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昼休みを告げるチャイムが鳴った。
始まりも終わりもチャイムには正確な数学の先生が出ていき、教室はすぐに騒然となる。
お昼を一緒に食べるグループが椅子を持って、あるいは机を動かしてそれぞれのグループを作り始めた。
わたしはそれを横目に見えながら、勉強の振りのためだけにだした教科書とノートを机の中にしまいこむ。
何気なく前をみると特に何かをするわけでもなく、座ってぼんやりしている男子の姿が目に入る。
名前なんだったかな、と思いだそうとして出てこなかった。
そういえば彼とはしゃべったことが一度もない。
クラスではいつも一人だって言っていた、トヨジの姿がだぶる。
「ねえ、君」
呼んでみたけど反応なし。
もう一度呼ぼうかと思ったら所在なさげというか、なにか挙動不審な感じでこっちに振り返った。
どうやら自分が呼ばれたか自信がなかったみたい。
「うん、君。クラスの子と話しないの?」
「え、えと。う、うん。しゃべるの、苦手だから」
「話題がないの? アニメとか見るならあっちの連中とは話しが合わないかな」
わたしはいつも教室の窓際のすみっこで、いつもアニメと漫画の話しをしている三人組を親指で指した。
クラスからは浮いているが、彼ら同士は強力な絆で仲が良い。
「ぼ、ぼくはアニメとかみないから」
「そうなんだ。普段家で何をしているの」
「古い映画を見たりとか。みんなあまり知らないような奴」
「へえ、どんなの?」
自分たちで撮影していることもあって、若干興味が湧く。
彼は映画のタイトルをいくつか挙げてくれたけど、正直さっぱりわからない。
全米が泣いたとかのキャッチコピーが見出しに踊るような、有名な映画では無いようだ。
でも彼がじっくり映画を見ているのはよくわかる。
おもしろいのって聞いたら、やや遠回しな言い方でそう言った。
「自分が楽しいと思うのならはっきりとそう言っていいよ。今度面白いのがあったら教えてね」
そう彼に少し笑いかけると、わたしは席をたった。
十月になって衣替えをしたが、しばらくは冬服の暑さに悲鳴を上げそうだった。
最近では、ようやくいい具合になってきたところだ。
気温と服装のバランスと同じで、わたしはクラスでも特に問題なくやれている。
この問題なくというのはトヨジのいうぼっちになることなく、普通にクラスメイトと話しをして過ごしているという意味。
でもさすがに昼休みは一人になる。
元々いつものメンバーで一緒にお昼を取っていた。
学校の居場所というのは、お昼休みが一番はっきりとわかる。
そしてこの時期だと、とっくにお昼を一緒にするメンバーというのは固定されていた。
クラスにもう、居場所はない。
そのときにリノ達とすれ違ったが、相変わらずひそひそと意味ありげに笑い合うだけだ。
他の女子もだいたい同じ。
カズキはなんだか言いたそうだったけど、それだけだった。
ゆっことも目が合う彼女はすごく気まずそうだった。
一学期の終わり頃はわたしのように彼女がのけ者にされていた。
最近元に戻ったようだが、彼女が受け入れられたというよりわたしに対する当てつけだろう。
それが彼女にもわかっているから、気まずいに違いなかった。
もっともゆっこには他に選択肢は無い。
一度一人になってそれが堪えているから。
最近は昼休みになると図書室で演劇だとか発声とか、演技に関係する本を借りている。
そのまま同じ特別等にある階段の一番上に行き、そこの踊り場でお弁当を食べるのが日課になりつつあった。
下が図書室位しか無く、人が上がってくることが無いので一人で食事をするには良いところだ。
本を読みながらお弁当をつつく。
今まで本とかほとんど読んだことが無いけど、自分達で映画を撮っているからかすごくおもしろい。
本に集中していたらしく、すぐに昼休みを終える予鈴が鳴った。
慌てて残りのお弁当を平らげると、荷物をまとめて立ち上がった。
あの駅の向こう側に思いをはせながら、階段をとんとんと降りていく。
始まりも終わりもチャイムには正確な数学の先生が出ていき、教室はすぐに騒然となる。
お昼を一緒に食べるグループが椅子を持って、あるいは机を動かしてそれぞれのグループを作り始めた。
わたしはそれを横目に見えながら、勉強の振りのためだけにだした教科書とノートを机の中にしまいこむ。
何気なく前をみると特に何かをするわけでもなく、座ってぼんやりしている男子の姿が目に入る。
名前なんだったかな、と思いだそうとして出てこなかった。
そういえば彼とはしゃべったことが一度もない。
クラスではいつも一人だって言っていた、トヨジの姿がだぶる。
「ねえ、君」
呼んでみたけど反応なし。
もう一度呼ぼうかと思ったら所在なさげというか、なにか挙動不審な感じでこっちに振り返った。
どうやら自分が呼ばれたか自信がなかったみたい。
「うん、君。クラスの子と話しないの?」
「え、えと。う、うん。しゃべるの、苦手だから」
「話題がないの? アニメとか見るならあっちの連中とは話しが合わないかな」
わたしはいつも教室の窓際のすみっこで、いつもアニメと漫画の話しをしている三人組を親指で指した。
クラスからは浮いているが、彼ら同士は強力な絆で仲が良い。
「ぼ、ぼくはアニメとかみないから」
「そうなんだ。普段家で何をしているの」
「古い映画を見たりとか。みんなあまり知らないような奴」
「へえ、どんなの?」
自分たちで撮影していることもあって、若干興味が湧く。
彼は映画のタイトルをいくつか挙げてくれたけど、正直さっぱりわからない。
全米が泣いたとかのキャッチコピーが見出しに踊るような、有名な映画では無いようだ。
でも彼がじっくり映画を見ているのはよくわかる。
おもしろいのって聞いたら、やや遠回しな言い方でそう言った。
「自分が楽しいと思うのならはっきりとそう言っていいよ。今度面白いのがあったら教えてね」
そう彼に少し笑いかけると、わたしは席をたった。
十月になって衣替えをしたが、しばらくは冬服の暑さに悲鳴を上げそうだった。
最近では、ようやくいい具合になってきたところだ。
気温と服装のバランスと同じで、わたしはクラスでも特に問題なくやれている。
この問題なくというのはトヨジのいうぼっちになることなく、普通にクラスメイトと話しをして過ごしているという意味。
でもさすがに昼休みは一人になる。
元々いつものメンバーで一緒にお昼を取っていた。
学校の居場所というのは、お昼休みが一番はっきりとわかる。
そしてこの時期だと、とっくにお昼を一緒にするメンバーというのは固定されていた。
クラスにもう、居場所はない。
そのときにリノ達とすれ違ったが、相変わらずひそひそと意味ありげに笑い合うだけだ。
他の女子もだいたい同じ。
カズキはなんだか言いたそうだったけど、それだけだった。
ゆっことも目が合う彼女はすごく気まずそうだった。
一学期の終わり頃はわたしのように彼女がのけ者にされていた。
最近元に戻ったようだが、彼女が受け入れられたというよりわたしに対する当てつけだろう。
それが彼女にもわかっているから、気まずいに違いなかった。
もっともゆっこには他に選択肢は無い。
一度一人になってそれが堪えているから。
最近は昼休みになると図書室で演劇だとか発声とか、演技に関係する本を借りている。
そのまま同じ特別等にある階段の一番上に行き、そこの踊り場でお弁当を食べるのが日課になりつつあった。
下が図書室位しか無く、人が上がってくることが無いので一人で食事をするには良いところだ。
本を読みながらお弁当をつつく。
今まで本とかほとんど読んだことが無いけど、自分達で映画を撮っているからかすごくおもしろい。
本に集中していたらしく、すぐに昼休みを終える予鈴が鳴った。
慌てて残りのお弁当を平らげると、荷物をまとめて立ち上がった。
あの駅の向こう側に思いをはせながら、階段をとんとんと降りていく。
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