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203.転売屋は犯人と交渉する

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「その手は何?」

「敵意は無いって事を伝えたかったんだが?」

「てっきり私に触りたいのかと思っちゃったわ。」

「さっきも言ったように女には困ってないんだ。それに、自意識過剰で気の強い女は好みじゃなくてね。」

「ひどい言われようね。」

「だがそうだろう?」

「気の強いのは認めるけど、自意識過剰っていうのは心外だわ。自分が好きなだけよ。」

それを自意識過剰って言うんじゃないだろうか。

それともナルシスト?

そう考えると確かに違うのかもしれないが、まぁどっちでもいい。

「で、交渉のテーブルにはついてくれるのか?」

「私を捕まえたいわけじゃないのね。」

「あぁ、俺は今の状況を改善したいだけだ。いい加減自由に外を歩きたいんだよ。」

「私だって貴方を監視するのに疲れてきたわ。」

「なら監視しなかったらいいじゃないか。」

「そういうわけにはいかないわよ。私も仕事なんだから。」

つまりお互いに譲れない部分があるという事だ。

向こうは仕事の為、こっちは自由の為。

さて、どこまで妥協できるかな。

「そもそもそっちが俺を監視する理由は、ビアンカに接触しないかだろ?」

「えぇ、私の邪魔をするなら貴方を殺すわ。私じゃなく、私の事が大好きな男たちがね。」

「で、俺を殺した報酬に抱いてやると。」

「男って単純でしょ?」

「それを俺に言われてもなぁ。単純なのは認めるが。」

「認めちゃうんだ。」

「エリザだってその辺はわかってるだろ?」

「まぁね。」

俺は単純な男だ。

『金儲けがしたい。』

その為だけに生きているからな。

その為には手段は択ばない・・・つもりでいる。

まぁ、多少そうじゃない時もあるがそれはご愛敬ってやつだ。

「彼女は私の大切な商品なの、事情が分かっていて金を貸すなら容赦しないから。」

「先に言っておくが別に俺はアイツを助けたいわけじゃない。確かに助力を求められたが丁重にお断りした。」

「知ってるわ、彼女あの後泣いていたわよ。」

「知らねぇよ、俺は金にならない事はしないんだ。」

「確か薬師の奴隷を抱えていたわよね、錬金術師は薬師同様に儲かるわよ?」

「それは他所の話だろ?ここにはもう三人も錬金術師がいるんだ、古参の錬金術師を無視してまで新米に仕事を頼むような奴はいないさ。それが例え仕事が出来るやつでもな。」

「じゃあ本当に助ける気はないの?」

「そこが誤解だって言ってるんだ。」

金にならない相手を助けるつもりはない。

アネットもミラも俺のために働き、金を運んでくる。

エリザもそうだ。

冒険をして俺の為に見つけた物を運んでくる。

だから手元に置いているんだ。

金を生まない女に興味はないよ。

「本当に、お金は貸さないのね。」

「あぁ、俺は金貸しじゃない買取屋だ。もちろんあいつがそれなりの品を持ってきたら買取もするが、色を付けることはしない。それは約束しよう。」

「それを証明する方法は?」

「もう面も割れてるんだ、自分で確認しにくればいいだろ。適正価格で買取しているか、取引所の履歴を見れば誰でもわかる。」

「面倒だけど、確かにそうね。」

「わかってもらえたようで何よりだ。俺は金を貸さない、それが分かれば俺をつけ狙う理由は無くなるよな?」

「絶対って言葉はないわ。」

「それを言われたらそもそも交渉すらできないだろ。」

信用してもらえないのならばそもそも交渉などできるはずがない。

「でも、貴方が本気で言っているのもわかる。色々と調べさせてもらったけど、本当にお金儲けしか興味ないのね。」

「それが楽しみだからな。」

「女よりも?」

「女は金で買えるが、金は女では買えない。それはお前が一番わかっていると思うんだが?」

「ふふふ、そうね。」

「横で聞いていると悲しくなるわ。」

「今更だな。」

「もちろんわかっているわよ、ねぇルフ。」

ブンブン。

珍しくエリザの問いかけに返事をする。

俺とルフの関係はあくまでも利害関係の一致で成り立っている。

ルフは俺の為に畑を守り、俺はルフに食事と寝床を提供する。

その関係が変わるのであれば俺達の関係もそこまでという事だ。

「わかったわ、仕事だから監視は続けるけど、ビアンカに何もしないのならば貴方を狙う事はしない。」

「その言葉を聞きたかった。これで安心して出歩けるよ。」

「本当にシロウを狙わないのね?」

「えぇ、だから貴女も彼女の肩を持たない事ね『不倒のエリザ』。」

「なんだ、知ってるんだ。」

「えぇ。彼女を連れてダンジョンに潜っているみたいだけど、最近はあまり収穫が無いみたいね。」

「あの黒づくめの連中は貴方の差し金?」

「そういう事。常に監視しているから、そのつもりでいてね。」

この前ダンジョン前で聞いた話は本当だったのか。

エリザもそれに気づいていたようだ。

脳筋なのに。

「なぁ、一ついいか?」

「何かしら。」

「偶然にも当たりを引いて借金を返済出来たらどうするんだ?」

「その時はその時よ。彼女が自分の力でお金を稼いで返済したのならば文句はないわ。」

「だが、お前の依頼主が黙ってないだろ。」

「私は借金を回収したいだけ、依頼主は貸し損じが出た時の保険みたいなものよ。」

「金を回収できなかったら依頼主から回収できると。」

「だからどっちに転んでも私に損はないの。お分かり?」

なるほどなぁ。

そう言う部分だけ切り取れば真っ当な金貸しと言えるだろう。

借りたお金は返しましょう。

返せないのなら・・・。

そもそもそんな相手に金を借りたのが間違いって話だ。

いや、今回の場合は別の場所で金を借りてその債権をこの女が買った。

とはいえ借金さえしなければこんなことにならなかったんだもんな。

俺も気をつけよう。

「あぁ、よくわかった。問題ない。」

「そういう事。」

「エリザ、ルフ、帰るぞ。」

「え!このままにしていいの?」

「さっきも言ったように何か犯罪を犯したわけじゃない。証拠がないんじゃ通報しても意味ねぇよ。」

「でもビアンカにお金を貸してるし。」

「金を貸して捕まったんならお前に金を貸した時点でアウトだよ。」

「うぅ・・・。」

せっかく追い詰めたのにという感じだが、俺からしてみればかなりの収穫があった。

相手がどれだけの事を把握しているかが分かったし、何より俺への監視が緩む。

さらにも取ったので言うことなしだ。

後はどうやってそこにもっていくかだな。

「っと、最後に良いか?」

「何かしら。」

「名前、聞いてなかったな。」

「そういえばそうね、シモーヌよ。」

「じゃあな、シモーヌ。もう会わない事を祈るよ。」

「それは貴方次第ね。」

ヒラヒラと手を振って裏路地を後にする。

三人・・・じゃなかった二人とも無言のままルフを畑に帰して家に戻る。

「おかえりなさい!遅いので心配していました。」

「心配かけたな、大丈夫だ問題ない。」

「何が問題ないよ、大変だったんだから。」

「お前は大変じゃなかっただろ。」

「どういう事でしょう。」

「ビアンカを狙っている金貸しに会ってきたのよ。」

「えぇ!」

ミラが中々のリアクションを返してくれた。

ここまで驚くのは珍しい。

「普通はそういう反応するわよねぇ。」

「大丈夫だったのですか?」

「あぁ、俺への監視を緩める事と、ビアンカを直接助けなければ命を狙われない事を確認してきた。」

「では出歩けるようになったのですね。」

「そういう事だ、せっかくだしこのまま露店を出しに行ってくる。エリザ。」

「冒険者ギルドに報告でしょ、わかってるわよ。」

「ニアに言えば羊男シープにも伝わるからな、便利で助かる。」

「伝言板か何かだと思ってるんでしょ。」

そう言うわけじゃないが・・・いや、そうかもしれない。

向こうだってエリザに言えば俺に伝わると思っているしおあいこだろう。

「アネットはどうした?」

「まだ寝ておられます。昨日も遅くまで製薬されていたようですので。」

「無茶をするなって言っても聞かないだろうしなぁ、好きにやらせるか。」

「ねぇ、手助けをするなって脅してくるならどうしてアネットはいいの?」

「そういえばそうですね。」

「シロウ経由でお金を貸すっていう手もあるわけじゃない?まぁ、しないけど。」

「俺がそれをしないと思っているのか、そもそもアネットじゃ稼げないと思っているのか。それか、アネットが助けることを前提に動いているかだな。そうじゃないとこの街に入った時点で消されてるだろ。」

俺の大事な稼ぎ頭なんだから勝手に死んでもらったら困る。

でもシモーヌはアネットに対して何も言及しなかったのは確かだ。

こればっかりは本人に聞いてみないとわからんな。

「一応アネット様には状況をお伝えしておきます。シロウ様も引き続きお気を付けください。」

「監視が緩んだだけで監視されてないわけじゃない、気を付けるさ。」

ともあれ、後ろから刺される心配がなくなっただけでも気分は全然違う。

この間は薬を使っての自由だったので物足りなかったんだよな。

一先ず久方ぶりの自由を堪能するか。

「じゃあ準備をしていってくる。」

12月はまだ始まったばかりだ。

次は何が起きるのやら。
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