オメガで腐男子の僕がBL展開期待して女装風俗店に勤務したら何故かノンケドライバーに惚れていた件

リナ

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一話

★はい、ちいきゃわです

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 ***


 とんとん

 肩を叩かれる感触がする。眠りに落ちていた意識がゆらゆらと浮かび上がってくる。目を開けると

「やあ、坊や」

 綺麗な女性が覗き込んできた。鼻筋がスッと伸びて、色気のあるぽってりとした唇とハッキリとした目元が特徴的な…見た事がないレベルの美人が目の前にいた。シンジのようにメイク映えする顔と違ってゴリゴリに顔面の強さで勝負してる感じだ。この人、スッピンめちゃくちゃイケメンなのでは…?と思ったところで更に顔を近付けられた。

「わっ!わっ…!」

 見惚れつつ変な声を出して後退ると「ちいきゃわ?」とハスキーな声で笑われた。

「それより、坊や、あの人に呼ばれてるよ」
「…えぇ、あの、人…?」

 まだ寝ぼけ頭でよくわからないまま聞き返すと、その人は含みのある笑みを浮かべ、唯一の出入り口…扉を指さした。

「急がないといけないんじゃないの?」
「!」
「ずっと呼んでるよ」

 ああ、そうか。

 (シンジさんが休憩の合間に来てくれたんだ…!)

 やっと状況が整理できた僕は弾かれるように立ち上がった。起こしてくれた美人に「ありがとうございます!!」と頭を下げると、

「…」

 美人は何か言いたそうに顔を曇らせ、すぐに、片眉だけくいっとあげた妖艶な微笑みを浮かべた。

「…ま、頑張って」
「はい!」

 もう一度ぺこっと頭を下げてから僕は廊下に出た。するとスーツの男が待っていて「ウタさんですね」と案内するように歩きだした。

 (あれ…シンジさん、いないのか…)

 きょろきょろ見回しシンジの姿を探す。しかしどこを探しても見つけられず

 (おかしいな…)

 シンジがいないのは妙に思ったが、もしかしたら「今日は仕事が忙しすぎて手が回りそうにない」と判断して、代理で案内を頼んでくれたのかもしれない。そう思い直し、少し距離の開き始めた男を小走りで追いかけた。

 フワッ

「?!」

 進行方向から甘ったるいような、男臭いような…濃厚な人の匂いがした。衣装室も香水やら化粧品やらが混ざってカオスだったが、こっちの方が酷い。しかも前を歩いていた男がどんどん匂いの元へと突き進むのだから余計戸惑った。それから一分もせずに目的地に到着して

「こちらです」

 ( え………? )

 まさかの光景に、僕は目を見開く。

「はぁ、ああっ、だめ、んあっ」
「やぁ…っ、そこ、ん…っ」
「アアッ、いっちゃう、はあ、ああぁん…!」
「ンア~~ッ!気持ちい~っ!」

 そこは乱れに乱れた空間だった。ぱっと見はパーティ会場のようだが、構造としてはキャバクラに近く、それぞれの席にはコの字型のソファとテーブルが置かれている。どのテーブルにも酒が乱雑に置かれているが、この場で優雅に酒を傾ける者など一人もいなくて

「んああっ、もっと、してぇ…ッ!」

 綺麗なを乗っからせたり、押し倒したり。さっき半田とやった行為が可愛く思える程、濃厚で、激しく、ぐちゃぐちゃな…淫らな事をしていたのだ。


「――うええッ?!」


 ズザアッ!!と廊下の壁に飛び退る。

 (え、待って待ってどゆこと?!!僕まだ夢から覚めてないの???この世界ナニ?!!!怖すぎるって!!!)

 昨日まで普通に生きてきた“恋人いない歴=年齢"の僕にはあまりにも刺激が強すぎる世界だった。もちろんエロ展開は好きだけども。大好きだけども。流石にこんなとんでも展開(面接セックスからの女装からの乱交現場突入)はBLでも見た事がない。


 “ここから一歩でも外に出たら無法地帯になるよ"


 シンジの言葉を思い出す。

 (無法地帯…ほんとに無法地帯だ…というか僕のボンキ購入品(BL)はどこ???)

 当然だが、こんな乱交会場に面接者用ロッカーなんてあるわけがない。何かしらのなんだろうが会場ここに通されたって事は「僕も乱交に混ざれ」という意味に違いないわけで

 (いやあああ!むりむりむりい!助けて亮兄いいいっ!!)

 心の中で絶叫する。

「どうかされました?」
「え、あ、あ…これ…」

 案内人の男が不思議そうな顔をして「そこで立ってると迷惑になりますから」と壁から僕の体を引き剥がしていく。

「ちょ、ま、ま、まって…!」

 悲しいかな、待ってと引き止める声は周囲の声でかき消されて届かない。ずるずると奥のテーブルに連れられていく合間も前後左右から喘ぎ声が聞こえてきて、ぶっちゃけ僕からすれば阿鼻叫喚。半田に脱がされた時の百倍怖かった。会場が薄暗く、ソファからはみ出た白い肌がネオンに照らされているのがまた余計怪しさを増してて…泣きそうだった。これじゃ本当に風俗店だ。

 (…いや、待て、そうだった)

 シンジはガッツリ「風俗店」って言ってた。他に気になるワードがありすぎて流しちゃったけど、

 (ンモォォ!何を聞いてたんだ僕の馬鹿野郎ぉおぉ!!)

 シンジの説明を聞いた瞬間ダッシュで逃げておけばよかった、と今更後悔する。しかし、時すでに遅し。

「お待たせしました…“ウタ"です」

 僕は、どうしてか、風俗店のキャストとして駆り出されてしまったのである。



「君、すごく若そうに見えるけど何歳?マジの学生だったりする?」
「受付にも写真なかったよな。さては、新人さんか!ラッキー!」
「あ"ー酒飲みてえ」

 ソファには二十代後半ぐらいの、言ってしまうと兄貴ぐらいの年の男達が三人座っていた。左右から馴れ馴れしく話しかけられても、僕は怖すぎてぷるぷると震える事しかできない。酒を頼むなんてもっての外。みかねて俺と唯一隣合ってない男が係の者を呼びつけて全員分の酒を頼んでいく。すぐに酒は届き客の手に渡った(もちろん僕にも)。

「じゃ乾杯しますか!かんぱーい!」
「「かんぱーい」」

 三人が乾杯するのをグラスを握り締めながら見つめた。アルコールは二十歳になった日に兄貴と飲んで下戸ではないのはわかっているが、早く逃げないと周囲のお姉様達みたいに襲われてしまう。

 (今すぐ逃げなきゃっ!)

 グラスを置き、腰を上げた。

 ガタン

 しかし、テーブルに阻まれ膝が伸ばせず、もたもたしているうちに「何してんの~」と左右から伸びてきた腕によって元の位置に座らされる。

「照れ屋さんなのも可愛いけど、ちゃんとお仕事しないとダメだよ」

 男が肩に腕を回しながら囁いてきた。そして、当たり前のように頬に吸いついてくる。「ギャー!」って内心叫んだ。

「や、やめて、くださ…」

 細々と拒絶し、男の体を押しやる。拒否された男はむしろノリノリになって僕の顎を掴み、無理やり上を向かせ、ブチュっとマウストゥマウスしてきた。

 (ひいいいいいい!)

 ぞわあっと鳥肌が立つ。

「んんーっ!!」
「おいおい、早いって」

 逆側から、からかうような声が聞こえてきたが、そっちの男も学生服の合間から手を入れてきて…直接肌を弄られる感触が気持ち悪かった。

「やぁ…、め…っ」

 身を捩り、逃げようとしても、二人がかりで押さえつけられ身動ぎもできない。

「はぁ、う、…うぅー…っ」

 じわりと視界が滲んでいく。半田にも同じように体を触られたが、やられている事は同じでも、この男達と半田では全く感じ方が違った。男達の余裕のない乱暴な掌は全然気持ちよくない。時々爪があたって痛いし、何より、愛撫に優しさを感じない。

 (こ、こわぃ…)

「ううっ、ひっく、…うぅ、…っく…、ぐすっ、」
「お前ら落ち着け。そいつ泣いてるって」

 呆れたような声と共に僕の体をまさぐっていた手が離れていく。

 (え…?)

 滲んだ視界のまま顔を上げれば、僕と隣合ってない男が酒を片手に男達を引かせているのが見えた。

「ふぇ、ううっ、へ…?」
「お前は鼻水拭け。あと一旦こっち来い」

 男は泣いてる僕の腕を引き、自分の横、ソファの端の位置へと誘導する。

 (助けてくれた…?)

 あの二人とは友人関係に思えたがどうして助けてくれた(邪魔した)のだろう。不思議に思いつつ男の横顔を見つめていると、僕を左右で囲んでいた男達がブウブウと文句を垂れた。

「おーいー!ノンちゃん萎えることすんなよー!」
「そうだぜっ!これからって時にー!」

「うるせえ、猿共。“ガッツいて出禁にされねえよう見張っててくれ"って俺を呼んだろうが。また一年出禁にされたいのか?言っとくが、もう店長に口利きはしてやんねえからな。…した所で店長が許さねえだろうけど」

「「さーせんッ!望様!!僕ら静かにしてます!!!」」

 あれほど盛っていた二人が、望の台詞を聞いた瞬間、ピシッと姿勢を正し大人しくなった。

 (すごい…)

 望と呼ばれた男は「やっと静かに飲める」と満足気に頷き、手元の酒をぐいっと煽った。その気持ちのいい飲みっぷりに

 (…本当に酒目的なんだ、この人)

 と驚く。僕なんか一切眼中にない。それが逆にパニックになっていた僕の心を落ち着かせてくれた。


 “この人の隣なら襲われない”


 淫らに狂った世界で唯一の味方を見つけた僕はじーんと胸を熱くした。気付いた男が「ん?」と顔を向けてくる。

「なんだ、ずっとこっち見て…お前もこれ飲みてえの?」
「え、あ…その…」
「ああ…乾杯した酒はあの馬鹿共がひっくり返しちまったもんな。追加頼んで飲み直すか」

 酒の話となると一気に興味がわいたのか、さっきまでのつまらなそうな顔から一転して上機嫌に顔を寄せてくる。

「何が飲みたい?何でも頼んでいいぜ」
「い、いえ、…僕、そんなにお酒、強くないので…」
「少しなら大丈夫だって。それにさっきの酒、一口も飲んでなかったろ?」
「うっ」

 目敏い。僕に興味はなくても、酒の事はよく見てる。

「ここの店の酒、わりと旨いんだぜ」

 そう言って男はメニューでもあるパッドを渡してきた。これは一杯付き合わないと解放されない気がする。見知らぬ男と飲む気にはならないが、乱交をさせられるよりはよっぽどいい。一杯付き合ってトイレと言って抜け出そう。そこまで考えて僕は兄と飲んだ事のあるビールを選択した。
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