オメガで腐男子の僕がBL展開期待して女装風俗店に勤務したら何故かノンケドライバーに惚れていた件

リナ

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一話

ノンケ確定ならいいんです

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 おもむろに車から背の高いスーツの男が出てきて、僕達のいる歩道まで回り込んできた。そして


「お嬢様、お迎えに参りました」


 男が手袋に覆われた手を差し伸べてくる。え、と顔を上げれば、かっちりと整えられた黒髪に目がいく。清潔感のある白いシャツに、皴一つないスーツ。きっとオーダーメイドなのだろう。スタイルの良い彼の手足を綺麗に包み込んでる。残念ながら顔は眼鏡とマスクでわからないが、高級車の運転手らしく、品の良い匂いを纏っている。甘いような、大人っぽいような。とても良い匂いでそれだけで惚れそうになった。

 (てか、今、僕の事「お嬢様」って呼んだ?)

 何の事だと首を傾げてると、

「失礼します」

 手袋に包まれた手がキモ男の手に重なり、ほとんど力を込める事なく、スッ…と僕の腕を抜き取っていく。着ているスーツと同じぐらい品のある仕草でついつい見惚れてしまう。キモ男は突然の展開に「あ、あ、」と謎の声を出していた。

「では、お嬢様、こちらに」

 運転手の男は僕の買い物袋(BL)をそれはそれは丁重に両手で預かってから、後部座席の扉を開けてくる。

「お足元にお気を付けください」
「は、はいぃ…?」

 よくわからないまま僕は乗せられ、

 バタン

 扉が閉じられる。あれ、これヤバいのではと新たな危機感が脳をかすめたが、男が運転席に戻り発進してしまった為どうしようもなくなった。車は駅前に向かう大通りを滑らかに進んでいく。ハンドルさばきはもちろんの事、ブレーキもアクセルも全ての動作が丁寧で、乗ってる者に全くストレスを感じさせない。男の人柄が透けて見える気がした。

 (この人、エッチも優しいのかな…)

 なんて下世話な事を考えてしまう僕。ふと、男が前を向いたまま話しかけてくれる。

「先程は失礼しました。お節介でしたでしょうか」
「え、いや…あのぅ、助けてくれたって事であってます…?」
「はい、あそこの信号はとても長いので、ついでにと」
「はぁ…」

 いくら僕が困ってたとはいえだけで助けてくれるなんて普通はあり得ない。ただの物凄く優しくて善良な人なのかそれとも

 (まさかのBL展開???)

 BLではこういう場合「君が気に入った」とか「体目的だ、助けた恩を体で返せ」と豹変した攻めに車内で襲われたり自宅に連れ込まれるのが定番だが…僕は今女性の見た目をしているし、声も作ってしまったから、きっとこの人はまだ僕の事を女性と思っている。ワンチャン狙っての救助だったとしても女好きなのは確定してるので

 (ノンケですか、そーですか…)

 夢のようなBL展開に思えたがノンケでは期待しようがない。はあ、と小さくため息を吐いて「助けてくれてありがとうございます」と礼を言った。

「ちょうど駅に向かう所だったので大丈夫ですよ。ただ、あの道は少し治安が悪いので…今後はお気を付けください」
「はい…」

 女装腐男子に勇者キモ男にナンパ野郎もいるし確かに物騒だ。マニメイト闇鍋通りと改名した方がいいかもしれない。

「○○駅にお送りする形でよろしいですか?」
「あ、すみません…」

 救助だけでなく駅まで送ってくれるなんて(しかも何も求めてこない)。何から何まで優しい…心遣いに溢れた人だなと感動した。こういう人、リアルでもBLでもどストライクなのに。

 (でも、ノンケだもんなぁ)



 駅まで送ってもらった僕はその後変なのに絡まれる事もなく無事に帰宅できた。そして念願の週末BL浸りタイムが始まったのだが、どれだけ読み耽っても、なんとなく先程の運転手が気になってしまい集中できなかった。攻めの台詞も運転手の顔で再生されてしまう。顔わかんないのに勝手にイケメンで当てはめてまで攻めさせようとする僕の頭はかなり終わっている。

「だめだこりゃ…」

 数分しか一緒にいなかったけど寝返りを打つと彼の匂いがふわりと香ってくる気がした。お風呂も入ったのに匂いが残るなんてあるのだろうか。どちらにせよ彼の残り香のせいで更にムラムラ…じゃない、そわそわして

「BL読もう…」

 妙な感覚を抱きながら僕はお気に入りのBLを手に取るのだった。


 ***


「兎太、おい、兎太!」

 げしげしと蹴られる感覚で目を覚ます。

「ん、なぃ」
「なぃってなんだ!寝ぼけてんじゃねえ!朝飯だぞ!起きろ!」
「やぁ…」

 土曜の朝だというのにうるさいな。兄貴の足蹴り目覚ましを布団にかぶって防御すると、乱暴に布団ごと奪われた。

「ああー…」
「ほら、愛しの恋人(※布団)とはお別れして、顔洗ってこい!」

 背中を蹴られ渋々腰を上げる。僕は今上京している兄の家に居候する形で大学に通っていた。僕は一人暮らしを希望したが、両親と兄の大反対を受け…、折衷案として兄の家に転がり込むことになったのである。

「兎太、よだれついてる」

 兄が寝ぼけてる僕の頬を服の袖で拭いてくる。いいからと手で払うが、兄はごしごしと拭き続けた。

 兄の名前は前原亮太りょうた。僕の八個上でアルファだ。背も高く、顔も運動神経も頭も良い。都内の大手企業に勤めるエリートで、友達も多く、もちろん男女共にモテるので恋人が途切れる事はない。そんな完璧兄貴の唯一の欠点はブラコンを拗らせている事。僕がオメガでどんくさい事もあって兄は子供の頃から何かにつけては世話を焼いてくる。
 (構う相手なんていくらでもいるだろうに…)
 あくび混じりに、兄が満足するまで拭かせてから僕は廊下に出た。



「いただきます」
「いふぁらひまふ…」

 半分寝た状態で食パンを頬張る。もぐ…もぐ…とスローペースで咀嚼し、僕の好みの焼き加減で仕上げられた目玉焼きをのせてもう一口食べると、やっと目が覚めてきてちょっとだけ咀嚼スピードが上がった。兄が笑いながらマグカップを掲げる。

「兎太もコーヒー飲むか?」
「いい、苦いし」
「苦いからいいんだろが」
「ドМじゃん…」

 げしっと机の下で蹴られた。

「これから買い出し行くけど兎太はどうする?」
「車?」
「ん」
「じゃあ行く。ボンキ行きたい」
「お前好きだなぁ」

 今ボンキドーテではアニメ化も成功させたBL作品のコラボ展開がされている。この前行った時は諸々売り切れていたから…もう一度チャレンジしたい。僕がニヤニヤしていると「ああまたいつものやつか」と兄が半目になる。僕が重度のBL愛好家なのはとっくの昔にバレているので(両親には死守している)気にせずどや顔していると、兄はコーヒーを片手にわしゃわしゃと髪を掻き混ぜてきた。

「じゃ、飯食べたら出発するから寝癖直しとけよ」
「たった今寝癖追加されたんだけど…」
「これは兄の特権だからいいんだよ」
「横暴だ…(直し直し)」



 ルン♪ルン♪

 兄の運転でボンキに到着した僕はすぐに目的の商品棚に向かった(兄は隣のスーパーに行ってる)。そしたらまるで僕に買ってほしいと言わんばかりに一つだけ残っていて一気に心が舞いあがった。昨日のキモ男でモヤってた心が嘘みたいに晴れていく。

 (やっぱりBLはすごい、BLは人生の特効薬だ…)

 購入済み商品を抱きしめ、スキップしながら店内通路を進むと

「ん?」

 ふと、エスカレーターとは逆側の、化粧品棚が左右に並ぶ狭い通路に、黒髪三つ編みの女性スタッフが立ち呆けているのを見かけた。その視線の先には手鏡があって「え、自分に見惚れてる?」と一瞬驚いたが、瞬きすらせず微動だにしない状況に流石に不安になって声をかけに行く。

「あの、大丈夫ですか」

 肩をゆするとスタッフは我に返って「す、すみません…」と慌てて走り去った。走れてるし足取りもしっかりしてたから問題なさそうだ。安心した僕は気を取り直してエスカレーターの方へ向き直ると、


「これとこれも、あーこれも」


 エスカレーター横の人気化粧品棚で爆買いしているオネエ、じゃなくお兄さんがいた。その傍にはなんと昨日僕を助けてくれた運転手がいた。

 (えッ??!!)

 二度見どころか四度見ぐらいしたが、何度見ても彼だった。あれ程スタイルの良いスーツメンズは滅多に、いや、彼しかいない(僕がリアルで知り得る限り)。お兄さんの商品カゴをもってあげている所を見ると付き添いなのだろうか。

 (男友達ならカゴを持つなんてしないよね…全然似てないから兄弟説も薄い…まさか、恋人??いや…ノンケだしそれはないか…)

 僕の視線に気づいた運転手がこちらを向く。昨日と同じく眼鏡とマスクで表情はほとんど分からないが、ぺこりと会釈され、僕もわたわたしつつ会釈で返した。するとそれに気付いた爆買いお兄さんがこちらを向く。中性的だが、綺麗な顔立ちをしていて「化粧映えしそうだなぁ」と思った。

「あれ、甘口あまぐちさんの知り合い?」
「知り合いという程では」
「え?逆に気になるんだけど、まさか甘口さんがワンナイト?」
「そんなわけないでしょう。…それに彼は男ですよ」
「えっ」

 お兄さんがジーンズにTシャツ姿の僕を二度見してくる。
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