手でユウキの肩を掴むがそれもまた床に押し付けられた。

「ユウキっ…!」
「うーん…邪魔だな。まとめちゃうか」

 そう呟きながら両手首を何かで束ねられた。多分、浴衣の帯だ。なんでそんなに縛り慣れてるんだよと文句を言っても足の間に体を滑り込まれ蹴ることはできない。唯一残された抵抗は言葉だけだが、喘がないように食い縛ってるせいでできない。
 (このままじゃヤバイ…!)
 どうにかして隙を作らせないと。

「いっ、う…っ、はっ…、っぅ」
「ライ、もっと声出していいんだよ?ここなら誰も聞いてないし」
「うる、さっ、っ…あっ、そこっ」
「ここは…うーん、ダメかあ。お酒入るとたたなくなるっていうもんね」

 さらりと腰骨から股を確かめるように撫でられた。ゾクゾクと背中が震えるが催してない自身にホッとする。どうかこのまま諦めてくれと願うが

「じゃあ俺のと一緒に擦ってもいい?」

 なんでそうなるんだよと頭突きしてやりたくなった。いや、実際にしようと頭を上げたのだがぐらりと目眩がして不発に終わってしまった。情けない自分に舌打ちしつつせめて口はと言い返しておく。

「んなのっ、嫌に、決まってるだろ!」
「でも俺のガチガチだし…これじゃ寝れないよ」
「ひっ、っ、押し付けんなっ…」
「このままの状態で寝たら、意識ないまま襲っちゃう気がするな~そしたら手加減できずに大変なことになるかもな~」
「ううっ、くっ、」
「明日負傷した状態でお店行きたいの~?」
「~~このっ!!わかったからっ!」

 腹をつつくように固くなったのを押し付けられ、たまらず悲鳴のような声をあげた。体も心も限界な中、必死に最適解を探した結果「俺がやる」と叫んでしまったのだ。
 (やばい…)
 今更撤回できる空気ではない。どうしようと焦っていると、両手の重みがなくなる。帯で束ねられたままだが、床に縫い止められてる状態ではなくなったらしい。恐る恐る胸の前に手をもっていくと、ユウキが頬に吸い付いてくる。熱い吐息と共に囁かれた。

「嬉しいな、またライに触ってもらえるんだね」
「うる…せえ、強姦魔……出したらすぐに寝ろ。というか部屋出てけ。これ以上俺を騙したら二度と口きかねえからなっ…!」
「はは、急所握られながら脅されると怖いなー、イタタッ」  

 ユウキのを握りこんで力をこめてやれば流石に痛かったのか肩を叩いてくる。少しだけ溜飲が下がった俺は、淡々と手を動かした。こうなったらもう一秒でも早く終わらせるしかない。幸か不幸かユウキのを触るのは二回目でそこまで抵抗感が薄いのがまだ救いだ(いや…救いなのか??)。

「ったく…なんで俺なんかで…こんな…」

 固くしてんだよ、と心の中で呟いた。ユウキが無言のまま頬に口付けてくる。好きだから、と言われた気がして…カアッと顔が熱くなった。

「…!!」
「はあ、キス、したいなぁ…」
「…ダメ、だ…っ」

 唇へのキスだと察してすぐに拒否する。ここまで襲っておいてあれだが恋人のいる俺に対して少しばかりは遠慮する気持ちがあるらしい。理性を働かせる方向が著しくおかしいのだが、今の俺にはそれを指摘する余裕はなかった。

「ライの、ケチ…」

 文句を言いながらも無理やり唇を奪う事はせず、ちゅ、ちゅ、と瞼や頬に口付けてくる。くすぐったさはあるが快感には至らない淡い刺激だ。それよりもユウキの熱っぽい視線の方が体に悪い。なんとか無心になって手を動かしてると手の中のものがビクビクと震え始めた。そろそろか、と思って強めに握りしめれば目の前の体がビクリと強ばる。

「はあっ、ん…、ねえ、待って、ライ…」
「うるさいさっさとイけ」
「イくよ。イくけどさ…、あの時みたいに噛んでくれない…?」
「?!」

 ユウキがずるずると上がってきた。腹ではなく胸の上に乗っかって、限界まで張りつめたものを唇にあててくる。束ねられた両手も巻き込まれたせいで腕が上がらない。つまり無抵抗状態である。

「ひっ?!いっ、むぐ、うっ、やめろ!」

 抗議しようと口を開ければ先端が入ってきて、慌てて顔を背けた。ユウキはそれを無理矢理向かせることはせず、熱くて固い先端を頬に押し付けたまま見下ろしてくる。

「ライ、お願い、あの時お風呂でライにしてもらったのが忘れられないんだ」
「お、俺のせいって言いたいのか…」

 あの時は急いでたしやり返したい気持ちもあって噛みついてしまったが、まさかそれを求められる日が来ようとは。いや、因果応報だろう。若くて純粋な体にあの刺激は強すぎたのだ。

「おねがい、ライ…」

 焦れてきたのかツンツンと唇をつついてくる。迷ったが腕どころか肩ごと膝で潰されてるため手では擦れない。そもそも妥協させてイかせた場合、不完全燃焼に陥ってもう一度やれと求められる可能性がある。そんな体力気力はない。

「ああもう…っ!お前は動くなよ…!」

 この体勢で喉つかれたらマジで窒息死する。流石にそれは理解してるのか「うん」と頷いてきた。
 (なんでユウキのをフェラする事になってんだよ…)
 自分から咥えにいくなんて屈辱だが暗さもあっていくらかマシだった。いや、そういう風に誘導されているのかもしれない。どちらにせよここで引く選択肢はないのだ。顔を正面に戻した。唇に押し当てられたそれに舌先を添えて

 …ちろっ

 恐る恐る先端を舐めてみる。先走りのせいかしょっぱくて、少し苦い。匂いは風呂上がりという事もあってほとんどしない。これならと目を瞑って先端を咥えてみた。角度的にあまり深くは無理だが、吸ったり舌を動かして刺激を与えていく。

「んっ…っ、ふ、ンン…っ、んく…」
「はあ、気持ちいいよ、ライ」

 褒めるように頭を撫でられたと思えば、ユウキの腰が少し動いた。ずるずると上顎を擦られ、その気持ち良さにじわりと腰が熱くなった。ダメだ。落ち着け。なるべく自分の体の事は考えないようにして、舌と口に意識を向けた。根元から先端へ舐め上げたり、くびれのところを弄ったり、奥まで咥えてみたり。クラクラと目眩を強くさせながら、じゅるるっと吸い上げた。

「はあ…やっば、」

 ストンと感情が抜け落ちたような顔で見下ろしてくる。先程の会食の時の目と同じ。口に咥えさせたのは熱く固いのに、その目だけは恐ろしい程怪しい光を放っていて、ついつい目が奪われた。

 ごくり

 喉奥に咥えたまま無意識に嚥下する。ずるりと引き込む刺激に煽られたのかビクリとユウキのが脈打った。限界なのだとわかり、歯が当たる位置まで頭を引いた。それから

 カリッ

「っ……!」

 痛い程張っている先端に甘く歯を立てれば、ユウキは息をつめてどぷりと舌の上に熱いものを吐き出した。とっさに口から抜こうとしたが、出してる途中で抜けば顔にかかってしまう。ソルとの事を思いだし、あの屈辱感はもう嫌だと、舌で受け止めることを選択した。喉の手前の、舌の上に苦い液体が塗りつけられる。色んな意味で吐き気がする。

「ンンっ、んっ、んぐ、んう…っ」

 若いからかそれとも溜まっていたのか、射精は延々と続いて、口を開けてるのが苦しくなる。しかも重力に従って喉の奥にどんどん流れ込んでいくのだ。たまらず噎せ込んだ。

「んっ、んぐっ、ケホッゲホッ、ぐ、うっ、けほっ…!」

 顔を背けて思いっきりむせる。まだユウキのは出続けていた為、結局、不味い思いをした挙げ句顔にかけられるという最悪な結果となった。

「くそっ…またか、よ…」

 後頭部を布団に着地させ盛大に舌打ちしてやればやっとユウキも我に返ったのか、胸の上からどいた後、労うように肩をさすってきた。

「ライ、大丈夫??」
「に、見え、るかっ…ゲホッ、どんだけ、出すんだよ…」

 溺れるわ、と上半身を捻りながら毒づいてると、ユウキが背中をさすってきた。

「えへへ、気持ちよすぎて我慢できなかった。ごめんね、ライ」
「うるせえ…謝れば、すむと…思って…けほっ」

 布団の上でぐったりしてると、顔をタオルか何かで拭かれる感触がした。確認する気力もなくそのまま好きにさせてると、ふと、ユウキが昨日と同じように横抱きの形で添い寝してくる。体力が残っていたら布団から蹴り飛ばしていただろうが今の俺には無理だった。限界まで耐えていた眠気に従って脱力する。

「おやすみ、ライ」

 頬に触れる感覚がしたが、すぐに意識は途絶え結局よくわからなかった。
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