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第六十九話 凄惨
しおりを挟むルタとロウは口を挟まずに、その話を聞く。男の話にはまだ続きがありそうだった。
「持っていたナイフは、どこにでも売ってるような小さな普通のナイフだ。冒険用とか、魔物と戦うためのものとか、そんなんじゃないありふれたやつだ。テメエらに使ったのも同じのものかは知らねえがな」
昨夜、ルタ達を襲った通り魔が使ったのも、男が言った普通の小さなナイフだった。ただし、暗器としてもう一振り隠し持っていたが。
「だが問題はそこじゃねえ。問題は……奴が……奴がオレ達をいたぶったことだ」
「いたぶった?」
男の目付近に暗い陰が入る。仲間の二人の顔にもまた陰鬱とした雰囲気がまとわれる。男は仲間の一人を親指で示しながら。
「最初にやられたのはこいつだ。オレ達があっという間に刺されて逃げることも声を上げることも出来なくなったあと、奴は倒れてるこいつの身体をあちこちメッタ刺しにしやがった」
「…………」「…………っ⁉」
言われた仲間のほうを見ながら、ルタの顔が一層険しくなり、ロウがショックを受けたように口元に手を当てる。
男は次にもう一人の仲間へも親指で示して。
「次にやられたのはこいつだ。同じように身体のあちこちをメッタ刺しにされた」
「…………」「…………っ⁉」
最後に男は自分自身を親指で示す。
「で、最後がオレだった。途中で気絶したからよく覚えてねえが、医者からは生きてるのが信じられないって言われた。それくらいヒデエ有り様だったらしい。オレも医者に聞かされただけだが、どんな状態だったか言ってやろうか?」
ルタは依然ショックを受けている様子のロウや、チラチラとこちらを気にしてる様子の他の入院患者を横目で見ると。
「いや、詳しいことはあとでその医者から聞く。いまはよしたほうがいいな」
「…………ふん……」
男の話振りからして、かなり凄惨な状態にされたことは想像に難くなかった。いまのロウや他の患者に聞かせれば、間違いなく悪夢にうなされたり、トラウマになるかもしれないくらいには。
ルタが感心したような声を出す。
「だけど、案外すげえんだな、この町の病院も。そんな重傷患者でもすぐに元と同じくらいに治せんだから」
男の話が本当であれば、相当な怪我を負わされたはずだ。それを一日二日程度でこれくらいに治せるのだから、かなり腕の良い医者がいるのだろう。無論、治療に関する高レベルのスキルを持っているような。
ルタのその感想は聞こえていたはずだが、しかし男はそれには応じなかった。
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