ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十話

ゲームの約束

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「夫婦喧嘩は犬も食わねえって言うけどよぉ、流石に限度があるだろ。これ以上騒ぐなら騒音被害で魔王に訴えるぜ?」

 狼男の聴覚のせいで嫌というほど聞こえてしまうのだろう。鬱陶しいと訴えるソルを、フィンは横目で確認した後小さく首を振った。

「無関係のお前は黙っていろ。これは私とライの話だ」
「アア?こっちは騒音で迷惑してるっつってんだろ。無関係じゃねえわ。つーか無理やり引っ張っといて“会話”って笑わせんな、モラ夫野郎」
「もらお…?」

 フィンが首を傾げている間に、ソルは俺の腕に食い込んでいた手をどかせてぐいっと引き寄せる。一瞬だけこちらを見た銀色の瞳は思ったよりも冷静な色をしていてホッとしたが、それでも久しぶりに激しく睨み合う二人にハラハラせずにはいられなかった。

「わかってんのかぁ?ライの意思ガン無視して行動制限かけんなら、今度はてめえが支配する事になるんだぜ?恋人だからって、愛と依存を混同させんじゃねえ」
「……」

 黙り込むフィンを見て満足したのか、ソルは真剣な表情から一転して、ニヤリと笑い、俺の肩に腕を回してくる。

「…んじゃ、今からオレら、ゲームする約束してっから」
「なっ?!」
「え??」
「恋人借りてくぜ~」

 肩を組んだまま今度は裏口に連れてかれた。慌ててフィンが追いかけてくる。

「待て駄犬!!」
「おいおい恋人サマァ?まさか恋人の娯楽に口出してこねえよな~?」
「…」
「安心しろって、ちゃんとルールは守ってやるから」

 ソルの適当なセリフに顔をしかめつつも、思う所があるのか、フィンはそれ以上追いかけてはこなかった。



「ほら、これでも着とけ」

 地下に移動すると、雑にズボンを放られた。シャワーから無理やり連れられたままの服装(Tシャツとパンツ)だった為助かった。黙々と足を入れていくと

「…ん?」

 緩めのデザインなのはわかるが、足の丈も腰の太さも微妙に大きくて合わない。ソルとはそんなに体格は違わないと思っていた分…なんだか負けた気になった。

「何ズボン睨んでんだ。ちゃんと洗った奴だぜ?」
「…別に、そこは心配してねえよ」
「じゃあ恋人置いてきちまった事後悔してんのかぁ~?」
「…」

 深く葛藤するようなフィンの表情を思いだし胸が痛くなる。
 (戻るべきか…?)
 だが、あのまま寝室に行っても俺は桐谷の事を話せなかっただろうし、それではフィンも納得できないはずだ。
 (平行線になるなら…少しクールダウンした方がいいか…)
 まだ桐谷のショック状態が抜けてない俺はうまく思考がまとまらず何が正解かわからなかった。ただ一つ言えるのは、これ以上フィンと喧嘩したくない…という事だった。

「ったく、ちょっと前みてぇな面しやがって。疲れてんならそっちのベッド使っていいぜ」

 いつものPC椅子に腰掛けたソルが退屈そうに尋ねてくる。

「寝ても…いいのか?」
「オレはまだ寝れねえしな、仕事上がりで眠いんなら気にせずドーゾ」
「…」
「一人で寝るのが寂しいって顔かぁ?仕方ねえな~今なら特別に腕枕付きで添い寝してやるよ。今のオレは賢者ってるから紳士だぜ~」
「あんたが紳士って…まだ空から槍が降ってくると言われた方が信じられるわ」
「くくっまあ頬齧るぐらいはするかもなァ」
「ほれみろ」

 けらけら笑ってからかってくるソルを睨みつけてから、少し考えた。ゲームか睡眠か。今の賢者ってる(?)ソルなら横で寝てても襲われる事はなさそうだが、眠気はぶっちゃけさっきの言い合いで飛んでしまった。

「…ゲームやっていいか?…ちょっとスカッとしたい」
「おっしゃ!準備すっからそっち座ってろ」

 そう言って前は置かれてなかったピカピカのPC机を指してきた。
 (これが俺用に揃えてくれたやつか…)
 ピカピカの椅子に腰かけるとその立派さがひしひしと伝わってくる。長時間腰掛けても痛くないように腰の部分はカーブしてるしクッションもついてる。マウスやキーボードも同じくゲーミング用のものが使われてて…こんな立派なものを用意してくれたのかと素直に感動した。

 その後、テキパキと説明するソルのおかげであっという間にPCにもゲームにも慣れる事ができた。
 (やっぱ楽しいな…)
 ゲームは時間と金を消費する分今まであまり触れられずにいたが、やってみると楽しい。ソルと夢中になって遊んでいると桐谷の事で疲弊していたメンタルが段々と回復していくのを感じた。そして

 パチ

「んん……?」

 目を開けると地下の天井が見えた。
 (あれ…)
 ぼんやりと思考を濁らせたまま瞬きを繰り返し、数秒ほど天井を眺めてからハッと我に返る。やばい。寝落ちしてしまった。ガバッと勢いよく体を起こせば

 カタカタ

 ソルは黙々と仕事PCに向かってキーボードを叩いていた。集中していて俺が起きた事にも気付いてない。下を見ればこの部屋に一つしかないベッドに寝かされていた。
 (運んでくれたのか…)
 珍しく友人らしい気遣いを見せるソルに胸が熱くなる。

「…ありがとな」

 ボソッと小さくお礼を言って(聞こえてないと思うが)仕事の邪魔にならないよう、そっと地下を出た。外はすでに明るくなっていて、軽く深呼吸をしてから寝室に移動する。フィンはベッドで静かに眠っていた。まるで彫刻のように微動だにせず、美しい姿のまま眠る姿は神秘的にすら思えた。

「…ごめんな、フィン…心配させて…」

 起こさぬよう小さく呟いてから右側の空いたスペースに寝転がる。目を閉じれば意識は一瞬で暗闇に落ちた。


 ***


 それから数時間後、目を覚ますとフィンは姿を消していた。またグレイの用事を言い渡されたらしく「ひるすぎにもどる」とメッセージにあった。俺は少しだけ寂しさを感じつつも、開店準備で忙しなく働き考えないようにした。

 プルルル

 そして昼頃になり、店の固定電話が鳴りだした。

「非通知か…」

 なんとなく嫌な予感がして居留守を使う事にした。そもそも営業時間外なのだからとらなくても問題はない。でもなんとなく胸騒ぎがして…固定電話から目が離せずにいると、十秒も待たずに再び電話がかかってくる。

 プルル

 今度は二回鳴っただけで切れてしまった。やはりいたずら電話か…と思った所で、次は自分のスマホが振動し始める。

 ブーブー

「!!」

 非通知だった。バクバクと心臓の音が響く。
 (まさか…)
 震える手でスマホを耳にあてた。
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