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一話 始まり
しおりを挟む「重治、‥重治。起きてるの。…重治、…お父さんが呼んでるわよ」
「…。」
重治は、再三の母親の呼びかけわ無視して、ベッドの中から抜け出そうともせず、逆に布団を頭から被った。
中学生である重治にとって、部活であるバスケ部の練習が顧問の都合によって午後のみとなった貴重な日曜日であった。
「今日は、ゆっくり寝てるって、あんなに念押ししたのに…。」
「重治、何してるの。さっさと起きてきなさい。お父さん、すねて大変なんだから。」
二階の息子に対して何度も呼びかけるのは、重治の母親である茜、そしてこの息子の父親が重斗、この三人が竹中家の家族である。
竹中家は、あの戦国時代で名を馳せた名軍師、竹中半兵衛の子孫であり、平和ぼけした現代にまで伝えられるには、少しおかしな家訓が語り継がれ守られていた。
その中でもひとつ、取り分け理解しがたいものがあった。
子々孫々、武を学び知を学び半兵衛その人にまつわるすべての事柄を学び知ること。
長子これ必ず守るものなり。これやぶらば家督相続無きものとする。
そんな家訓のもたらされた竹中家に生まれた重治の竹中家に置かれた教育方針は…。
当然、言わずと知れた事となる。
学校での成績は中の下、得意科目といえば体育、特に秀でた所と強いていえば運動神経の良さのみ、至って平凡な中学生である。学校の授業に関してはである。
「いい加減にしなさい。‥もう母さん知りませからね……」
母親の呼びかけが無くなり静かになったことに重治は、急に不安になってきた。
父、重斗がすねて取り返しのつかなくなる前に起き出すか、どうするか思案しだしたそのときだった。
「重治、今すぐ道場に来なさい。来ないとお父さん、もう口きかないんだから、いいね。」
重治は、慌てて布団から抜け出した。素早く着替えを済まし、道場へと向かうことにしたのだった。
竹中家は、時代劇にでもでてききそうな家の作りで、重治の祖父が死ぬ以前は、道場で珍しい古武術が習得できると有名な道場でもあった。
「入ります。」
深くお辞儀をし、道場に入った重治は、先に座った父親の前に座り再びお辞儀した。
二人の間に流れた、しばしの沈黙の後に、父、重斗がゆっくりと口を開いた。
「…重治、‥おめでとう。」
突然の父の言葉に重治は、何のことだか解らずに首をひねった。
しかし、それがすぐに自分の誕生日が今日であり、14回目となるこの日は、竹中家にとって特別意味のあるその日だということを思い出したのである。
「あ、有難うございます。」
「‥うむ。今日、この日をそなたの元服の日とし、家宝のこの刀を譲り渡す。」
そういうと、重斗は、とても家宝とは言えそうもない、みすぼらしい小刀を重治の前に差し出した。
「これからも、竹中の名を辱めることのないよう精進するように。どうも、お前は社会の点が良くないようだ。社会と言えば歴史、‥よもや家訓を忘れてはいまいな。」
「父上、父上の認識はちょとズレております。社会の中には、地理や世界史があり、日本の歴史はほんの少しです。‥言っておきますが、買い与えていただけるゲームでさえ信長の野望、太閤立志伝。これで戦国時代が苦手である訳ないじゃないですか。」
そう言いながら父親から渡された小刀を手に取り、しばらく眺めた後、柄に手をかけ鞘から刀を抜こうとした。
抜けるはずはなかった。
いや、抜けるはずのないことを重治は、知っていた。
爺様っ子であった重治は、爺様の部屋で、いろんな話を聞くのが大好きであった。
ある時、家宝の小刀を重治に持たせて、抜いて見るように言った事があった。幼い重治がどんな事をしてみてもその刀は、今試みた通り、決して抜ける事はなかった。
そんな重治の様子を見て爺様は、笑いながらこう言った。
「やはり、抜けぬか‥。ご先祖様からの言い伝えによると、いつかこの刀を抜く者が現れるであろう。それまで家訓を守り、この刀を伝えていけとある。…いつかはこの刀を抜くものが現れるかの…。」
「…………」
その時の重治には、爺様の言葉が何かの呪文のように聞こえ、全く理解出来ないにも関わらず、何時までも頭の中に響いていた。
「…重治には、ちと難しかったかのぉ。爺様から重治のお父さんへ、それからお父さんから重治、お前に。…爺様にはそれが見ることができるかのぉ…。」
笑いながら頭をなでてくれた爺様を重治は刀を持つことで、思い出していた。
「はい、おしまいおしまい。これでわしの役目もやっと終わった。…バトンタッチしたからね。」
そういって父、重斗は大きな重荷から解放されたかのように、急に脳天気に口笛を吹きながら道場からでていってしまったのである。
一人、道場にとり残された重治も、暫くして思い出のある刀を持って、自分の部屋へ戻ることにし、立ち上がった。
「し、しまったぁ、部活に行く用意。全く、のんびり寝てられるはずだったのになぁ…。」
自分の部屋に急いで戻った重治は、早速用意にとりかかった。
大きめのタオルに着替えの服、それに買ったばかりのオニューのバッシュー。これらをカバンに詰め込み背中にかついで、部屋から出かけようとした。
その時であった。
机の上に無造作におかれた家宝の刀が、ぼんやりと発光しているように感じられたのである。
「…なんだ?」
重治は、おそるおそると刀を手に取ると、顔に近づけ、いろんな方向から家宝である小刀を調べみた。
そして最後に、抜けるはずもない刀を抜いてみた。
あれほど抜けなかった刀。
そんなこの刀がこの時、何の抵抗もなく、するりと鞘から抜け出たのである。この一瞬をずっと待ちわびていたかのように。
家宝であるそんな小刀が鞘から抜け放たれたそのとたん、あたりは刀を中心にして、まばゆいばかりに光り輝き、しだいにその光の球は、どんどんと大きくなり、刀を手にした
重治をも包み込んだ。
抜き放たれた刀は、鞘に収めても光が収まることはない。
まばゆい光に飲み込まれた重治は、途方にくれていた。
右をみても左をみても、自分の周りはすべて光りで輝いていたのだ。
しかし、そんな光り輝く真っ白な輝きの世界はそう長くは続かなかった。
やがて、ゆっくりと、眩しすぎる程の光は、霧が晴れてくるように徐々にと薄まり、周りの風景が視界に現れてきたのである。
「…いったい、どうなってんだ?」
重治は、輝きがおさまった刀を鞘から再びぬいてみた。刀は、何の抵抗もなく抜くことができた。
しかし、それが再び光り輝き出すことはなかった。
ただの何の変哲もない、普通の刀になってしまっていたのである。
光の中から解放されて、落ち着きを取り戻した重治は、抜いた刀を再び鞘におさめ、視界として現れ始めた、あたりの風景の様子を丹念にうかがい観察し始めた。
「……?、どこが、どうという訳じゃ無いんだけどなあ…」
「確かに間違いなく、俺、家にいたよなぁ……」
重治の今いるその場所からは、家一件、視界に入ることはなく、周りに、人、一人として見つけることができない。
重治は、悩んだ。
これからどうすべきか。そしてどうすればいいのか。
重治は、まず、自分のおかれた状況確認をすることにした。
重治が冷静な行動をとれたのは、これまでに重治がシミュレーションゲームの中で培ってきた能力のおかげかも知れなかった。
持ち物としては、部活の為に用意したカバンそして今の状況の原因となった家宝の刀これだけである。
重治は、まずカバンの中のバスケットシューズをだした。
「こんな時に、はくことになるとはなあ、練習の時におろすの楽しみにしてたのに…。」
靴ひもをしっかりと締め、再び、辺りを念入りに調べる事にした。調べる範囲を広げていくことで、少し離れた場所に川が流れていることを発見していた。
川縁に佇んだ重治は、次に打つ手を考えていた。
川に沿って行くことで、やがては人のすむ場所にたどり着くであろうという可能性に賭けることにしたのである。
「何か、嫌な予感がするんだよなあ。いったい、ここはどこなんだ?夢じゃないのは解るけど…」
重治は、独り言をつぶやきながら川に沿って歩みを進めた。
「この道、舗装してないし、こんな幅じゃ車は通れそうにないし…、ほんとに俺のいた世界なのか?‥どうも違和感が感じられてしょうがない。」
辺りの様子に注意をはらいながらも重治は歩みを進めていった。
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