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10 よく考えて欲しい
しおりを挟む「……恋人が、こんな事をするのか?」
「あ、の、僕が、悪いから……」
「君が、なにが悪かったというのだ」
「……僕は、どんくさくて、店もクビになって、家も出ないといけなくなったから、だから……」
「……だから、殴られても仕方がないと?」
続けた騎士の言葉に、クリスはほんの少しほっとして頷いた。
「……そんな理由で暴行を加えて良いという道理などどこにもない!!」
騎士の怒鳴り声に、クリスは震えた。
「君を悪いという理屈さえ通ってないではないか……!!」
「で、でも、僕が、ちゃんとしてたら……」
怖くなって、クリスは必死で言い訳をする。どうして怒られているのかがわからなかった。怖かった。
けれど、騎士は厳しい表情のまま首を横に振った。
「クリス。よく聞いてくれ。その恋人の言うことはおかしい。それは不当なことだ。それはただの暴力だ。君は、それを受け入れてはいけない」
「あの、でも……」
「……私も仕事上暴力で自分より弱い者を制する事がある。だからこそ、安易に使う物ではないことを知っている。日常で振りかざしてはいけない物だ。大変な状況に陥った恋人を慰めるどころか、それを悪く言った挙げ句、怒りで暴行を加えるなど、ただの暴漢だ。恋人のする所業ではない」
「あ、の、でも……」
騎士の真剣さが理解出来ずに、クリスは困惑していた。
ちゃんと伝えられなかったからいけないのかな……。だって、自分がちゃんとできていれば、元恋人はそんなことをしなかったんだし……。じゃあ、詳しく話せばいいのかな。そしたら、騎士様はわかってくれるのかな……。
クリスはちゃんと話そうとして怖くなる。
こんな風に怒ってくれている騎士も、本当のことを知ればクリスが悪いことに気付いてしまう。そうすれば騎士も、クリスのことを嫌いになってしまうかもしれない。
クリスが口をつぐめば「君に怒っているわけではない」と、困ったように騎士が眉を下げる。
「あの、だ、大丈夫、です」
未だ怒りを抑えきれない様子の騎士だったが、クリスの困った様子に気付くと、ようやくその矛を収めた。
「先ほど言った私の言葉を、後でゆっくりで良いから、よく考えて欲しい」
「……はい」
騎士がクリスのために怒ってくれていた。それは泣きたいほどにうれしかった。でも、それだけで、十分なのだ。
元恋人を怒らせたことは悲しかったけれど、自分が悪いのは間違いないのだけれど、クリスは自分を悪くないと言ってくれた騎士の言葉だけで、救われる気がした。
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