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67.転売屋は面白い事を思いつく

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次の日になっても懇親会の連絡は来なかった。

もちろん飲み過ぎなかった俺はいつものように店に立っている。

開店と同時になじみの冒険者がやって来て、素材の買い取りと発見した武器の買い取りを依頼された。

『ロングノーズの硬革。長い鼻と足の裏は非常に硬い革で覆われており、足の裏は防具などに流用されている。鼻は煮込むと柔らかく美味。最近の平均取引価格は銅貨80枚、最安値は銅貨62枚、最高値銅貨94枚最終取引日は五日前と記録されています。』

『鋼の長槍。鉄よりも固い鋼で作られており、壊れにくい。水属性が付与されている。最近の平均取引価格は銀貨70枚、最安値が銀貨30枚、最高値金貨1枚、最終取引日は42日前と記録されています。』

ロングノーズと聞いて最初に思い浮かべたのは象のような姿だったが、素材辞典によると象ではなくアリクイのような見た目らしい。

あれは鼻ではなく口が長いようだが、それの鼻バージョンのようだ。

体高は1m強だが体重がかなり重く100kgを超える事もあるらしい。

その体重を支える為に足の裏がかなり硬くなっており、それを防具に流用するそうだ。

ちなみに買い取った理由は素材として半分、食材として半分って所かな。

足四本と鼻をいきなり置かれた時は何事かと思ったけどな。

ちなみに武器は銀貨45枚での買い取りとなった。

足に関しては加工が必要なので後でエリザに解体してもらうとしよう。

って、二人とも遅いな。

まだ寝てるのか。

「おはよ~。」

「・・・おはようございます。」

「おぅ、おはよう。とりあえず二人ともすごい顔だから顔洗ってこい。」

「は~い。」

とか何とか言っていたら上から降りてきた。

昨日しこたま飲んだからだろう、二人とも顔色が良くない。

特にミラは人が変わったかのように飲んでいたな。

同伴に選ばれたことがよっぽど嬉しかったのか、何度もお礼を言ってきた。

普段大人しいだけにあそこまで人が変わると新鮮だ。

「あ、あの・・・。」

「どうした?」

エリザはさっさと中庭の方に向かったようだが、なぜかミラは立ったままだ。

しんどいのか?

「あの・・・昨日は大変申し訳ありませんでした?」

「昨日?」

「その・・・恥ずかしい所をお見せしまして。」

「それに関しては気にしてない。むしろ新しい面を見れて楽しかった。」

「楽しかった?」

「あぁ、大人しいミラもあんな風になる事があるんだな。」

本人の名誉の為に言っておくが決して脱いだりはしていない。

ちょっと饒舌になってボディータッチが多くなったぐらいだ。

ちなみにエリザはキス魔になる。

もちろん不特定多数にするほど錯乱することは無いが、ことあるごとにキスをねだってくるのでぶっちゃけめんどくさい。

それを見たミラが自分も!と絡んできて二重のめんどくささがあった。

他の男たちがうらやましそうに見ていたような気もするが、俺の女だ。

触ろうものならエリザの鉄拳が火を噴くことだろう。

どうなっても俺は知らないからな。

「忘れて・・・もらえませんよね。」

「出来れば素面の時もあれぐらい絡んでくれていいんだぞ?」

「それは無理です。」

「残念だ。ほら、顔を洗ってこい。飯は出来てる。」

「何から何まで申し訳ありません。」

二日酔いの二人の為に胃に優しい朝食を用意してみた。

野菜のスープに柔らかいパンを浸して食べる感じだ。

香辛料は入れず野菜本来の甘さが引き立っている。

個人的には美味しいつもりだが、どうだろうか。

エリザを追いかけミラが裏庭の方へ向かうのを見送り、再び店の方を見る。

二人とも起きたようだし昼からは仕入れに出るかな。

仕込みはまだまだ足りない。

もっともっと稼がなければ来年の税金分はまだまだ足りない。

「すみません。」

と、その時入り口のベルが鳴り誰かが中に入ってきた。

「いらっしゃいませ。」

「買い取りをして頂けると聞いてやってきました。」

「もちろんです、お品を拝見しても?」

入ってきたのは俺と同い年ぐらいの青年だった。

あぁ、実年齢じゃなくこっちの年齢ね。

彼は無言でカウンターまで来ると小さな何かをトレイの上に転がした。

その数五つ。

見た感じ宝石とかではない。

なんだろう、パールみたいな感じかな。

「これなんです。」

「五つありますね、触っても?」

「どうぞ。」

触らないと鑑定できないのが鑑定スキル。

そして相場スキルだ。

見るだけで出来たら最高なんだけどなぁ・・・。

スキルアップとかしないんだろうか。

小指の先程の乳白色のソレを一つ手に取ってみる。

『涙貝の雫。ティアーズシェルが体内で生成した宝石。粒の大きさによっては家が買えるとも言われている。主に宝飾品に加工されるが、大きさが足りない場合は粉末にして化粧品にも使われる、非常に高価。最近の平均取引価格は金貨2枚、最安値は金貨1枚と銀貨50枚最高値金貨3枚と銀貨70枚。最終取引日は273日前と記録されています。』

ほぉ、やはり真珠系か。

結構高価だが、大きさの基準が表示されないのが痛いな。

一体どの大きさでこの相場なんだろうか。

実績が無いだけに推測でしか交渉出来ないのが悔しいな。

「涙貝の雫ですか、珍しいですね。」

「わかりますか。」

「大きさはまちまちですが、この光沢間違いないでしょう。形がいびつなところを見ると加工には向かない品のようだ。」

「そうなんです。仕入れをしたんですが、先方に騙されてこのような物をつかまされてしまいました。」

自分で手に入れたのではなく仕入れに失敗したと。

なるほどなるほど。

なら買い叩く理由が出来たな。

「それは災難でしたね。ですが粉末にするなり活用する方法は他にもあると思われますが、どうしてここに?」

「ここなら高く買い取ってくれると噂で聞きまして。粉末にもできますが、そうすると価値が一気に下がってしまうんです。」

「化粧品としては高価ですがやはり宝飾品には敵いませんか。」

「こちらではいくらで買って頂けますか?」

「そうですね、加工できませんのでこちらでも扱いに困ります・・・。一つ銀貨50枚、五つで金貨2.5枚と行った所でしょうか。」

「たったそれだけ!?」

完成品であの価格と仮定して、不良品がその半値。

そこからさらに減額するとこの金額と行った所だろう。

見たところ真球ではなく少し歪になっている程度だが、こういうのは真球であるからこそ価値がある。

そうでない物の価値が一気に下がるのは致し方ない事なのだ

「恐らくその様子ですとベルナの店にも行ったんでしょう。あそこはもう少し安かったのでは?」

「・・・そうです。」

「悔やむのであれば先に取引相手に文句を言うべきだと思いますが・・・。相手は?」

「とっくに逃げてしまいました。怪しいなとは思ったんです。でも、涙貝の雫は紛い物が出にくく構造上真球であるのが殆んどだと聞いていたものですから・・・。」

それでろくに確認もせず買ってしまったと。

例の肉のように流用できるのならともかく、これはそうし辛い品だからなぁ・・・。

「ねぇ、どうしたの?」

「お客様の前だ、静かにしてろ。」

「あ、ゴメンなさい。」

俺の肩越しにエリザが商品を覗いてきたのでそれを咎める。

するといつも以上に大人しく引き下がった。

「涙貝の雫だ、お前も何度かは見たことあるだろ。」

「え、あのティアーズシェルが落す珍しい奴でしょ?見たことある!」

「宝飾品としては一級品だ。これだけの数がそろう事はなかなかないだろう。」

「でも丸くないのね。」

「そうなんだ。」

「でも、これ綺麗。まるでお月さま見たい。」

ん?

月みたいだって?

確かに満月が少し欠けたように見えるが・・・。

この世界にも月と呼べるものが夜浮かんでおり、元の世界のように満ち欠けを繰り返している。

違う所と言えばその大きさだろうか。

倍ぐらいの大きさがあるんだよな。

おかげでクレーターが良く見える。

そこから察するにこの世界にも宇宙空間というものがあるようだが・・・いや、その辺はどうでもいい話だ。

エリザはいびつな形と、うっすらと見える模様から月みたいと思ったんだな。

他の四つも綺麗な乳白色ではなくどれもうっすらと模様が浮かんでいる。

見方によっては月に見えなくもない。

「他の四つもそんな感じだな。」

「この二つはお揃いでしょ、それでこの二つもお揃い。」

「お前にはそう見えるんだな。」

「え、シロウには見えないの?」

「あぁ。男と女の違いみたいなもんだ。なるほど、そういう解釈もあるのか。」

なら別の使い方もある。

別に真球じゃなくてもいいじゃないか。

違うのなら別の意味を与えてやればいい。

そうすれば別の価値が産まれることだろう。

丁度となりにいい店があるじゃないか。

お願いしてみるのも手かもしれない。

「ちなみに、これはいくらで買われたんですか?」

「全部で金貨7枚です。」

「では金貨4枚出しましょう。金貨3枚は勉強料と思う事ですね。」

「え、でもさっきは・・・。」

「騙されたと聞いてあの値段を出すのは私も良心が痛みます。この値段で無理なら他を探してください。もっとも、他にないと思いますが・・・。」

「わかりました、その値段でお願いします。」

「まいどありがとうございます。今代金をお持ちします、お待ちください。」

トレイを持って店の裏へと入る。

金庫からお金を取り出し、すぐに表に戻った。

「では金貨4枚です。」

「ありがとうございます。」

「いいえ、いい取引が出来ました。次からは気を付けることですね。」

「はい、そうします。」

「またどうぞ。」

ショボショボと肩を落として青年は去って行った。

300万の勉強代は決して安くは無いが、あの様子じゃそれなりに金は持っているんだろう。

俺なら300万損したってなったら卒倒してるね。

でもそんな感じじゃなかった。

せいぜい損したなぁ、その程度にしか見えない。

よっぽどの金持ちなのか、それとも馬鹿なのか。

鑑定スキルのおかげで偽物をつかまされることは無いからそれだけは安心できるな。

「ねぇ、それどうするの?真球じゃないと高くないんでしょ?」

「お前がヒントをくれたからな、ちょっと手を加えるつもりだ。」

「それで高く売れるの?」

「恐らくな。やってみないとわからないが、その可能性は十分にある。」

「ふ~ん。」

興味なさげに五つの宝を見つめるエリザ。

とりあえず一個加工してみてからだが、そんな顔してると上手く行った時に分けてやらないからな、なんて思うのだった。
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